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(3)

 校長室の爆弾を解除するのに、多少時間を食ってしまった。


「うちの学校で爆弾を解除できるのはヒャッパくらいなもんだ。

 だから残りの4つの爆弾は、おれらが向かわない限りどうにもできないぞ」


 キースの呼びかけにおれはうなずく。


「残りのテーマはなんだったっけ?」

「おそらくは傲慢、嫉妬、怠惰、色欲だ」


 影乃が言い終わるのを待ってタタミちゃんがふてくされる。


「あのさー、食堂の爆弾はあきらかにやけ食いがテーマでしょ?

 って育ちざかりの若者をディスってんじゃねえよっ! それともただの数合わせかっ!」

「変なこと言ってないで残りの爆弾の場所を考えてっ!

 もうすぐ半分の30分になっちゃうわよっ!?」


 沙耶の言う通り、時計はもう30分に差しかかろうとしていた。

 校長室の爆弾を解除するのにとまどっていたせいで、解除した爆弾はまだ半分にも到達していないのだ。


 ここで突然スマホが鳴りひびいた。

 ヒャッパが自分のものを取り出すと、耳に当てる。


「はいはいヒャッパです。寮長ですか?

 え? 塔の中を探しても爆弾が見つからないっ!?

 そんなバカな、爆弾は7つの大罪のテーマ通りに配置されてんですよ?」


 おどろきの事実に、おれたちは思わず外を見た。

 そこにはちょうど寮と呼ぶには立派すぎる中世ヨーロッパの城がそびえ立つ。

 その門前に、なぜか清掃担当のオスカーが上を向いてつっ立っていた。

 足は自然とそちらの方へと向かう。


「……そうですか、オスカーさんは確信があると。

 では爆弾は確実に塔の中にあるはずなんですね?」

「どうしてあの潔癖症(けっぺきしょう)がそこにあると言いきるんだ?」


 問いかけると、ヒャッパはこっくりとうなずいた。


「オスカーの特能は『イレギュラーサーチ(特異物探知)』だ。

 いかにも奴の性格に見合った能力だな」

「なんだか今日は知り合いの秘密が次々と披露(ひろう)されてくな……」


 靴に履き替えて外に出ると、ちょうどおれのスマホが鳴った。

 すぐさま耳に当てると……


『おいおい、結城。まだ爆弾は4つも残ってんだぞ?

 残り30分でどうやって解除するつもりだ?』

「……服部っっっ!」


 全員がこちらの方を向いた。おれは一瞬だけ目を向ける。


『ちゃんとしっかりやってくれよ。

 こっちはいろいろ趣向こらして爆弾しかけてんだよ。

 一通り目を通してくれないとせっかく仕掛けたトラップがおじゃんになっちまう』


 おかしなことに気がついた。

 服部の声は耳につけていないスマホの反対からも聞こえてくるのだ。

 沙耶たちもどこかそわそわしている。


「……あっっ! お前おれとの会話をスピーカーで流してるだろっっ!」


 おれがスマホを耳から離すと、服部の甲高い笑いがそこらじゅうで聞こえてくる。


『ヒャハハハハハハッッ! 気付くのがおせえってっ!

 そうだよ! この会話は校内の皆様に絶賛放送中だっっ!』

「こっぱずかしいマネすんなっ!

 なんでお前との会話を同時中継されなきゃなんねえんだよ!」

『はぁ!? なに言ってやがる!

 こいつはお前と狛田村のために用意したイベントだぞ? ゲストが表舞台に立ってくれなきゃ困るんだよ!』


 おれが舌打ちをすると、情けないことにスピーカーにしっかりひびいてしまった。


『お前らがあんまりチンタラしてるんで、残りの爆弾のヒントを与えてやるよ。

 まずお前らが見当をつけている『色欲』の場所はだいたいあたりだ。

 だけど探してる個所が根本的に間違ってる。もっといろんな手段を駆使(くし)して徹底的に当たってみろ』


 思わず城のほうを見ると、オスカーがこちらの方へとゆっくり歩いてくる。


『それと、校長室に仕掛けた爆弾が『強欲』だってことには気付いたか?

 つまり『傲慢』はまったく別の場所に配置されてるってわけだ。これが2つ目のヒント。

 後は『怠惰』と『嫉妬』。こいつに関してはよほどの事情通でないとわかんねえな。ま、お前らはその場所を知ってるはずだ』

「わたしたちが事情を知ってる?

 と言うことは、今までわたしたちが訪れた場所にその2つの爆弾があるってこと?」


 沙耶の声を聞き届けて、おれはスマホに向かって声を発した。


「もっとヒントをよこせよ」

『ヒャハハハハ! 無理に決まってんだろ。

 これでも与えすぎだと思ってんだよ。

 それじゃ、アタシはもう切るから、後はがんばれよ。じゃあな!』


 ブツリと音声が途切れる音は聞こえていたが、おれはそれでも声をあげた。


『おいっ! 待てよっ!

 勝手に通信を切るなっっ! おい待てってばっっ!』


 こちら側の中継はまだしていたらしく、おれの声がむなしくスピーカーに響き渡る。

 しかしそれもまたブツリと言う音を立てて消えてしまった。


「クソッ!

 おれをもてあそんでるつもりらしいが爆発すりゃ他のみんなにも被害が出るかもしんねえんだぞ!?」


 すると目の前にいたオスカーが背後にある城のほうを親指で差す。


「つべこべ言ってないで早く城の爆弾を止めろ。

 あんなふしだらな塔などどうでもいいが、爆発すれば他に被害が及ぶんだ。

 城の外観に傷がつくのはゴメンだ」

「わかってるけど、内部にはなにもないんだろ? だとしたらいったいどこが……」


 キースは言うが、おれには心当たりがあった。


「外側はどうだ? そっちの方はまだ洗ってないんだろ?

 服部は伊賀忍者なんだ、外から爆弾を張り付けるくらいどうってことないはずだ」


 オスカーはそれを聞いて腕を組んだ。


「なるほど、でも今から塔をよじ登って爆弾を探す時間はないぞ?

 そんなことをしたらあっという間に時間が過ぎてしまう」


 ここで、タタミちゃんが突然指をパチンと鳴らした。


「あっ! それだったらぴったりの人がいるっ!」





 現れたのはタタミちゃんと同じ忍術サークルに所属する迷仲遊騎奈(まよなか ゆきな)先輩。

 当然服部とも因縁があるので、うんざりした表情の彼女は緑色を下ふわふわウェーブのロングヘアをさらりとかきあげた。


「まったく。まともに訓練させてもらえないと思ったら、またこんなくだらない企画立てやがって。

 いつまでたっても自分勝手な奴ね」

「でもセンパイ、服部が姿を見せなくなっていい気休めになるって言ってたじゃないですか」


 タタミちゃんがのんきに言うと、ユキナさんは眉をひそめた。


「うるさい。

 それより爆弾を外側から探せって? ずいぶん面倒なことをたのむわね」


 部活の後輩に妙に厳しいユキナさんだが、相手はすんなりとうなずく。


「はい、できればここにいるうだつの上がらないチビもつれてってほしいんです。

 爆弾を解除できるのは今のところコイツしかいませんから」


 そう言って首根っこをつかまれ不機嫌ぎみにタタミちゃんをにらみつけるヒャッパを見て、ユキナは仕方なしにうなずいた。


「ひと1人まで持ち上げるのか。

 キビしいけど、こんくらいのチビならなんとかなるか」

「さっきからチビチビって。

 事実は認めるにしても言われると傷つくんですけど……」


 ふてくされるヒャッパの首根っこを、ユキナさんは容赦なくタタミちゃんから受け取る。

 すると彼女の緑色の髪がふわりと舞いあがり、突然目の前から消えさった。


「あれっ!? ユキナさんっ!? どこに行った!?」


 タタミちゃんが「あそこ」と指差す先には、すでに城の目の前までかけぬける彼女の姿があった。

 ヒャッパをつかんでいるにもかかわらず軽快な足取りで城の重厚な壁に迫ったとたん、またたく間に垂直の壁をかけあがってしまう。


「あれがセンパイの能力、『スカイハイ(軽功(けいこう))』。

 センパイがその気になりゃ重い荷物も空気同然、身体はありえないくらい軽くなってどんな場所にも行けるんだよね」


 タタミちゃんの言う通り、あっと言う間に屋根に到達した彼女はその後も例の塔を周回しながらよじ登っていく。

 片手にヒャッパを持ち上げているにもかかわらず、あまりにも軽快な足取りだ。


 またたく間に塔の鋭い頂点に到達すると、彼女はまっすぐ手を上にあげた。

 爆弾が見つかったという合図なのだろう。


「スゲェな。それにしてもあっけなく見つかったもんだな」


 額のところで手をかざし塔をうかがうおれに対し、沙耶はむずかしい顔をする。


「服部にとっては、単純な遊びなんでしょうね。

 彼女は自分の弟子が軽功使いであることも当然知ってる。

 塔の外側に仕掛けた爆弾がすぐに発見されるのも想定済みのはずよ」

「遊ばれてる。完全に遊ばれてるな……」





 4つ目の爆弾があっけなく解除されたので、残りの場所を推理する余裕がちょっとだけ生まれた。


「残りは、傲慢、怠惰、嫉妬か。

 そのうちの2つはオレたちにも関係している? だとすればどこのことだ?」


 影乃に続き、沙耶も深く考え込む顔になる。


「思い当たるのは、わたしたちがよく向かう場所ね。だとしたら部活動かしら」


 言われ、おれは思わず手をポンと叩いた。


「あっ! だとしたら怠惰は野球部だ!

 あいつら授業サボって練習ばっかしてるもん!」

「あてずっぽうの気もするけどあり得るわね。さっそく向かってみましょうか」





 向かった先は大変なことになっていた。とは言っても想像とは全く別の光景だった。


 野球部は爆弾をまったく探しておらず、それどころかいつもと変わらず普通に野球の練習をしているのだった!


「何やってんですかぁぁぁぁっっ! あんたらなんで爆弾を探しに行かんのかいっっっ!」


 こちらを向いた先輩たちはみんなあっけらかんとしている。

 主将までそうだ。


「俺たちには関係ないだろ。どうせ爆発してもおれらが死ぬわけじゃないし」

「そんなこと言ってるから服部に怠惰扱いされちまうんですよっ!

 間違いない、絶対に間違いない! 5つ目の爆弾は絶対にここだっっ!」


 言われ、非道丸は初めて「本当なのか?」とうたぐりぶかげな顔になる。


「爆弾はここにいるヒャッパにしか解除できません。

 奥にある野球棟の中は調べましたか?」


 沙耶に問いかけられ主将は首を振る。

 おれは沙耶が指差す遺跡のような不気味な建物を見てうんざりした。


「ヤダ……おれあんなかに絶対入りたくない……」





 そんなこと言っても仕方ないのでしぶしぶ中に入ると、案の定俺が最も嫌いな場所にそれはあった。


「服部の奴めっっ!

 よりによってこの俺が信奉(しんぽう)する偉大なるクトゥルー神の像に爆弾を仕掛けるとはっっっ!」


 非道丸が激昂(げっこう)する通り、爆弾はタコの頭をした石像の胸のあたりに仕掛けられていた。

 もっとも爆弾の周囲には赤いレーザーが張り巡らされており、おそらくこれがトラップだと思われた。


 ためしにキースが石ころを拾い上げると、石像に向かって真っすぐ投げつけた。

「なにをするっ!」と叫ぶ主将をよそに、レーザーをかすめたとたんにパアンッ! と言う音をあげて石ころは無残に飛び散った。


「レーザーの先に機銃が備えてあるようね。

 あれだけの数、1つ1つ解除していくのは難しいわ」


 沙耶が言うと、1人が前に飛び出した。


「だったらこのオレ様にまかせやがれ!」


 おれや影乃と同じく、1年生でピッチャーを任されている幻豹摩(まぼろし ひょうま)だ。


「久しぶりにこの力を使う機会だ!

 オレ様の能力、『アシッドブラスター(硫酸砲りゅうさんほう)』!

 目をかっぽじってよく見とけよ!」


 そう言って息を思いきり吸い込むと、おかしな現象が起こった。い

 つもは包帯でぐるぐる巻きにしている豹摩の頭部全体から、またたく間に湯気のようなものが起こったからだ。


「パパウッ! パウパウッッ!」


 豹摩が吐き出すようにして叫ぶと、口の中から勢いよく何かが飛び出した。

 それがはるか向こうにあるはずの機銃に見事にヒットすると、そこから激しく蒸気が湧き立ち赤いレーザーが見えなくなってしまった。


 威力もすごいが、飛距離と正確さもすごい。さすがは野球部のエースピッチャー。

 石像の大広間はあっという間にレーザーの束は消えて代わりに蒸気だらけになった。


「念のため安全を確認しつつ、ゆっくりと接近しましょう」


 沙耶が先頭になって、何人かが石像のほうへと向かう。

 ヒャッパはちゃっかりと後ろの方に張り付いていた。

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