(4)
「残りの爆弾はあと2つね。時間はまだ多少余裕がある。
爆弾をうまく見つけることが出来れば、時間内になんとか間に合うわ」
言いつつも、沙耶は難しい顔をする。
残りの爆弾のありかの検討がつかないようだ。
「だったら、アタシにちょっと心当たりがあるんだけど」
そう言って手をあげたのはタタミちゃんだった。
「アタシたちに関係してるって言うんなら、それって重軽音部のことじゃないかって。
なんとなくだけど……」
難しい顔をする彼女に対し、沙耶が「どういうこと?」と問いかけた。
タタミちゃんは申し訳なさげにうなずく。
「けっこうウワサになってんだよね。
アタシとタコゾウが部長と組んで立ちあげた新バンドを、ビハレムのジンとセルディスのスミカセンパイが根に持ってるんじゃないかって」
「だとしたら、大ありね。
さしずめ設置場所はライブハウスってことかしら」
ちょうどその時、突然うちのクラスメイトがこちらに向かってかけ込んできた。
「た、大変だぁ~~~~~~~~~~~~~っ!」
おれが「どうしたんだよ」とたずねると、相手は息を切らせながらまくし立てる。
「6つ目の爆弾が現れた!
グラウンドのど真ん中をジンとスミカが陣取って、爆弾をとりつけられたジミーさんを取り囲んでる!」
「「「「なんだってっっっ!?」」」」
思わず全員で声を張り上げてしまった。
言われたとおり、グラウンドのど真ん中に3人はいた。
中央にイスにしばりつけられ、胸のあたりに爆弾をとりつけられたジミーの姿が、両サイドに仁王立ちするジンとスミカの姿があった。
さっそく剣を取り出した沙耶は、しかし難しい顔をする。
「今度のトラップはあの2人と言うことか。
あの2人を倒すのは難しくないけれど、部長が巻き込まれたら大変ね」
「大変どころじゃないよっ!
あの爆弾が爆発したら、いくらなんでもジミーセンパイの命が危ないって!」
タタミちゃんはあわてた声をあげる。
ほとんど不死身に近い死霊族だが、爆弾で全身をふき飛ばされたらさすがに命の危険がある。
不用意に近づくことはできない。
仕方なく、おれたちは付近まで近寄って説得することになった。
リーゼントのジミーはあきらめに近い笑みで、ジンはドクロペイントでにらみつけ、スミカはピアスだらけのどこか複雑な表情でこちらを出迎えた。
ジンはゆっくりと肩にかけたギターを持ち上げる。
「あまり近寄るなよ。
おれがこのエレキで電流を発生させりゃ、部長の爆弾はすぐにドカンだ。わかってんだろうな」
「なんでこんなことをする?
服部はお前らを利用したいだけだ。そんなんでいいのか?」
「そんなことは百も承知だ。
奴が単なる利害で生徒会を利用してるのと同じく、オレ様もこの機会に乗じて利用させてもらっただけだ」
ジンが目くばせすると、スミカは複雑な表情のままうなずく。
「ジミーが活動を再開すれば、結果が出るのは目に見えてた。
当然だろ、ジミーは何度も留年して腕を磨いてきたんだ。
ずっと後輩のアタシたちより人気が出るはずさ」
「ちきしょうっ! ジジイが今さらしゃしゃり出て来やがって!
おかげでオレらのバンドの人気はガタ落ちだっ!」
ジンはさらにまっすぐ人差し指を突き出し、目が丸くなるほどガンつけてきながら静かに告げる。
「即刻、お前らが組んだくだらねえ新バンドを解散しろ。
でなけりゃこのリーゼントの命がねえぞ!」
それを聞き、ジミーは皮肉まじりの笑みを向けた。
「タタミちゃん、おれはもう十分だ。
とっくにあきらめていたひと花を咲かせることで、満足はとうにできた。
もうバンドは解散しよう」
言われ、タタミちゃんはかすれたような悲鳴を上げる。
「それは…イヤですっっっ!」
「なぜだ?
おれのワガママのせいで、お前には迷惑をかけただけじゃないか。
バンド活動を続けることに意味はない」
「いいえ! アタシとっても楽しいんですっ!
久々に本気でベースをはじけて、ジミーさんと一緒にバンド活動できるのがとっても楽しいんですっ!」
ジミーは腑が落ちたように眉間のしわをゆるめ、ため息まじりに言った。
「そうか。
もうストリート・ヴェイグラントは、おれだけのバンドじゃなくなっちまったんだな……」
「おい、聞いてねえのか。
さっさと解散を宣言しねえとお前の命はねえっつってんだよ。早くしろ」
横目でジミーをにらみつけるジンに、タタミちゃんは前に進み出て訴えかけた。
「やめてくださいっ!
ジミーさんはアタシのために、バンド活動を続けてくれると納得してくれたんです!
ドラムのタコゾウにとっても、バンドは大切な存在なんだと思います!」
おれは少しおどろいた。
タタミちゃんがここまで丁寧な口調になるのは、初めてだったかもしれない。
「だいたい、アタシたちとみなさんではファン層がちがうじゃないですか!
ジンさんとカスミさんの両バンドはもともとコアなファン層向けのマニアックな楽曲、それに比べたらアタシたちの曲なんて若干客に媚びた内容だから、より多くのファンがいるように思えるだけじゃないですか!
アタシたちはみなさんのファンなんか奪ってませんよ!」
ここまで相手に気を使う言い方をするなんて、これは完全に初めてだ。
タタミちゃんはジミーとの活動に、自分の青春を賭けようとしているのかもしれない。
その訴えが届いたのか、突然スミカのほうがピンク色のモヒカンをかきむしった。
「あーあーもうやってらんねえっ! いきなり何言いだしてんだテメェはぁっ!」
そう言ってタタミちゃんの方へとズカズカと進んでいく。
ジンは目を見開いた。
「てんめっっ! うらぎんのか……」
「うるせぇっっ!
自分のバンドのファンが減るのが怖いてめえと一緒にすんじゃねえよっ!」
するとスミカはいきなりタタミちゃんの胸のあたりに人差し指を突き立てた。
どうでもいいがその勢いで胸のふくらみがへこんでなんともエッチな気分にさせられ……いやなんでもない。
「お前はいったい何を考えてやがんだっっ!
お前には、もっと大事なことがあるんじゃねえのかよっ!?」
一瞬キョトンとするタタミちゃん。
それを見てスミカは心底うんざりしたように顔をしかめた。
「……生徒会のことだよ。
お前ら、あいつらとやりあってんだろ? そのことを忘れたのか?」
言われても、タタミちゃんはまっすぐ相手を見据えただけだ。
「おい、わかんねえのか?
特にあのくそ気味わりいマスクの書記って奴、アイツ裏伊賀の跡取りなんだろ?
だったら、裏甲賀のお前の相手ってことじゃねえか」
裏伊賀と聞いて、おれはピンときた。
服部もその名の通り、あの服部半蔵の直系子孫だ。
表と裏の伊賀の代表格。つまり奴らの接点はここにあったわけだ。
「お前がケンカを売る相手は、アタシじゃなくてあいつらなんだよ。
なのにノンキにベースはじいてる場合か。
お前もやるべきことがあるんなら、もっとそっちの方をベンキョーしろよ」
おれは少し感心させられた。
スミカ、さんは嫌いな相手には冷たいが、気にいった相手にはとことん面倒見がいいと言う話は本当のことのようだ。
少し乱暴ぎみでも、その裏には相手を気遣う度量がある。
ここで沙耶のほうが腕を組んで話に加わった。
「わたしもスミカさんの意見に賛成だわ。
わたしたちには新介君を守るために生徒会を打ち破ると言う、大事な使命があるの。
バンド活動が楽しいのは理解できるけど、今はそのことにうつつを抜かしてる場合じゃないわ」
「……うつつを抜かしてなんかないっ!」
ところが、タタミちゃんはクルリとうしろを向くと胸に手を当てて切実に訴えてきた。
「ジミーさんは、いつこの学園を去るのかわかんないんだよっ!?
アタシがこの人とバンド活動できるチャンスは、今しかない!
全然のんきじゃないし、アタシ、バンド活動だって必死にやってんだよっ!」
今にも泣きそうなタタミちゃんに負けじと、沙耶も冷徹に彼女を見返す。
「タタミ、わたしだってこんなこと言いたくない。
だけど聞いて。あなたにとって、本当に大切なことはなんなの?」
「沙耶。
カン違いしてるようだけど、アタシ忘れてないよ?
アタシ忍術の修行だってなまけるつもりなんてない。
新介だってアタシにとって大事な仲間だもん。
後悔しないように、そっちだって一生懸命がんばる!」
「忍道と、バンド活動を両立できるって、本気でそう思ってるの?」
試すような視線を向ける沙耶に向かって、タタミちゃんも同じ視線を返す。
「やる。2つの活動を両立させてやる。
絶対両方、一生懸命がんばってみせる」
ここでスミカがあきれ返って両手を上にあげた。
「ふっざけんな。
アタシだってバンドだけで一生懸命なのに、両立なんてできるか。
お前気持ちだけで全部やりきれると思ったら大間違いなんだよ」
「……もういいだろ。
2人とも、タタミちゃんのことを許してやれよ」
おれが声をかけた。
沙耶もスミカも不審げな目をこちらに向ける。
「なんで2人ともタタミちゃんの気持ちをわかってやれないんだよ。
おれなら大丈夫だ。いざという時は自分で自分の身を守るからさ」
「あなたはあいつらの力がよくわかってないからそんなこと言えるのよ。
あいつらは、生半可な考えで太刀打ちできるほど甘い連中じゃないのよ?」
「沙耶、お前だって剣術と勉強を両立させようとしてんじゃないか。
人のこと言えるか?」
「……しまったっ!
自分のことを棚に上げてたわっ! わたしなんてことをっっ!」
突然頭をかかえた沙耶をクスクス笑いながら、おれはスミカのほうを見た。
「1つのことを一生懸命頑張るのも大事ですけど、それじゃ肩ヒジ張ってませんか?
タタミちゃんは真剣です。決してふざけてるわけじゃない。
世の中には2つのことを一生懸命両立させてる人だって、現実にいるとおれは信じてます。
それとも、それ自体がふざけてることですか?」
スミカは顔をしかめて頭をゆすった。
「もうどうでもいいよ。
コイツが言っても聞かない強情な奴だってのは心底わかった。もう興味ねえよ」
しかし、言いながらも後ろの方へと振り返る。
「問題は、お前だよジミー。
こんなふざけた奴に、自分のとなりを任せちまってもいいのかよ?」
言われ、ジミーは仕方ないと言わんばかりに鼻で笑った。
「大丈夫だ。彼女の必死さは痛いほど伝わってるよ」
そしてタタミちゃんのほうを向いて名前を呼び掛けた。
彼女が振り返ると、真剣なまなざしでまっすぐ見据える。
「タタミちゃん。
今やれることを、一生懸命やってみろ。絶対に後悔するなよ」
一瞬困った顔をしたタタミちゃんだが、しかしすぐに胸のところに握りしめた拳をかかげた。
「はいっ! ジミーさんにも絶対迷惑をかけませんっ!
絶対に納得のいくプレイをしてみせます!」
「それとだ。
もし息づまるようなことがあれば、迷わず新介を優先しろ。
奴は命がかかってる。そのことを絶対に忘れるなよ?」
クギをさされたタタミちゃんはすぐにこっちを向いたが、おれは首を振る。
「おれのことなんか気にするな。
タタミちゃんがやりたいことをやれれば、それでいい」
「ゴメンね。アタシ、わがままで。
でも、絶対両立させてみせるから」
申し訳なさそうな顔をするタタミちゃんに、おれは笑みを浮かべて見せた。
つられて彼女も照れくさそうに金髪をなでながら笑みを返す。うん、こっちもたまらなくカワイイよ。
いっぽう、スミカは深くため息をつきながらジンのほうに振り返った。
「ってわけだ。こりゃムリだな。
ジミーのバンドは少なくとも今年いっぱいはバリバリだな」
すると、ジンの様子がおかしいことに気がついた。
顔を伏せたまま、全身からわずかに電流をほとばしらせている。
「……できねえ。納得なんぞ、できねえ……」
顔をあげたジンは勢いよくギターに両手をかけた。
「お・れ・さ・ま・はっっっ! ぜったいっっ、納得しねぇぇ~~~~~~~~っっっ!」
そう言って片手を勢い良く振り回す。
今にもギターの弦をかき鳴らしそうな勢いだ。
「あぶないっっっ!」タタミちゃんがおれの身をかばうように抱きついた。
その瞬間に彼女の胸のふくらみが顔にムギュッと押し付けられた。よっしゃぁ!
一方で沙耶は思い切り奴の前に飛び出すが、先手を越された。
「ブオラァァァァァァァァァァァァァァッッッ!」
大きく飛び跳ねながら思いきり叫んだスミカの口から、空気のゆがみが現れた。
それは勢いよくジンの全身をつつみこみ、大柄なはずの肉体を軽々と吹っ飛ばす。
「後はわたしに任せてっ!」
そう言って先に進み出た沙耶が、起き上がろうとしたジンに向かってまたたく間に剣を抜き放つ。
とたん、ジンの首からかけていたギターが真っ二つに断ち割られた。
「……なぁぁっっ! オレの、オレのレスポールがぁぁ~~~~~~~~っっっ!」
絶望感たっぷりにギターを持ち上げる
「バンドはしばらく活動中止ね。
もしわたしたちに手を出すことがあれば、次はもっとひどい目にあうわよ」
「わかったぁ、わかったからぁぁ、許してくれぇぇ~~~~~~~っっっ!」
言うなり土下座するジン。
腕を組むスミカが「なっさけなっ!」とは言いつつも、どこか同情するような目つきになる。
ここではっとしたタタミちゃんが、「大丈夫っ!?」と言っておれの身体から離れたが、こちらの顔をうかがった瞬間にしらけた顔つきになる。
「うん、グッジョブ。暗塵の奴が自慢するのもよくわかるぞ」
鼻から血を流して笑顔で親指を立てるおれの姿を見て、タタミちゃんは深いため息をついて首を振る。
ジミーさんを爆弾から解放したところで、タタミちゃんが突然声をあげた。
「げっ! ヤバッ! もうあと5分くらいしかないよっ!?
どうしようアタシがモタモタしてたせいでっっ!」
ジタバタするタタミちゃんの姿を見て、ヒャッパが突然声をかける。
「最後の爆弾だけど、もう検討ついてんだよな。実のところ」
「あと、時間はあまり気にすることないぞ」
おれがさらに付け加えるとヒャッパまでおどろいた顔を向けてきた。
「おらぁぁ~~っっ! 結城ぃぃ、あと5分しかないぞ5分っっ!
早くしてねえと最後の爆弾がドカンと行くぞおらぁぁぁっっ!」
「ふぅ、どうせ最後の爆弾は時間が経っても爆発しないんだろう?
なんといっても、自分の身を守るのに必須なんだからな」
いきりたつ服部のそばで自動音声が聞こえる。
その主は、最近すっかりおとなしくなったオックスフォード出身の変態博士、フランク・スタイナーだ。
その胸にはちゃっかりと最後の爆弾が取り付けられている。
英語でしゃべる博士の通訳機器はため息までしっかりと音声に現す。
「ふう、なんでこの私が通信機器の取り扱いまでせんといかん。
私は本来生物学の権威だぞ?」
「なに言ってんだ。
アンタの方がぴったりなんだよ。7つの大罪のテーマにはな。
アンタの死霊族に対する扱いなんざ、まさに傲慢そのものじゃねえか」
「君こそ何を言っている?
君だってネクローバーに対して嫌悪感をあらわにしているではないか。
だからこそのこの振る舞いなのだろう?」
言われ、服部はむしろほめられたようにふくよかな胸をそらして高笑いする。
「ハハハハハッ! 言ってくれるね! だったらアタシも傲慢ってわけだ!
だからこそここにいるのかもしれねえな、アハハハハハハッッ!」
2人がいるのは、科学技術研究棟の屋上。
巨大な電波塔の真下、それに比べたら豆粒にしか過ぎない服部たちは通信用の機材に囲まれている。
「……そこまでだっっ!」
それまでこっそりと身をひそめていたおれたちは2人の前に一気におどりでた。
「おいおい、なんだよ。最後の最後になってようやくお出ましか。
ま、今日の授業のラストを飾るにふさわしい展開だわな」
「なにが授業だよっ! うちの学校全体を振りまわしやがって!
責任は存分にとってもらうからな!」
おれが訴えかけても服部は余裕たっぷりの笑みを浮かべ、軍服のボタンをはずしにかかる。
ものすごい胸の谷間があらわになり、そこから赤いボタンがついた金属製の筒を取り出す。
一方でタタミちゃんがしらけた声をあげた。
「……新介。なんで服部の胸の谷間を見たとたん顔をそむけんの?
ひょっとしてあんなヤツ相手に意識しちゃってる?」
沙耶もしっかりジト目を向けている。おれは心底困り果てた。
「し、しょうがねえだろっ!
思い切り嫌いな奴でもああいうの見るとコーフンしちまうんだよ! おれだって悔しいんだからカンベンしてくれっ!」
「ハハハハハ! 残念だがそれが思春期ってヤツだよ!
ところで、一歩でも近づいたらこの爆弾がドカン、フランクの命がねえぞ?」
「……やれるもんならやってみれば?」
おれがそっけなく答えると、スタイナーの地声と自動音声が同時に「「なっ!」」と言った。
「爆発させてみりゃいいじゃん。
生物学教師なんて、他にいくらでもいるんだし」
「なんじゃそりゃ。
他人ごとなのになんか聞いてるこっちまで傷つく一言……」
服部はなぜか神妙な顔になっていた。
「バカなっ!
このオックスフォード出身の生物学会の権威に対して、か、代わりが効くなどとはっっ!」
心底おどろいたふうのスタイナー。しかしおれはすっとぼけてみせる。
「んなこと言われたって、本性はイカれた変態博士だしな。
代わりの先生はもっとまともな神経してるかもしれないし」
言われた博士は、何も言わずにプルプルと拳をふるわせる。
とたんに服部が表情をくずした。
「ハハハハハハ! 言ってくれるじゃないか。
結城、お前もなかなか辛辣な奴だな!」
「笑ってないで、お前も爆弾から離れたらどうだ?
そんなところにいたらお前まで巻き込まれるぞ?」
ところが、服部はわざとらしく耳をこちらに向け手をかざした。
「は? なに言ってんだお前?
わかってないな。この爆弾でとられてる人質は2人。フランクと、このアタシ自身さ。
その辺よくわかってる?」
おれは思わず「なっ!」と声を発した。
スタイナーも思わず横目を向ける。
「なっ、君は、自分の命が惜しくないのか?」
「ヒャハハハハッ! 惜しくなんかないね!
アタシはゲームを楽しめれば、それでいいのさ。
ヘタこいて死んじまってもそれはそれ、仕方ねえさっ!」
あくまでも高笑いする服部を見て、おれはゆっくり首を振る。
「救われない奴だな。
いくら不憫な生い立ちだからって、そこまで人生に悲観的になるかよ」
服部はこちらに向かっていびつな笑みを浮かべる。
「悲観? きれいごと言ってんじゃねえよ。
人生なんてあっけねえもんなんだよ。幸福だろうが不幸だろうが、死んじまえば全部なかったことになっちまう。
だったらいっそのこと、善悪なんてつまんねえこと考えてないで、自分の生きたいように生きたほうが……」
「もうおやめ下さいエリザベート様っ!」
ここでヒャッパが進み出た。
いつになく切実な表情で訴えかける。
「あなたのご不幸は、このオレがお察しします!
ですからこれ以上の暴挙はおやめ下さいっ! あなた様にはこのわたくしが……」
「うるせぇこのブサイクチビッッ!
お前みてえな情けない奴に同情されたところでなんとも思わねえんだよっっ!」
最大限の侮辱をされたはずなのに、ヒャッパはむしろ感極まったかのようにウルウルしている。
服部となると奴はかなりのドMを発揮するらしい。
「……エリザベートさまぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~っっっ!」
両手を思いきり広げ、全速力で駆けだした。
それを見た服部はドン引きする。
「く、来るんじゃねえっっ! 爆弾を爆破させっぞっっ!」
ところが、持ちあげた金属の筒は先でプツリと断ち割られた。
見れば、タタミちゃんがすかさずクナイを投げつけたようで、投げた後の姿勢のままするどい視線を向ける。
「動揺しやがったな服部。今のはスキだらけだったぜ」
「エリザベート様ぁぁっっ!」
無防備になった服部はヒャッパに組みつかれる。
彼女はチビを引きはがそうとするが全く歯が立たない。さすがは小柄でも死霊族だけのことはある。
「はっ、はなせっっ!」
「離しませんっ!
あなた様がわたくしの心をお分かりいただくまで、絶対に離しはいたしませんっっっ!」
それでも服部は必死に引きはがそうとするが、すぐに「はっ!」と顔を前に向けた。
目の前には腕を組む沙耶とタタミちゃんの姿が。
「ちきしょうっ! ふざけんなっ!
こんなマネをしてただですむとでも思ってんのかぁぁっっ!」
空中にしばりつけられた服部は、真っ赤な下着姿にされていた。
ムチムチした胸とおしり、そして引きしまったウェストのギャップがなんともまぶしい。
「真っ赤な顔になって言うことですか?
いいカラダしているじゃないですか。減るものでもないし、せっかくだからみんなに見せつけたらよろしくて?」
言いながらなぜか興奮している沙耶の周囲では、数多くの男子生徒が顔を真っ赤にして写メをとりまくっている。
「みなさ~ん! 服部のあられもない姿を、大公開中で~すっ!
遠慮なくバシャバシャ撮ってやってくださいね~っ!」
大手を振って呼び掛けるタタミちゃんの横では、ヒャッパが悲痛な表情で両手をスリスリこすりあわせている。
「なんともおいたわしや。
しかし、これもエリザベート様の御身のため。
どのみち神々しいお姿をしておられるのだから、飢えた男どもの視姦くらい耐えておくんなまし……」
「おらドチビィィィィィッッ!
てめえまでなにげに裏切ってんじゃねえっっ!
どうせお前もガン見してえだけじゃねえのかオラァッっ!」
おれもなんとなくガン見していると、突然背中を押された。
「ほらほら、新介はあっち行った行った!」
「あまり見つめないでくれる?
いくら成長期のただなかと言われても、あんなのと比べられるとくやしい気持ちがわきだしてくるんだから」
グイグイ背中を押すタタミちゃんと沙耶に、おれは振り返って呼び掛けた。
「い、言っとくけどお前らのプロポーションだって、なかなかのもんなんだからな?
男は単純に大きさじゃなくて、バランスで判断するからな。その辺、わかってるよな?」
「……あのねえ新介、シバくよ? エロい発言しすぎ」
「今日の新介君、鼻の下伸ばしすぎね。
ここはしっかりと矯正しておかないと」
「仕方ねえだろっ!
思春期の男はなにを見ても興奮するんだよっ! 男の性っっ!」
必死に抗弁しながらも、どんどん引きはがされていくおれ。
それは別に全然悪くないのだが、後ろから呼びかけられる服部の声が引っかかった。
「覚えてろよお前らぁぁぁぁっっ!
またいつか、目にものを見せてやるからなぁぁぁっ! 今度は本気で殺すつもりで行くぞコラァァァァァァッッ!」




