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あきらめが悪いのは正義の味方だけとは限らない(1)

「はははっ! すっげぇな!

 20点差以上のコールドゲームだって!? アンガクナインもやるじゃねえか」


 キースは背もたれにもたれかかりながら楽しそうに校内新聞に目を通すが、俺は机の上にアゴを乗せながら顔をしかめる。


「やりすぎた。

 初出場のチームでここまで好成績を出すのはまるで奇跡みたいだよ。

 おかげでせっかくのノーマークだったのにテレビ局が取材したいってやたらうるさい」

「お、それで帰りが1日遅くなったのか。で、取材のほうはどうだった?」

「断りたいところだったけど、無理だった。

 でもさすがにメンバーを取材するのはムリだから、おれが代わりに矢おもてに立った。

 おれも中学時代は全国出場の経験があっからな」


 後ろでヒャッパがタブレットをいじりながら目を光らせる。


「お、おもしろいな。

『中学全国出場の猛者(もさ)、廃部の危機を救うためにふたたび立ち上がる』。

 って言うかなんだよこれ。あからさまにヒーロー扱いじゃねえか」

「仕方ないだろ?

 人間離れしたメンバーに目が向かないようにするにはおれが目立つしかねえんだよ。

 許可した取材の大半もおれがメイン。おかげで他のみんなが目立たなくてすんだけどな。

 みんなものすごい勢いでカメラの前に出ようとしてて、公安の人が必死で止めてたけどな」

「ハハハハ、そりゃケッサクだな。

 で? 久しぶりのテレビ出演はどうだった?」


 人ごとのように言うキースに向かって、おれは思い切りため息を吐いた。


「疲れたもクソもねえよ。

 うちの家族やら地元の友達から電話がかかりまくって、大変だったんだからな。

 お袋なんか泣きだしちゃって『てっきり甲子園はあきらめてたと思ってたから、うれしくってうれしくて』だってさ。

 甲子園なんかまだ出てねえよっっ! 気がはえぇよっっ!」


 キースとヒャッパがギャハハハハと笑う。

 人の不幸を笑いやがってと思いながらも、こうして話を聞いてもらえるのはありがたいなとも思えてくる。

 すっかり連絡が取れなくなった地元の友達と久しぶりに話ができたのも相まって、友達と言うのは本当に大事だなとつくづく思い知らされた。


「ねえねえこれ見てぇっっ!」


 突然話に割り込まれた。

 タタミちゃんが満面の笑みでプラスチックの容器を突き出してきた。


「これ、アタシたちのバンド、『ストリート・ヴェイグラント』のデビューアルバムっ!

 聴いて聴いてっっ!」


 キースは心底面白くない顔でタタミちゃんをにらみつける。


「おい、話聞いてないのか? 今の話題は野球部のコールド勝ちの話だぞ?

 新介を差し置いて自分の話すんな」

「知るかそんなこと。

 アタシはアタシで一生懸命やってんだからこっちにも注目してよ」

「タタミちゃん、自分の活躍の話だったら人の話なんてどうでもいいのね……」


 おれが涙ながらにうったえかけても、タタミちゃんはわざとらしいくらい知らんぷりをした。

 と思ったら、身を乗り出しておれの顔の前にアルバムを突きつけてくる。


「それより、絶対聴いてよ!? これ、すっごくいい仕上がりなんだから!」

「う、うん。いちおうありがたく聞かせていただくよ」


 そう言ってこころよくアルバムを受け取る。

 タタミちゃんの曲を聴けるのはまんざらでもない。

 むしろこうやって自分の好きなことに打ち込める彼女を見るのはとてもうれしい。


 ところが、おれのとなりではパンッ! と音が立つぐらいに呼んでいた本を閉じた沙耶がいた。

 タタミちゃんのほうを見るなり不機嫌な顔になる。


「タタミ、音楽を続けるなとは言わないけど、もう少し忍術のほうにも精を出したら?

 エリザベート服部の忍術サークルは少人数なんだから、あなたがいなくなると遊騎奈(ゆきな)先輩たちが苦しむことになるわよ?」

「ああその話? それがちょっと不思議なことなんだけど……」


 困った表情のタタミちゃんが、落ち付いた調子で自分の椅子に掛け直した。


「服部のヤツ、最近休みがちなんだよね。

 サークルはただいまセンパイたちだけで自主練習中」

「服部が休み?

 あんな死霊族をいじめるのを生きがいにしてるような奴が、サークルをほかりっぱなしにするのか?」


 納得がいかないと言わんばかりのキースに、ヒャッパは軽くバカにするような目を向ける。


「今に始まったことじゃないだろう。

 新介が参加したあの『デストラップ事件』以来、エリザベート様は体育の授業をご遠慮されているようだ」

「……相変わらず服部の話題になると丁寧(ていねい)な口調になるなお前は」


 いつも沙耶ちゃん沙耶ちゃんと言っているヒャッパだが、本命は服部らしい。

 ヒャッパはグラマー美人にことのほか弱い。

 確かに旧ドイツ風の軍服に包んだボディはだいぶワガママだが。


「奴が体育の授業をしなくなって、もう1人の体育教師はやりくりが大変みたいだがな。

 しかし、あのあとも忍術サークルは続けてたんだろ?」


 キースにうながされ、タタミちゃんも眉をひそめる。


「そ。だからおかしいんだよね。

 なんで急にサークルのほうまで休むようになっちゃったのか」


 そのうち、まわりが頭をかかえ出したおれの存在に気がついた。

 沙耶が問いかけてくる。


「どうしたの? 何か心当たりでもあるの?」

「あるもクソもねえだろ。

 考えられることは1つ、奴がリベンジを企んでるとしか考えられない……」


 言われ、キースがおもむろに時間割のほうを向いた。


「そう言えば体育の時間が近づいてるな。

 さっきも言ったけど、最近は別の体育教師が担当になってずいぶんまともな授業になってるが……」

「そろそろ事件が起こってもおかしくないんじゃないか?

 この調子だとそろそろ放送でも入って……」


 突然スピーカーがキィーン、と甲高い音を立てた。

 あまりにうるさいのでおれどころかクラス全員が耳をふさいでしまう。


『……ギャハハハハハハァァッッ! ずいぶん長らくお待たせしたなぁぁっ!

 アタシだぁ! エリザベート、服部さまだよぉっっっ!』


 その瞬間におれは思い切り机の上にしがみついた。


「おいウソだろっっ!? ウワサしたとたんに出て来やがったよっっ!

 タイミング悪すぎだろそして全然待ってなんかね……」

「お待ちしておりましたぁぁぁぁぁっっ!

 エリザベートさまぁっ、久々のご指導、よろしくお願いいたしますぅぅ~~~~っっっ!」


 例によってヒャッパの野郎が喜びいさんで立ち上がった。

 両手を握りしめて涙ぐんでまでいる。

 そんな奴に目も向けずにしらけた顔をするクラスメイト達。


 となりの席にいる影乃が立ち上がり、ヒャッパの背後に忍び寄った瞬間に左腕でのどもとを締め上げた。

 キースから「影乃ナイスッ!」と言う声が飛ぶ。


「グフォォォォッッ! にゃっ、にゃにするでぃぁぁっっ!」

「うるさいっ!

 前の授業じゃだまっていたが、あのトラップにはオレもうんざりしてたんだっっ!

 もう奴の授業なんぞ受けてたまるかっっ!」


 その間ウダウダとアナウンスしていた服部が突然声を張り上げる。


『……そして結城(ゆうき)新介ぇぇぇっ! 狛田村(こまだむら)沙耶ぁぁぁっっ!

 あの時の屈辱(くつじょく)は、決して忘れたわけじゃないぞぉぉぉっっ!

 今日はその怨念(おんねん)をたっぷり晴らす機会を設けてやったから、覚悟を決めとけぇぇっっ!』

「もうヤダ……ご指名カンベンして……」


 泣きそうにうつぶせになるおれに対し、沙耶も髪をかきあげながらうんざりした顔になる。


「ずいぶんあきらめの悪い人ね。

 そんなに痛い目にあわされたのがくやしかったのかしら?」

『それはさておき、今日はひっさびさに体育の授業をしてやるぅぅっ!

 ずいぶん長いことご無沙汰(ぶさた)してたってことでぇぇ、本日は特別に、校内の生徒全員参加だぁぁぁぁぁぁっっ!』

「ああクソッ! 絶対やな予感しかしねえよっ!」

『さっそく本日の授業内容を発表だぁっ! その名も、

“安国学園7大地獄めぐり・爆弾探してGOGOGO(ゴーゴーゴー)”だぁ!

 ギャハハハハハハッッッ!』

「なにがゴーゴーゴーだよっっ!

 名前からして体育じゃねぇっ! せめて内容をちゃんとしたスポーツにしやがれ~っ!」


 もうツッコむのもめんどくさくなってきた。


『ルールは簡単っ!

 この学校の生徒数の少ないわりにムダに面積の広い敷地のどこかに、『人の根深い業にまつわる場所』に7つの高性能爆弾を仕掛けたぁっ!

 そいつを今から1時間以内に探し出して解除しやがれぇ!

 制限時間以内に見つけられなかったらその場でドカンだっ!』

「また爆弾かよ……いっそダイナマイトで学校じゅう吹き飛ばしてくれ……」


 あきれ返るおれをよそに、沙耶は考え込むように口元に手を当てる。


「人の根深い業、ね……」

『ただし爆弾を見つけたからって簡単に解除できねえぞっ!

 爆弾の付近にはさらにユニークなトラップを作動させといた。

 そいつをうまくくぐり抜けられなきゃ、爆弾はすぐに作動する。

 トラップをうまく回避して、その上で手の込んだ爆弾を解除しなきゃならない。

 ヒャハハ、どうだ? 楽しみで仕方ねえだろっっ!』

「ひたすらめんどくせぇだけだよっっ! もうカンベンしてくれっっ!」

『おっと、時刻はちょうど10時ちょうどだっ!

 そいじゃ、ゲーム開始とするぜっ! よ~い、スタァ~~~~~~~~~ッッ!』


 言ったとたんにスピーカーからピッ、ピッ、と不快な音声が流れ始めた。

 おれはあわててみんなを見まわす。


「心の準備もなしに始めやがったよ! 急がねえとっっ!」

『ヒャハハハハハハッ! 結城ぃぃぃっ!

 ビビりまくってションベンもらすんじゃねえぞっ! それじゃあなっっっ!』

「ああクソッ! 最後にこっぱずかしいこと言うなっ!」

「うだうだ言ってる場合じゃないでしょっ!? もうゲームは始まってるんだよ!?

 早くしないと、学校の大事な施設が破壊されちゃう!

 ひょっとしたら人がいる場所かもしれないってのに!」


 あせるタタミちゃんにおれは困った顔を見せる。


「そんなこと言われたって、いったいどこを探せばいいんだ!?

 人の根深い業!? いまいちピンとこないぞっ!?」


 そんなおれに対し、沙耶は腕を組んで冷静に自分の考えを述べた。


「爆弾は7つ、そして人の業と言うキーワード。

 ぱっと思い浮かぶのは、『キリスト教の7つの大罪』ね。

 いかにも服部らしいチョイスだわ」

「7つの大罪って。

 中二じゃあるまいし、どんな奴だったか全然覚えてねえよ」

傲慢(ごうまん)嫉妬(しっと)憤怒(ふんぬ)怠惰(たいだ)強欲(ごうよく)暴食(ぼうしょく)色欲(しきよく)……」


 腕を組んだ影乃が、なぜか沙耶の背中をにらみつけ静かにつぶやく。


「中二病の参考書がこんなところにいた……」


 頭をかかえながらも影乃の知識に感謝し、沙耶に問いかけた。


「で、内容がわかったところで心当たりはあるか?」


 言うと、彼女はなぜか生き生きとした表情で人差し指を立てた。


「最初のあたりはよくわからないけど、暴食と色欲に関しては心当たりがあるわね」

「ああ、なんかやべぇ。専門外の知識に早くもついて行けなくなった」


 タタミちゃんがあきれた様子で両手を上にあげた。おれは無視した。


「タタミ、あなたも関心がある場所よ?

 うちの敷地内でカップルが非公式に逢引(あいび)きできる場所と言えば?」


 タタミちゃんが手をポンと叩いて「『恋人たちの塔』っ!」と叫ぶのとは対照的に、

 おれは「あ、あいびき……」とどぎまぎしながらつぶやいた。


「よっしゃ! さっそく連絡だ!

 ひょっとしたら寮の人たちは爆弾のこと知らないかもしんないからな!」


 言うやいなやヒャッパはスマホをいじり始めた。

 エリザベート信者じゃなかったんかい。


「暴食? それだったらあてずっぽうで答えていい?

 ぱっと思いついたのが、学食なんだけど」

「あれが暴食に当たるのかはわからないけれど、行ってみる価値はありそうね」


 沙耶がうなずくと、タタミちゃんが拳をにぎって勢いよく立ちあがった。


「よっしゃ! それじゃ寮の人たちが塔を調査してる間に、こっちは学食に直行だ!」


 寮長に連絡をとるヒャッパをしり目に、おれたちはいっせいに教室を飛び出した。

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