第六十ニ鈴 偽りの勇者
魔王を討伐した勇者ハリオと響達一向はメム達が待つ村に帰還するのであった。
魔王城から遠く離れた響達が初めて訪れた村にて村の人達は聞かない地響きに気づいた。
「皆さん見てください!魔王城が崩れてます。ハリオ様が魔王を討伐してくれたんじゃないですか?」
村のギルド受付のメムは遠くで崩れる魔王城を見て周りの人達に叫ぶのであった。
「やったー!ハリオ様ばんざーい!」
「ハリオ様さすがです!」
村の人達は自身の体調の回復、周りの深緑の色わせた景色をみてハリオが魔王を討伐したことを確信した。
「ハリオ様信じてました」
メムは胸に手を当てて深く感謝の思いを込めていた。
◇
崩れた魔王城から響達が歩いて村に戻ろうとしていた。
「これでこの世界での戦いも終わりだね」
「そうだな、結局はハリオが面倒だったってだけだけどな」
「でも一緒に戦えて楽しかったよ!」
モサ子はにっこりと笑うのであった。
「ああ、そうだな」
ハリオはあまり明るくなかった。
「なぁ、響、その相談があるんだが…」
「どうしたのハリオ?」
「俺もお前達と一緒に異世界への旅に連れて行ってもらえないだろうか?」
突然の申し出にみんなは驚く。
「ハリオが私達と一緒に?」
「俺は別に構わないぜ?」
「私もいいよ!」
のなか、モサ子共にハリオの同行を許可した。
「みんながそう言ってるなら私も大丈夫だよ」
響も笑顔で答えた。
「そうか…これでいつでも響と戦えるな!」
「え、やっぱり嫌かも」
「な、冗談だ!」
そんな会話をしながら響達は魔王を抜けた。
「ねぇ、ハリオ、この後この世界はどうなるの?」
「この後の世界か…」
ハリオはあまり乗り気でない様子であったが静かに話し始める。
「平和な世界になる」
「平和…平和か!それは良かったね!」
「俺は魔王討伐により村で歓迎され、一躍有名人になる。その後俺はメムと結婚をして村から少し離れた場所で一緒に暮らすんだ」
「メム…ってギルドの受付にいたメムさんと?」
「そうだ」
「モテる男は羨ましいねぇ〜」
のなかはハリオを茶化す。
「ハリオモテモテだー!」
モサ子も茶化すのでった。
「そうなんだ…。それなのに、私達と旅に出ちゃって大丈夫なの?」
「ああ、メムとの時間はいいものだったが、俺にとっては何か物足りない日々だったからな」
「そうなんだ」
響はハリオの言葉に納得がいってなかった。
◇
響達一行は村への帰り道の途中でルマージと合流して村近くまできた。
「ねぇ、モサちゃん、のなか話があるの」
響はモサ子とのなかに内緒話で話しかけていた。
響達を置いてハリオとルマージは一足先に入っていく。
「何度も繰り返してきてこの村から魔王城が近く感じていたが、こうもみんなで歩いて帰ると長く感じるんだな」
ハリオは今回の旅が最後だと言うことを深く感じていた。
「ハリオ、お前にとっては何度も見てきた景色なんじゃないか?」
「今回は特別だ」
ハリオはそうルマージに言う。
「勇者ハリオ様!お戻りになったんですね!」
ハリオは村から呼ばれる声に気づく。
「あれはメム達か!」
そこにはハリオを出迎えるように村の人達がハリオの帰りを待っていた。
「ハリオ様、魔王を討伐して無事に響様達を救出なさったんですね」
「え、あ、いや、まぁあ。そうだな」
「さすがです。ハリオ様」
メムは響達一行にも頭を深く下げてお礼を言う。
「皆様も無事に帰還してくださいましてありがとうございます。魔王に捕まったと聞いた時は本当に心配しました」
「え、いやー、そうですね」
響は中途半端な返事をした。
「村の人達が皆様の帰りを待ってます。さあ、こちらにどうぞお越しください」
メムは村の広場に響達を連れてきた。
そこには広いテーブルにたくさんの料理が準備されていた。
「うわ〜!!すご〜い!ご馳走だ〜!!」
モサ子は嬉しく飛び跳ねる。
「こら、モサ子!はしゃぎすぎるな!」
「いいじゃんのなか!私達がこの世界を救ったんだから!」
「まぁ、行ったり来たりで一苦労だったしな」
「わーい!いただきまーす!」
モサ子はテーブルの上にある料理を丸呑みしていく。響とのなかもテーブルにつき料理を食べ始める。
「ねぇのなか、ご飯時ぐらいそのスーツ脱いだら?」
「俺は常に警戒を怠らないんだ」
「へー、そうなんだ」
ハリオとルマージも広場で料理を食べ始める。
「美味いな」
「それ!私が作ったんですよ!」
ルマージの言葉にメムが喜んで答える。
「この景色…どっかで見たことがあるな…」
「ハリオ様どうかなさいました?」
「どうしたハリオ?」
「いや、なんでもない。ほらせっかくの料理が冷めてしまうぞ。暖かいうちに食べよう!」
ハリオも料理を食べ始めた。
◇
日が暮れた夕暮れの空。
オレンジ色に輝く空が青く濃いカーテンを敷かれたようにあっという間に景色が変わる。
「な、こ、これが響のやっている修行なのか」
「修行じゃなくてリズムゲームだよハリオ」
ハリオは響から渡されたスマホでリズムゲームをプレイさせてもらった。
「ハリオへたっぴだね!」
「モサ子も同じくらいだろ」
「そんなことないもん!のなかこそハリオよりもへたっぴだよ」
「なんだとモサ子!」
「でも異世界でもソシャゲができるっていうのが奇跡だよね。ああ、俺のスーツの異世界の通信機が生きているからだろうな」
「のなかのスーツを送ってくれてるさりす姫に感謝だね」
「まずそれを開発した俺に感謝して欲しいがな」
響達の他愛もない会話がゆっくりと終わる。
「そしたら、そろそろ時間かな」
響が静かに立ち上がる。
「皆さん、こんなにもおもてなししてくださってありがとうございます」
のなかも後ろから立ち上がり響に続いて話し始める。
「俺たちは異世界を支配しようとしている魔法使い達を止める為に旅をしてる。この世界での異変を解決した今、俺たちは次の世界に旅立たないと行けない」
「そうなんですか。異世界…なるほど、どおりで皆さん変な衣装を着ているなと思ってました」
のなかは少し怒ったが怒りを抑えた。
「ここの世界での冒険すっごく楽しかったよ!みんな元気でね!またねハリオ!」
モサ子が元気よく挨拶をする。その言葉に違和感を感じるハリオ。
「は?…おい、待て、俺も一緒に行くぞ?」
「え?ハリオ様も同行されるんですか!?」
村の人達は驚きを隠せない。
「いや、そのつもりでいたが…どういうことだ響」
響はゆっくりとハリオを見つめて話す。
「ハリオ、ハリオはこの世界から旅立てないよ」
「な、どうして!」
「ほら、こんなにもハリオを慕っている人達がいるんだよ?」
ハリオは周りの人達の視線を見る。その瞳に映るハリオは立派な勇者であった。
「俺は…俺は…」
「ハリオ、メムさんを幸せにしてあげなよ?」
「響?…」
「ハリオ様大丈夫ですか?」
メムはハリオを心配して手を握る。
「ごめんね、モサちゃんとのなかと相談したらハリオはこの世界に残るべきだって話になっちゃって」
「いや、待て、聞いていない。この世界にいたらまた世界に負荷をかけるほど繰り返すかもしれないぞ?」
「それはないよ!あんな爽快に戦ってきたハリオ初めて見たもん」
響は笑顔で応える。
「ま、待て響!俺はまだお前に勝っていないんだ!お前と別れてしまったら、俺は一体何を求めて戦っていけばいいんだ!?」
「ハリオ、周りの人を守る為に戦うのはどうかな?」
「守る為?」
「きっと目に見えた敵だけじゃ無い。生きていくことに苦しいことをみんなで助け合って乗り越えていくんだよ」
「それは楽しいのか?」
「私達と一緒に冒険してどうだった?」
「…。」
「ハリオにはその仲間がこの世界にいるんだよ」
響はハリオを見守るメムやルマージを見る。
「仲間と過ごす時間…良かったな」
ソロでしか戦ってきていなかったハリオにとって響達との冒険はかけがえのない思い出であった。
「またあんな時間を作れればいいな…」
ハリオのその言葉に響は笑顔をむける。
「この言葉が聞けてよかった」
響はモサ子に合図を向ける。
「それじゃあ!みんな!短い間だったけどありがとうね!」
ーーーチリン
響の声にモサ子はスキルを発動してモササウルスに変身する。
「響!俺は!いつかお前を倒すほど強くなる!次出会った時は絶対に負けないからな!」
「待ってる!もちろんフルコンで決めるから!」
響はにっと笑いモササウルスの口の中にその姿は消える。
キンーーー
異世界に通じるゲートが閉じ響とのなか、モサ子はこの世界から旅立った。
「響…」
ハリオは響と戦えないことにショックが隠せなくなった。しかしもうハリオが響に出会う方法は無いに等しいのだ。
「おい、ハリオしっかりしろ。お前がそんな顔してたらこの世界の人達も元気がなくなってしまう」
「ルマージ…そうだな…せっかくこの世界を救ったのに…な!?」
ハリオの目の前に建物の片隅からパンの切れ端を幸せそうに食べるネズミが見えた。
「ふふふ!美味しいの!あいつらについてきて良かったの!」
大きなリボンをつけたネズミは獣人化スキルのミルであった。
ミルは魔王に捕まり魔王と共に戦っていたが、魔王が討伐された後、響達の後をついて来ていた。
「さて、アイツらは一体どこにいったの?あれ!?いつのまにかいなくなってるの!?さては別の世界に行ったの!?」
周囲をキョロキョロを見渡すミル。
「そうなったら私も奴らの匂いを追って別の世界にいくの!」
ヒョイ!
ミルは背後から人間に摘れる。
「はっ!?見つかったの!?」
「おいネズミ、話は聞かせてもらったぞ」
そこにはにっこりと笑顔を浮かべたハリオがいた。
「確かお前は魔王城にいたな。そしてモサ子と同じスキルを使っていたはずだ」
「ひぇ!?よりによってあの時の勇者なの!?」
「お前、異世界へ渡れるか?」
「当たり前なの!ミルは空間スキル保有者アン様の六人の弟子の一人なの!異世界を侵略するのに空間スキル教わったのに異世界へ渡れなかったら笑っちゃうの!」
「つまり、行けるということか?」
「当然なの!」
ミルのその一言でハリオ顔は明るくなる。
「そうか…また響達と戦えるってことだな」
ハリオは周りの人達を呼び集めた。
「みんな話したいことがある。この世界の脅威の元凶は俺だ」
「え?は?どういうことだ!?」
「ハリオ様、あんたがこの世界を救ったんだろ?」
「そうですよ、何をいっているんですかハリオ様!」
「俺は時間を何度も繰り返すことができるスキルを持っている。そのスキルになんの代償もないと思っていた。しかしこの世界の人達に世界の記憶がデジャブとして残ってしまっていたらしい。それが頭痛の正体だ。魔王はその未来を知っていて俺を倒す為に力をつけたらしい。響達が俺に戦いを挑んでくれなかったら俺は今もタイムリープのスキルを使っていただろう」
「な、つまり、頭痛の原因がハリオ様だったってことですか?」
「そうだ。そしてその俺に立ち向かった真の勇者がここにはいる」
周りの人達はキョロキョロを周りを見渡していたが、目線は一直線にある人物に向けられた。
「ルマージお前だ」
「ハリオ…」
「お前だけはどんなことが起ころうとも正義を貫いて魔王にも、俺にも挑んで行った。お前こそがこの世界の勇者だ」
ハリオはルマージの肩に手を置く。
「とても光栄だ。ハリオ。だが、お前はこの後どうする?」
「俺か?俺はもちろん響を追って旅に出る」
「だが、異世界だぞ?お前どうやって…」
「優秀な部下を手に入れた!」
ハリオはミルをヒョイっと持ち上げる。
「ミルはお前の部下になったつもりはないの!」
ミルはジタバタしたのち、
ーーーチリン
スキルを発動してインコの姿に変身して飛び去った。
「危なかったの。また変なやつに捕まるところだったの」
ーーーチリン
ハリオのスキルが発動してミルは再びハリオの手の中に戻る。
「あれ?私今逃げたはずなの…」
「悪いなミル。俺のタイムリープからは逃れないぞ」
「私また捕まっちゃったのー!」
ハリオはミルを軽く摘んで歩き始める。
「ハリオ様!」
メムがハリオを呼び止める。
「どんなことを言ったとしても、私にとってハリオ様は勇者です!どうかこの世界を守る為、残っていただけませんか?」
メムは真剣な眼差しを向けた。
「…メムお前はもう忘れているかもしれないが、遠い過去に俺は憧れた勇者がいた。とても強く、魔王城の途中で負けた俺を助け、魔王を倒してくるれたそんな勇者だ。だが、どんな力に屈しても真の勇者は一番正しい行動をとる。俺にはそれができなかった。メム聞いてくれ、ルマージだ。ルマージこそ真の勇者だ」
ーーーチリン
ハリオはタイムリープの力を使って過去の記憶をメム共有する。
「ルマージ様が…」
メムはエルフであった為タイムリープによる過度な記憶の影響を受けにくい。
「あ…」
だが、ハリオはその記憶をかき消すほどの膨大な巻き戻しを行なっていた為、大事な記憶もメムの中で上書きされていた。
「ルマージ様…」
少しづつ蘇る記憶。そしてそこにいたのは魔王討伐後メムとルマージが仲慎ましく暮らす幸せな世界。
「…分かっただろ?メム」
「…はい」
「ルマージ!」
「なんだハリオ!」
「この世界を!そしてメムをよろしくな」
「ハリオ。初めからお前に頼るまでもない。任せておけ」
ルマージの返答にハリオは優しく微笑みかけミルを連れて村を出た。
「よし!ミル!いいぞ!響達がいる世界に連れていってくれ!」
「もうアイツらの匂い無くなっちゃったの!」
「なんだと!?じゃあ追えないってことか?」
「ミルの勘は鋭くなっているの!甘くみないでほしいの!」
ふんすふんすとミルは響達の痕跡を探して異世界へのゲートを開く。
「きっとここなの!」
「さすがミルだ!頼りになる!」
ハリオとミルの異世界への旅が始まったのであった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
『奇行な勇者編』完結です。元々この章は作る予定はなかったのですがどうしても勇者としてのキャラクターを作りたいと思い急ではありますが入れた物語でした。勇者ハリオは小さい頃に遊んでいた私のオリジナルのキャラクターでした。何度も同じ戦いを繰り返し虚無しか感じられないそんなキャラクターでした。今回響達は主人公でありながらもこの勇者ハリオに視点を置いて物語を進めましたが、それはこのキャラへの思い入れがあった為かとも振り返って感じます。
また、いわゆる異世界という世界を書いてみましたが、具体的な設定や名前など欠落していた点が多く、没入感を阻害してしまっていた点も多くあったと感じてます。記憶頼りでしか物語を書いていないので気づき次第修正します。
改めまして、約半年間『奇行な勇者編』追ってくださった皆様ありがとうございます。
次回の章はこの章の半分くらいの話数で完成しております。また別の世界感をお届けしますので次回もどうぞお楽しみください。




