表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/261

なぜ海外のメタルアーティストはそろいもそろってモッサいのか(1)

申し訳ございません。投稿誤爆しました。すぐに訂正させていただきます。

 話は6月上旬にまでさかのぼる。


 おれがイヤホンごしにノリノリで音楽を聞いていると、いきなり誰かが片方をとり上げた。


「え~! なになに~!? なに聴いてんのそれぇ~っ!」


 タタミちゃんだ。

 おれに顔を近づけるなり、イヤホンを耳にはめてじっくりと聴き入りだした。

 かわいらしい顔から放たれるわずかな吐息がおれの顔にかかりどぎまぎさせられる。

 しばらく小さくうんうんうなっていたが、途中でイアホンを離し、わざとらしく顔をしかめた。


「あ~! やっぱり新介も聞いてたんだこの曲~! やっぱいいよね~」

「あ、いやこれ、友達(タタミちゃんよりは付き合いの少ないクラスメイト)にもらったんだ。

 ほら、最近タコゾウの奴が休みがちで、CD貸してくんないだろ?

 ダウンロードさせてもらっただけだから、誰の何の曲なのかもわかんなくて……」

「あれ?

 あんた、このアーティストが誰かもわかんないで聴いてるわけ?」


 タタミちゃんが机の上に座ると、短いスカートの先からすらりした太ももがのびる。

 そのきめ細かい肌に思わず見とれてしまいそうになるのをこらえる。


「あんまり質問しないで、とにかく聴いてみろだって。

 そしたら案外よくって、ちょくちょく聴いてんだよ。

 おれあんまり激しすぎる曲は好きじゃないけど、これなんだかいいよな」


 おれは思い出したようにアゴをさすって上を見上げる。


「パンクっぽいのと、メタルっぽいの2つあるな。

 やっぱり別々のバンドなのか?」

「ああ、2つとも借りたの。だったら話早いわ……」


 そう言って、タタミちゃんは人差し指をピンと立てた。


「これ、うちのガッコの校内バンドだよ」


 聞いた瞬間、おれはガタッと音を立ててしまうぐらいおどろいた。


「はぁっ!? なにっ!? これ校内バンドっ!?

 たしかに知らない曲だからおかしいとは思ってたけど、これアマチュアが作ったのっ!?

 しかも高校生っ!?」


 いくらなんでもクオリティが高すぎる。

 案の定なリアクションだったらしく、タタミちゃんはカラカラと笑った。


「にゃははははは。ビックリするのもムリないよね~。

 各楽器のタイミングは合ってるし、ミスも少ないし、それに曲作りもしっかりしてるから激しいワリに聴きやすいんだよね~」

「てっきり死霊族の中ではやってる曲だと思ってたぞ。

 それどころか、うちの校内だけではやってるなんて……」

「ところがどっこい、それどころじゃないのさ。

 あんまし曲がいいもんだから近々魔界のほうでも盛大に大売り出しするんじゃないかだって。

 しかも海外デビューの話まで出てる。つっても死霊族の世界だけだけどね~」

「そ、そんなにまで実力があるだなんて……いったいどういう連中なんだ?」

「メンバーの中に、すっごい奴がいるらしいんだよね~。

 さすがはわがアンガクがほこる『重軽音部』のメンバー」

「おい、今なんつった?

 重軽音部? 普通軽音部でしょ、『重』ってなに重って?」

「にゃははははは、細かいことは気にしな~い」

「おい! 肩をバシバシ叩くなっ!

 そっちは軽いノリでも人間の身体だと肩が痛いっ!」


 なおも笑い続けるタタミちゃんだったが、急に物思いにふけるように上を見上げ、とがらせたくちびるに人差し指を当てる。色っぽい。


「う~ん、たしかに2つともいいバンドだけど、やっぱりアタシとしちゃメタルよりパンクって感じだよね~」

「そりゃそうでしょ。

 だって見た目からしてパンク好きそうってわかるもん」


 髪の毛を金髪に染め、眼帯をつけていない目はうっすらとアイメイクをほどこす(梅雨の季節なのでホントはもっと濃い)。

 スカートはフリルのついた赤いチェック柄。

 ヒザまで白黒ボーダーのソックスをはき、学校指定の上履きじゃなくヒールつきの黒いサンダルを履いている。

 校則のユルいうちの学校じゃなかったら完全にアウトだ。

 そんなタタミちゃんは自分の風体に目をやり、ニッコリとほほえんで「うん、好き~」などと言ってみせる。


「ま、それはおいといたとしても、もう一方のほうってちょっと文句を言いたいところもあんだよね~。

 演奏はゴリゴリでもうまいと思うけどさー、ボーカル部分はひたすら叫んでるばっかだもんね。

 コーラスはちゃんとしてるんだからもっとちゃんと歌えるパート増やせばいいのに」

「あ、それおれも思った。

 どうせ歌うまいんだったらギャアギャア叫んでないで全編普通に歌えないのかよって思う」

「それじゃなんだかさみしいけどね~。ま、新介らしい意見だけど」


 ケラケラ笑うタタミちゃんの横から、怪しい影が迫ってきた。


「おい、今のは聞き捨てらんねえぞ?

 お前らまさか、神聖なるメタルをバカにしてんじゃないだろうな?」


 ギョッとした。小柄なヒャッパはただでさえ不気味な顔をさらに険しくさせている。


「お前らはメタルの偉大さをわかっていないっ!

 メタルの叫びは魂の叫びっ! 叫びなくしてメタルなしっ!

 コーラスなどメタルアーティストにとっては単なる余興にすぎんっっ!」

「あれ?

 そう言えばヒャッパってメタル好きだったっけ。なんだか意外だよな」


 するとヒャッパは打って変わって小バカにしたような表情になった。


「まあパンクも嫌いじゃないがな。

 しかしそれなりにいい曲だとは思えても、このオレの心までをふるわせることなどできんさ、ククククク……」

「なによその表情。なんか言いたそうな顔をしてるよね」


 タタミちゃんがジト目を向けると、ヒャッパは首をすくめてゆがんだ笑みを浮かべた。


「だいたいパンクだって、わざとらしいくらい音程はずすじゃねえか。

 ホントに歌うまいのか? 曲調もわざとアップテンポにして、せっかくの怒りの表現が台無しになってやがるぞ?」


 言われタタミちゃんが眉を寄せてヒャッパを指差した。


「言ったなヒャッパ! アンタこそパンクの表現がわかってない!

 パンクがああいう曲調なのはくだらない日常を笑い飛ばすためのものなんだよ!」

「おれからしたら今の生活ってまったくくだらなくないと思うけどな……」


 おれのぼやきをよそに2人は口げんかをヒートアップさせる。


「だいたいメタルだって悪魔とか破壊とかモチーフにしててなんだかダサくない!?

 みょうにクラシックみたいな表現持ち出したりしたりとかさ!」

「はんっ! パンクがいつまでもかっこいいとか思ってんのかよ!

 行っとくがセッ○スピストルズが解散してからだいぶ経つぜ!?

 そのあとに出てきたアーティストと言ったら、恰好と曲調だけマネをして初期の精神をまったく継承(けいしょう)できてない!

 それに比べたらメタルは日進月歩進化してんだよ」

「なにが進歩してるだバーカッ!

 メタルファッションなんて日本じゃヴィジュアル系、海外だったらみんなロン毛のモッサイおっさんばっかじゃん!

 そろいもそろって真っ黒な服装してんじゃないわよ!」

「それはパンク勢だってそうだろうがっ!

 だいたいパンクファッションは型が決まってんだろ! セオリー外さなきゃだいたいダサくはなんないんだからいいよな!

 けど型にはまるっていうのは逆にいえば定番化してるってことじゃねえかよ!

 パンクで定番って、ブヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」

「ちっきしょーっ!

 言ってくれたなコラァッ! ケンカ売ってんのかっ!」

「おうおう!

 こっちゃいくらケンカ嫌いでも神聖なるメタルをバカにされちゃたまんねえんだよ! やんならやんぜっ!」

「だいたい何が神聖なるメタルよ! メタルに神聖もクソもあるかっ!」


 そう言ってにらみあいになる2人、おもしろいので黙って見ていたが、さすがに見かねて仲裁に入る。


「まあまあまあ、落ちつけよ2人とも。

 メタルにもパンクにもそれぞれいいところがあるんだから、気にいったほうをどんどん押してけばいいじゃんか。

 なんで互いに否定し合うんだよ」

「「うるさいっ!

 どうせ新介なんかヌルいポップスみたいなロックしか聞かないんだろうがっっ!」」


 ハモるように言われ、おれはうっ、と口ごもる。


「そんなことはない、ない、ぞ……」

「さっきからうるさいわね。

 どんな曲が好みなのかは自由だけど、他人を議論に巻き込むのはよくないわね」


 2人の言い争いをよそに文庫本を呼んでいた沙耶が、パタンと本を閉じて辛辣(しんらつ)な目線を向けた。


「正直、わたしには両方わからないわ。どちらもうるさい音楽、としか言えないんだけど」

「ふーん。じゃあ沙耶ってどんな音楽が好きなわけ?」


 疑うような視線を向けるタタミちゃんをしり目に、沙耶は再びページを開いた。


「音楽なんて、クラシックとビー○ルズだけ聞いていれば十分よ」

「出たっっ!

 いやな予感はしてたけど沙耶はれっきとした超音楽保守だったっっっ!」


 がっくりうなだれるおれを見て、沙耶は再びしらけた目線を向ける。


「なによ超音楽保守って。

 なら言わせてもらうけど、音楽の歴史は18世紀のオーストリア・ウィーンを中心にモーツァルトやベートーベンを中心にして急速な発展をとげたわ。

 20世紀には管弦(かんげん)音楽の勢いはおとろえたけれど、その精神はロックを中心としたポップミュージックに引き継がれた。

 その流れの中心にいたのは、間違いなくビー○ルズよ。

 彼らは音楽が持っている可能性を最大限にまで引き出し、完成させた。

 わたしの中ではビート○ズ以上に音楽というものを発展せしめたアーティストはいないと思っているわ」

「す、すげぇ。沙耶がここまで語ってるの初めて見た……」

「ま、わたしの中ではだけどね。新介君ってビー○ルズ好き?」

「好きって言うか、テレビとか流れすぎて若干うんざりしてるかなぁ」


 困って頭をなでていると、沙耶はうふふと美しいほほえみを浮かべた。なんだかほっこり。


「だったら、後期のアルバム貸してあげましょうか? ビート○ズあきあきって人でもなかなか面白い曲がそろってるわよ」

「あ、うん。ちょっと聞いてみるよ」

「うっわ、沙耶なにげにアピッてんじゃねえよ!

 だったらこっちもお勧めのパンク貸してあげよっかっ!?」


 妙にムキになってるタタミちゃんをよそに、ヒャッパが耳元に顔を寄せて声をひそめた。


「知ってるか? 海外じゃビー○ルズ専門チャンネルっていうのもあるらしいぜ?

 もし沙耶ちゃんを彼女にしたら、一日じゅうビート○ズばっかり聞かなきゃなんねえぞ。お前それでも耐えられるか?」


 言われ、おれはごくりとツバを飲み込んだ。

 一日じゅうビー○ルズ漬け。それは相当ヤバそうだ。

 沙耶にはぜひ他のアーティストも聞いてもらわなければ……





 そんなわけで話は脱線して終わりになってしまったのだが、あとあとになって例の校内バンドについて詳しく知りたくなった。

 タタミちゃんとヒャッパに話をうかがうとややこしいことになりそうだったので、第3者に話をうかがった。


「重軽音楽部のバンド? ああ、両方とも好きだぜ」


 振り返ったキースは、イヤホンを外すと例のバンドの曲がシャカシャカ鳴っている。


「いったいどういうバンドなんだよ?」

「『ビハインド・ザ・レッドラム』と『ザ・セルフディストラクションズ』だろ?

 前者がデスメタルの要素を含んだスラッシュメタルで、後のほうがハードコア・パンクに分類されるな」

「き、キース君ってけっこう音楽に詳しいんですね……」

「なに君付けしてんだよ。当たり前だろ、俺はヤンキーだからな」


 そう言ってふんぞり返って不敵な笑みを浮かべる。

 そしてさらに続ける。


「前者はグロウル、俗にいうデス声を多用したボーカルが特徴的だが、リードボーカルはコーラスやギタープレイにも定評がある。

 特に中盤のギターソロに関しては低音と高音を巧みに使い分け、まるでオーケストラを聞いているかのような荘厳(そうごん)でメロディアスな世界にいざなってくれる。

 一方で後者のほうはと言うと、とにかく曲作りがうまい。

 下手にくずしたりせずポップな曲にしたとしても食いつく奴は多いだろう。

 それをわざわざパンク調に焼き直しているんだが、かと言って陳腐(ちんぷ)にはならない。

 むしろやさぐれ感を前面に押し出したアレンジがなされることで、聴く者の胸に強烈なインパクトを与えることに成功していると言えるな」


 みんな音楽に詳しいなぁ。

 おれなんかなんとなく聞いてるだけだもん。なんだか悲しくなってきた。

 気を取り直し、おれはもう一度質問する。


「ええと、バンド名なんだっけ?」

「ビハインド・ザ・レッドラムとザ・セルフディストラクションズ。

 両方頭文字で略す。それぞれ『B・T・R』と『T・S・D』だ」

「な、なんだか物騒(ぶっそう)なひびきのバンド名ですね。

 大丈夫なんですか?」


「CDあるぞ」するとキースは机の中から何かを取り出した。

 CD2枚組セットだ。手渡されジャケットを見ればそれぞれイラストなのだが、すぐにうんざりさせられた。


 BTRのほうは血まみれになっている部屋の中に、不気味に1人の男がたたずんでいる。

 男は頭にヤギの頭部のようなものをかぶり、血まみれのナタを手にしている。

 足元には当然、不気味な肉片がゴロゴロと……


 一方のTSDと言えば、ひたすらわけのわからない写真のツギハギ(コラージュって言うんだっけ?)がほどこされている。

 カラフルな色調で彩られたそれはとにかくけばけばしく、正直視界に入れるのがつらい。


「うっっわ、なんだよこれ。どっちも気色悪いな……」

「中開けて歌詞読んでみろよ」


 なんともいやな予感がしたが、おれは言われるがままにフタを開いて歌詞カードを開いてしまった。

 とりあえずBTRのほうから。ごていねいにも英文のとなりに日本語訳が書いてあるし。


――みんな殺してやる 男も女もガキも老人もすべて1人残らず

 相手がどんな強力な武器を持っていてもかまわない

 どんなに傷つこうが かならず道連れにして殺してやる

 そして1人でも多く殺してやる 目の前に映る奴はすべてだ。

 世界中すべての人間を殺してやりたいが それができる力が俺にはない それだけがくやしい


 おれは歌詞カードをぱたんと閉じて、遠い目をした。


「いったい普段からなに考えてればこんな歌詞書けんだよ……」

「おい、もう1つのほうまだ読んでないんだろ? 早くしろよ」


 ニヤニヤしているキースの顔に向かってため息をつき、仕方なしにもう一方の歌詞カードを開いた。


――誰にもあたしのことなんて理解できない 理解などされたくもない

 あたしは1人だ あんたらはなけなしの同情でダチのつもりになってるんだろうが

 それはとんでもないカン違いだ あたしにはそんなモノはいない いらない

 あたしには絶望しかない ほかにはなにもない

 それ以外のモノはすべて粉々にしてツバを掃いて捨てちまった

 心残り? そんなもんあるもんか

 いま目の前にありったけのヤクがある こいつを丸ごと飲んで終わりにする

 ついでにするどいナイフも見つけた コイツで終わりにする すべて終わりにしよう


 おれは急いで歌詞カードを閉じた。そして心底深いため息をつく。


「もう、なんなん……いったいなんなん……」


 よくもまあこんなひっどい歌詞を書いといてそれを実行しないですむものだ。

 もっとも自分の心情を歌にしているからバランスを保てているのかもしんないけど。


「歌の内容からしてすごい歌詞なんだろうなとは思ってたけど、いくらなんでもひどすぎる!

 もっと普通に歌えないのかよ!?」

「ハハハハハ、お気に召さなかったようだな。

 もっとも俺は最近そっちの世界で流行ってるような歌のほうがよっぽどヌルくて気に食わんがな」


 ケラケラ笑うキースに対し、おれは軽く机を叩いた。


「極端なことを書きゃ面白くなるって話じゃないだろ!

 歌って言うのはもっと頭をふり絞って、自分の本当の心をさらけ出さなきゃいけないもんだろ!?」


 ところが、これはタタミちゃんに聞かれていたようで、


「ちょっと新介っ!?

 いま『セルディス』の文句言ってたでしょっ!? 聞き捨てならないよ!」


 おれが「セルディス?」と問いかけると、キースのほうが「非公式略称」と答えた。


「タタミちゃん。これでいいの? この歌詞カード見た?

 そのセルディスって連中、こんなことばっか歌ってるんだぞ?」

「歌詞はひどいかもしんないけど、いいじゃん、曲がよければ。

 新介細かいこと気にしすぎ」


 腕を組んで不機嫌ぎみのタタミちゃんを見て、おれはため息をついた。


「正直、タタミちゃん相手の考えも深く考えないでハマるような子だったなんて、正直ゲンメツするな」

「なによぉ~う。新介普段からこういう曲聞かないからってダメ出ししすぎ。

 ついでに人の好みを強制するのもよくないよ!?」


 ここで、まるでタイミングをはかったかのようにヒャッパまで現れてしまった。


「おうおう、さんざん言われてる見てえじゃねえか。

 やっぱりセルディスの世界観は新介サマのお口に合わなかったようだな!」

「ヒャッパ、コイツBTRの文句も言ってたぞ」

「キースッ! お前よけいなことを……!」

「なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!

 キサマ、おれにとっての現人神(あらひとがみ)に向かって、何たる無礼な口を……!」


 これにはタタミちゃんのほうがあっけにとられた顔をする。


「はあぁぁぁぁぁっっ!? アラヒトガミィィ!?

 なんじゃそりゃ、人を殺す殺すみたいな中二病みたいなことばっか言ってる奴のどこがカミサマなのよっっ!」

「うるせぇっ! それを言うんならセルディスのほうが死ぬ死ぬばっか言ってんじゃねえかよ!

 ウダウダ言ってないでさっさと実行にうつしゃいいんだよっ!」

「なによっっ! そっちのボーカルだって殺す度胸なんて少しもないくせにっっ!

 くやしかったら人っ子1人殺してみなさいよ! そしたら即通報だけどねっ!」

「やかましい! BTRの精神は破壊と混沌(こんとん)なんだよっ!

 『殺す』という言葉に秘められた寓話(ぐうわ)というものをお前は理解していない!」

「それを言うんだったらこっちだって人生の絶望を茶化した表現なんだよっ!」

「……だから2人ともいい加減にしろってっっ!」


 おれが立ちあがってどなりつけても、2人はにらみあうばかりだった。


「もういいよ! 2人とも勝手にやってろ!

 言っとくけど、おれは2度とそんな曲聴かないからな! すすめられてもムリだぞっ!」


 しまったと思ったが遅かった。

 2人の視線は同時にこちらに向けられた。


「いーや! 納得できないね!

 こうなったら新介にはとことんセルディスの魅力と言うものを堪能(たんのう)してもらおう!」

「それを言われればこっちとしても引き下がれんな!

 お前はBTRの真髄(しんずい)と言うものをまったくわかっていない! 納得がいくまでとことん引きずりこんでやる!」

「なにようあんた!

 自分の好きなバンドが否定されてるからってしゃしゃり出てくんじゃないよ!」

「そいつはお前の方じゃねえかっっ!」


 そしてまたしてもにらみ合いになる両者。

 キースはそれを見てまるで人ごとのようにケラケラと笑う。


「ま、俺としちゃ両方大好きだけどな。

 たしかに歌詞がどーのこーのでいちがいに否定されるのもどうかと思うぜ。

 あ、そうだ」


 キースが何かひらめいたかのように軽く握った拳を反対の手で叩いた。


「今月末に、この両者が対バンすんだってよ。

 なんでも今度こそどっちのバンドが優れているのか決めるんだってさ」

「え? なにそれ、対決?」


 おれはため息まじりに言いながら、そう言えば彼らの所属してる部が「重軽音部」とついていることを思い出した。まさか……


「こいつら、人気の取り合いしてんだよ。

 2人のボーカルが入ってくる前は1つのバンド組んでたんだけど、加入後はメンバーがそれぞれ洗脳されちゃってさ。今はほとんどケンカ状態」


 タタミちゃんは得意げに人差し指を立てるが、おれはまたもため息をついた。


「ジャンルがちがうのになんで戦わなきゃなんないの?」


 言われ、彼女は「まあ、それは、あれ……」と口ごもりはじめた。

 そのスキにキースがたたみかけるように言う。


「とにかく、お前一回ライブ行ってみろよ。

 そしたら価値観変わるからさ」

「はぁぁっ!?

 なんでおれがそんな物騒(ぶっそう)な連中のライブ見に行かなきゃなんねえんだよ!」


 ここでタタミちゃんがあわてたように声をかけてきた。


「それ、問題あると思うけど。

 あいつらのライブなんてとにかくパフォーマンスが激しくて、オーディエンスも盛り上がっちゃってやたらめったら暴れまくるんだから、新介危ないって!」

「また人肉血まみれドロドロショーかよ……」


 当然、ほぼ不死身の死霊族なのだから一滴の血も流されずにすむはずがない。

 想像して思わず鳥肌が立った。ましてやおれがそれに巻き込まれたらひとたまりもない。


「じゃあ、本番じゃなくて練習中にたずねてみたらどうだ?

 きっと奴らも、お前のこと気にいるぜ?」


 ヒャッパがとんでもない提案をして来やがった。

 当然おれはいきり立つ。


「なんでおれがじかにそんなアブない連中に会って来なきゃなんないんだよっ!

 だいたいおれ野球部だぞっ!? 練習どうするんだよ!?」

「大丈夫だって。いま梅雨(つゆ)だろ? どうせまともに練習できないって。

 お前雨天の室内練習いやがってたじゃん」


 ヒャッパに言われ、しまったと思った。

 こんなことなら軽はずみな言動はつつしむべきだった。


「で、行くか? もちろん行くよな?」

「断るとは言わせないぞ? お前さんざんオレの神をコケにしてくれたもんな?」


 キースとヒャッパが、そろっておれの肩に手をかけてくる。

 困ったおれはタタミちゃんのほうを見た。


「ちょっとぉ~、2人を止めてくれよ~」


 しかし、当の本人はアゴに人差し指を当ててむずかしげな表情だ。


「う~ん、そんなこと言われても、アタシもセルディスのことを悪く言われてるしな~」


 するとぱっと目をかがやかせ、満面の笑みでおれの二の腕あたりをポンと叩いた。


「とにかく、会ってみなよ!

 見た目はアレかもしんないけど、ホントはいい人だから!」


 おれはがっくりうなだれた。

 最後に救いを求めるように沙耶のほうを見た。

 彼女は文庫本を読んでいるにもかかわらず、顔を動かさずに言った。


「わたしは絶対行かないわよ。またポールに会えるんだったら泣いて喜ぶけど」


 こうして、週末の予定は残酷(ざんこく)なスケジュールで埋まってしまったのだった。

 ていうか沙耶ってポールのライブ行ったことあるんだ(国内外かわからないが)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ