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(2)

「ハヤタの行動におかしなことがなかったかだって?

 んなこと言われても、あいつのやることなすことみんなおかしいけどな」

「助けてくれよぉ~。あいつ事あるごとにおれらに絡んで来てさー。

 もうほんとウザいったらないのよ。ちょっときつめに対応しても向こうガン無視でさー」


 おれと沙耶、そしてタタミちゃんが聞き込みをしたのはハヤタのルームメイト。

 しかし、多少予想通りの答えが返ってきた。

 が、おれはくじけない。


「そうじゃなくてさ。

 そいつが最近変な奴にからまれるとかさ、いつもとなんか違うとか、些細(ささい)なことでもなんでも教えてくれよ」


 すると、2人の同部屋はそろって不審な目を向けてくる。


「あんたら、あいつのなんなん? ひょっとして仲がいいの?」


 沙耶は首を振り、おれの言葉を引き継いだ。


「そんなんじゃないわ。ただ彼の行方を探してたはずの先生がたが、急におとなしくなってしまって。

 それでわたしたちが調べることにしたの」


 学年を飛び越えて、もはや校内いちと言われている美少女を前に2人は顔を赤らめてうつむく。


「だったらだったで、向こうの学級委員が調べることじゃねえの?

 その、沙耶さんがC組の学級委員だってことは知ってるけど、管轄(かんかつ)外じゃないの?」

「そちらの方は、わたしたちの友達が事情を聞きに行ってるわ」


 それを聞き、タタミちゃんが少し不機嫌な顔で腕を組んだ。


「だけどさぁ、相手がそのハヤタって奴じゃん。

 ひょっとしたらB組の学級委員、めんどくさくて事態を放置してる可能性あんだよね。

 だからアタシたちも気になってるわけ」


 相対する2人はそんなタタミちゃんを品定めするように見る。

 美人過ぎる沙耶に比べたらほんのちょっぴり(おと)るタタミちゃんは、他クラスにはあまり魅力がわからないらしい。


「ふーん。どっちにしろおせっかいなこったな。

 それにしてもお前らホントにあんな事件やこんな事件に巻き込まれるな。ホントいそがしいそうだよな」


 おれは眉をひそめて話のシメに入った。


「とにかく、なんか思い出したことがあったら言えよ?

 こっちはどんなささいな情報でも欲しいんだから」


 そういうと、2人は心底ウザそうにその場を立ち去って行った。

 一方だけが軽く手を振ったので、ほんの少しほっとした。


「まったくなんなのあいつら! 最後のひとことはよけいだっつうのっ!」


 憤慨(ふんがい)するタタミちゃんに、おれは首を振った。


「おれらを怪しんでるって言うより、ハヤタの件に首をつっこみたくないんだよ。

 どうやらそいつは予想以上に嫌われてるみたいだな」


 その時、沙耶の携帯から無機質な着信音がひびいた。

 さりげなく画面に目を向けた彼女のうつむき顔がほんの少し照らされる。


「ヒャッパ君たちからだわ。こっちの方はまだ進展なし。

 クラス全員に話を聞きに行くんだから、仕方ないわね」

「それじゃ、先生方に事情を聞きに行くか。さて、いったい誰に聞きに行く?」


 別の休憩時間におれらがそこを訪れると、馬小屋はプーンとフンの臭いがただよっていた。


「きょうとー。おじゃましますよー」


 振り返ったシルクハットのヴィジュアル系は、ちょうど馬をブラッシングしているところだった。

 濃いアイメイク(ただのクマだが)の少し歳をとった男性はきょとんとした目を向ける。


「ほいほい、いったいなんなんだ~い?」


 おれたちは事情を話し、相手の反応を待った。

 教頭は腕を組みつつアゴに手を触れて、難しい顔で考え込む。


「なんで、ボクに事情を聞こうと思ったんだい?」

「茶太良先生に聞いてもよかったんですけどね。

 でも教頭のほうが、より詳しい事情を知っているかと思いまして」


 ここで教頭はおもむろに顔をあげた。


「じゃあもし、ボクが事情を話したら……」


 その時、教頭の目の色が変わった。


「キミたち、いったい何をするつもりなんだい?」


 おどし、というよりは警告を発しているかのようだった。

 それでもおれは少しひるんでしまう。あきらめずに口を開いた。


「でも先生方には、うまく対応できる人がいなんですよね?

 だったら生徒側で何とかするしかありませんでしょ」

「そうですよ。

 さいわいこっちには、アタシと沙耶がいるんですから、いざという時はなんとかします」

「キミたち2人が、自分の力を過信するのはどうかと思うけどね」


 言われ、沙耶とタタミちゃんは「「うっ……」」と口ごもる。

 それでも沙耶はひるまなかった。


「危険は承知の上です。

 だいたい行動する人数が多すぎても、相手に動きをさとられてしまいますから、応援を頼むのも考えものです」


 教頭はむずかしい顔をさらにしかめながらも、なんとかうなずいた。


「少し覚悟して聞いてほしいんだけど、

 実は我々教職員側も、決して一枚岩というわけではないんだ」


 突然何の話を始めたのかと思ったが、だまって相手の声に耳をかたむけた。


「新介君。

 教職員の側で君の存在を認めていないのは、エリザベート君だけじゃない。

 他の教職員の中にも、内心君のことをうっとうしいと思っている連中がいるんだ。

 もっともそれはうちの教育方針に根本から逆らうことだから、おもてだって口にする先生はいないんだけど……」


 ここで沙耶が疑問の声を発した。


「なぜです?

 わが校の理念は設立当初から、現世の人間に対する理解を深めるという方針だったはず。

 なのに新介君の存在に不快感を覚えるいわれはないはずですが?」

「服部みたいに、やむをえない事情でこの学校に入ってきたとか?」


 タタミちゃんが引き継ぐと、教頭は半笑いで首を振った。


「そうじゃないよ。

 ここに入ってきた教員はたしかに人間を知るために入ってきた人たちばかりだけど、その意気ごみには個人差がある。

 まさか本物の人間を引きいれてまで、子供たちに興味を持たせようとするとは思ってなかっただろう」


 おれはそれを聞き、少し恐ろしくなった。

 ひょっとしたらおれのことをこころよく思っていない奴は、予想したよりずっと多いのかもしれない。


「この学校に居心地を感じている教師たちは多い。

 だけど、新介君がいなかった頃のほうが、この学校はもっとよかったと思っている先生もいるんじゃないかな?」


 教頭はほがらかに言うが、おれは気が気でなく、質問をぶり返した。


「今の話を考慮(こうりょ)すると、今回の事件には教職員が関わっている、ということですか?」


 ここで先生は両手をあげた。


「悪いけど、その質問には答えられないな。

 ひょっとしたら厄介な奴を敵に回すかもしれない。

 今回の事件に関して引きとめることはできないけど、手を引くのをオススメするね」

「これだけ答えてもらってよろしいでしょうか?

 今回の事件に、生徒会側はどこまでかかわっているんですか?」


 沙耶の質問に教頭はかなり迷った様子だったが、やがてポツリポツリと言った。


「ひとことだけ言わせてもらうけど。

 当校で起きているトラブルにことごとく生徒会の影があると決めつけるのは、よくない傾向(けいこう)だと思うね」


「今回の事件に生徒会は関わっていない? そうとらえたほうがいいのかしら?」

 沙耶は教頭の言葉の意味についてかなり考えているようだった。

 おれはうなずく。


「そうとられてもおかしくない発言だったけど、まだ今回の事件とは関係がないと決まったわけじゃないと思うな」

「それはそうとして、これからどうする?

 あまりいろんなところに聞きにまわってると、いろいろ怪しまれそうなんだけど……」


 タタミちゃんに言われ、おれはうなずいた。


「そうだな。

 まずはヒャッパ達の事情聴取が終わってから今後の対応をねるか」


 言っているうちに、ヒャッパとキース、そして影乃が向こう側から現れた。

 ヒャッパは少しかけあしぎみになっている。


「ちょっとおもしろいことがわかったぞ。

 昨日の授業なんだけど、どうやらB組は『生物学室』の講義を受けたらしい」


 余談になるが、我が安国学園では理科関連の授業は本舎とは別の『科学技術研究棟』という場所で受けることになっている。

 毎度のように校舎を移動しなければならないうえ、中に入れば死霊族でさえおじけづく不気味な薄暗さとレイアウトで、生徒には大変不評である。

 ではなぜこんな複雑なことになっているかというと、ありていにいえばわが校の理科系の教師がそろいもそろってヘンクツぞろいだからである。

 それはヒャッパが属している『テクノポリス部』(相変わらずうんざりする部名)の顧問である情報技術科の講師も例外ではない。もっともこちらの方はだいぶマシだが。


 中でも、「生物学」の講師というのがとりわけ屈指のキワモノである。

 奴の教室はいたるところに気味の悪いホルマリン漬け、中身がうごめく培養液(ばいようえき)ブースだらけ。

 授業になればそれこそ見たことあったりなかったりする生物を死ぬまで解体する残酷(ざんこく)ショーを披露(ひろう)してくれるのだからとにかく評判が悪い。

 当然、タタミちゃんも心底イヤそうな顔つきになる。


「うげっ、あのどっかで聞いたような名前の『フランク・スタイナー』かよ。

 オックスフォードからやって来たれっきとした人間だっていうけど、あのヘンタイ博士がハヤタ君誘拐(ゆうかい)にかかわってるって言うの?」


 ヒャッパは気むずかしい顔でうなずいた。


「それだけじゃ証拠にも何にもなんないから、いろいろ調べてみた。

 まずスタイナーは『生物科学部』の顧問でもあるんだけど、やってる部活の内容は全部極秘だ。

 部員たちは全員キビしいかん口令が()かれてる。やってる内容が極秘だなんて、少しおかしくないか?」

「わたしのやってる剣術部も、内容は極秘だけど」

「沙耶ちゃんの部活は目的がはっきりしてるからいいんだ。

 だけど連中の部室は研究棟の生物学ブースのなかでも厳重に閉ざされた地下室の中。

 他のブースの連中にもなにをしているのかさっぱりわからないって言うくらいなんだから、相当アブない橋を渡っているとは思えないか?」

「どうせアヤシイ生体実験かなんかだろ?

 にしてもウチの学校、服部にしろどうして危ない人間をフツーに雇っちまうんだろうな?」


 眉をひそめるキースに、タタミちゃんはあきれかえったようにため息をついた。


「どうせこっちが簡単には死なないと思ってナメてんでしょ。

 けどその代償(だいしょう)が生徒の行方不明じゃシャレになんないよね」

「まだ決めつけるのは早いわ。もう少し具体的な根拠はないの?」


 沙耶にうながされるヒャッパだが、言おうか言うまいか、かなり迷っているご様子。


「どうした。

 どんな些細な情報でも欲しいって時に、口ごもるなんてお前らしくないな」


 影乃がキツめに問い詰める。しかしちょうどゴォン、ゴォン、という音が鳴った。

 不気味な響きだが、これがうちの学校のチャイム。


「あ、ああ。悪いけどあとでいいか? どうせ次の時間で最後だろ?」


 どことなく歯切れの悪い物言いにとまどいながらも、おれたちはみんな教室に戻らざるを得なかった。





「……あとみんなわかっていると思うが、今月末にはついに最初のテストが始まる。

 お前らみんな勉強はげんでるか?」


 ホームルーム中に、顔面がなく歯がむき出しの茶太良はみんなに呼び掛ける。

 何人かが「ほ~い」と声をあげ、何人かはあきらめたかのように首をすくめている。


「うちは人間界の学校と比べてもそれなりにレベルの高い方だ。

 中学で調子に乗ってた奴もうっかりしてたら成績落とすことがあるから、気をつけろよ。

 新介、お前のほうはどうだ?」

「なんでおれに聞くんすか。

 おれにばっか質問してるとえこひいきみたいじゃないですか」

「それはそうだけど、お前は外からやって来た人間だからな。みんななにげにお前がどんな成績とるか気になってるんだよ」


 それまでどちらかと言えばだるそうにしていたクラスメイトが、なぜかいっせいにうなずく。


「おれより、沙耶のほうが気になりません?

 彼女なら絶対ベスト10入りは外さないでしょ」

「あら、わたし今回の中間は確実に1位をとるつもりでいるけど?」


 さりげない風をよそおいながら、その目は燃えるような闘志にみなぎっている。


「あは、あははは。まあ、がんばって」

「まあ2人のことはともかく、他のみんなもしっかり勉強にはげめよ。

 高校最初のテストはお前らの今後を左右するからな」


 そしてなぜか、茶太良はバンッ、といきなり机を強く叩いた。

 ビクリとして注目する生徒たち。


「そしてとくにだ!

 歴史の成績で妙に低い点数を取ったら、この『後藤茶太良』が許さんぞっっ!」


 歴史教師茶太良はむき出しの歯をさらにゆがめて、生徒をおどしたてる。

 顔をひきつらせるクラスメイト達。ていうか茶太良の名字って普通だな!





 本日の授業が終了し、クラスメイト達は次々と席を立ちあがり、カバンを持って教室を出ていく。

 中には時間をもてあましているらしく仲間同士で談笑している奴らもいるが、だいたいは部活に向かうか寮に戻るかするので、室内はガラガラだ。


「……あれ? ヒャッパは!?」


 タタミちゃんの声でまわりを見回すと、ヒャッパの姿がない。

 おれは声を荒げた。


「しまった! 他のみんなと一緒に抜け出したんだ!」


 1人欠けた仲間たちがおれの周りに集まってくる。

 沙耶が「どういうことなの!?」問いかけてくる。


「ヒャッパがつかんだ情報には、都合が悪い内容があったんだ!

 だからあえて自分1人で真相を確かめに行ったんじゃないのか!?」

「大変! すぐ追わなくちゃ! 場所は研究棟でいいのかな!?」

「確信があるからスタイナーの名前を出したんだ。そこに決まってる」


 言うなり教室を出ようとするが、後ろから影乃に腕をつかまれた。


「おい、部活はいいのか? 先輩たちに怒られるぞ?」

「ヒャッパがピンチになるかもしれないのに行ってる場合じゃないだろ!

 主将に連絡して休むように言え!」

「オレは携帯持ってない」「だったらおれが連絡する! みんなは先に行っててくれ!」

「アタシも残る! みんなは先に行ってて!」


 タタミちゃんが言うと、沙耶たちはうなずいて急いで部屋を出ていった。

 おれはタタミちゃんに目を向けながらも、携帯を取り出した。





「……たくっ! 先輩もものわかりわりいなぁ!

 これなら別の言い訳を考えとくんだった!」


 ようやく非道丸のガミガミ声から解放され、おれはかけあししながら携帯をしまう。

 しかし、途中でその足が止まる。

 目の前に、異様な姿をした建物が現れたからだ。


 全体が薄汚れていて、あちこちに太いパイプや奇妙な設備が張り巡らされた外観。

 屋上にはこれでもかと言わんばかりの巨大な電波塔が、天に突き刺さるかのごとくそびえている。


「しっかしまあ、いつ見ても不気味な見た目だなこりゃ。

 さすがはマッドサイエンティストの巣窟(そうくつ)だぜ」

「ひるんでる場合じゃないでしょ! 沙耶たちはもう中に入ったよ!」


 タタミちゃんにせかされ、おれは意を決して中に飛び込んだ。


 奇妙な形をした巨大機械が広間を圧倒している物理ベース。

 フラスコや試験管が怪しい光に照らされる化学ベース。

 立ち並ぶ演算処理装置が光をまたたかせ、暗闇の中からモニターが浮かび上がる情報技術ベース。

 研究棟の各区画は、どれも暗闇の中で異様な雰囲気を放っている。


 しかし、そのどれもがスタイナーが管轄(かんかつ)とする生物学ベースに比べたら雲泥の差だ。

 おれはそこにたどり着いたとたん、思わず目をそむけた。


 高くそびえる棚に所狭しと置かれているホルマリン漬けが並ぶ。

 ビンの中には見たことある生物、ない生物がにごった液体の中白く浮かび上がっている。

 おれもタタミちゃんも、思わず1,2メートル距離をおいてまわりこんでしまうほどの不気味さだ。


 中に入れば入るで、壁際には巨大なガラス管の中、気泡に包まれて不気味な姿をした生物が培養(ばいよう)液の中にプカプカと浮いている。

 だいたいはみんなの故郷である魔界に生息している妖怪のサンプルだそうだ。いつか逃げ出さなければいいが。


 タタミちゃんが案内してくれたのは、普段立ち入り禁止になっている奥の扉だった。

 もっとも普段はスタイナーが挙動不審の目つきを光らせているから誰も興味を持たないが、本人がいない今ではひるんでいる場合じゃない。


 中に入って、さらに後悔させられた。

 廊下をはさんでガラス張りの部屋があるのだが、とにかくひどい。

 部屋じゅうが血まみれで、机の上には解体された生物の死がいが白いまな板の上にさらされている。

 天井からもいくつもの不気味な生物がつるされており、時おりポタポタと血をしたたらせている。しかもこちらまで鉄臭さがただよってくる。


「これは生物学者の研究スペースじゃないだろ。どう見ても殺人鬼の趣味の部屋だ……」


 おろかにも生物科学部に入部してしまった生徒たちの悲惨(ひさん)さを思っていると、奥から声がかかった。「こっちだっっ!」


 キースの声に従い奥に進むと、沙耶、影乃、キースの3人がうずくまっているのが見える。

 みんながいる奥には下へと続く階段が、ぽっかりと暗い空間へと続いている。


「この奥に、ヒャッパがいるみたい。中から変な音がひびいてる」


 沙耶の言う通り耳を澄ませば、階段の奥からはやたらとさわがしい音がひびいている。

 どちらかと言えば、生物学からは想像がつかない工業的なひびきだ。


「だんだん確信を得てきたわ。

 フランク・スタイナー博士はやっぱりおおやけにできない研究に手を出してる」

「だけど、この中にハヤタ君が連れ込まれている保証はないよ。

 本当に博士に拉致(らち)られたのかな?」


 沙耶の言葉にタタミちゃんが頭をひねるが、おれは首を振った。


「少なくともヒャッパがこちらに向かったのは間違いない。とりあえず階段を下りてみよう」

「ウダウダ言ってないでさっさと降りようぜ。

 正直後ろの部屋は俺でさえ苦手だ」


 キースにうながされ、おれたちは逃げるように階段をかけおりた。

 階段の踊り場から角を曲がると、一番下にはうずくまっているヒャッパの姿が見えた。

 おれらが駆け付けると、ふりむいたヒャッパは顔をしかめた。


「もう追いついたのか。

 正直、スタイナーの話を出さなきゃよかったぜ」

「お前1人で解決できるわけないだろ。それより、いったい何してるんだ?」


 見ればヒャッパの顔は手にしたタブレットと、目の前の観音扉のノブにつけられた小さなモニター付きのテンキーを行ったり来たりしている。


「このドアには厳重なセキュリティーがかかってる。

 だけどオレにかかりゃ、こいつがどんなに堅くてもチョイチョイと開けられるぜ」


 タブレットの画面を見れば、恐ろしく早く流れる数字の列が、中央にある横長の仕切りつきの(わく)の中を通り過ぎていく。

 ヒャッパはそれを片手でいじくっていると、数字の列が途中で止まり、いくつかの数字を示したまま消えてなくなっていく。

 やがて枠の中の数字がすべて埋まると、ヒャッパはその数列をそのままテンキーに打ち込んだ。

 テンキーからピッ、という音が鳴り、扉からガチャンという音がひびく。


「よし、セキュリティ解除。

 しょせん生物学者じゃアマチュアのハッカーにも勝てないか」


 見事な手際の良さにあ然としているおれたちをよそに、ヒャッパは開けられたドアノブにさっさと手をかけてしまう。

 おれは思い出したように首を振り、ヒャッパの肩に手をかけた。


「その前に説明しろ。なんでお前はスタイナーが犯人だとわかった?」


 するとヒャッパはいったんドアノブから手を離し、がっくりとうなだれた。

 おれたちは辛抱強く返事を待った。


「今回の件、うちの『強彦(つよひこ)』が一枚かんでる……」

「強彦って、あんたの部活の顧問やってる、情報技術の沖潮(おきしお)先生だよね?」


 タタミちゃんに言われ、ヒャッパは仕方なしにうなずいた。


「どうやらスタイナーの仕事を手伝っているらしい。

 自分の意志かどうかわからないが、もし(おど)されてないのだとしたら……」


 普段から呼び捨てにしているほど先生を見下しているヒャッパだが、犯罪にかかわっているとなればさすがに心配でならないのだろう。

 わずかに見える横顔にはあせりの色が浮かんでいる。

 キースが思わず顔をあげた。


「そう言えば、部屋の中から電流が流れている音がしたな。

 奴の実験には、電気に詳しい人間の力が必要なのか?」

「だとしても、確かめなきゃ真相はわからないだろ。くれぐれも慎重に扉を開けろよ?」


 おれの言葉にうなずいたヒャッパは、ふたたびドアノブに手をあてがい、徐々にゆっくりとレバーを押し下げた。

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