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(3)

「もう、なんなのあれ。

 あんなムチャクチャなボール、打てるわけがないじゃない」


 がく然とした表情で戻ってきたミノンちゃんを、女子3人が立ちあがってなだめに向かう。

 先ほどの教頭のアドバイスをそのまま彼女に話し、なんとか気を持ち直したようだ。


 しかし、おれは考えた。

 いくら投げられる回数が限られているとはいえ、魔球2号を見過ごすわけにはいかない。

 難攻不落(なんこうふらく)の決め球を持っているということは、こちら側の士気をおおいに下げる可能性がある。


 おれは教頭のほうをちらりと見た。

 経験の長いこの人は向こうの世界ではよく知られているこの難題に関し、何らかの知識があるはずだ。

 それを今すぐ問いかけてもいいが、ミノンちゃんのこともあるので次のイニングを待った方がいいかもしれない。

 ミノンちゃんは座る位置を変え、弥子ちゃんのとなりになったので沙耶の姿はさらに離れたが、この時ばかりは仕方がなかった。


 次にボックスに立ったのはキース。

 野球の経験は全くないが、ミノンちゃんのこともあってさすがに真剣に取り組もうとしている。

 あまり問題はないだろう。

 しかし相手の豹摩は様々な球を投げ、さらには攻略されたはずの魔球1号まで駆使(くし)してキースをほんろうする。

 様々な吸収の中に入り混ぜれば、1号はいまだに健在、というわけだ。

 キースはあえなく三振に討ち取られた。





 キースが戻ってきたとたん、沙耶が立ちあがってベンチの前で振り返った。


「ちょっと言いそびれてたことがあるの。

 魔球1号のことなんだけど、あれは野球経験がない人間のほうが有利よ」


 それに対し華鷹のほうが「どういうことだ?」と問いかける。沙耶がうなずく。

「あれは一般的なボールよりずっと早いスピードで投げられるもの。

 野球経験者はボールがストライクゾーンに向かうタイミングが体に染みついているから、それに慣れ切ってしまった人はなかなかそれについていきづらいはずよ?

 だから、ボールに慣れ切っていない素人の方がずっとタイミングをうまくつかめるってわけ」

「だったら俺はなんで1号を攻略できないんだ?」


 キースが不機嫌ぎみに問いかけると、沙耶は顔をそむけた。


「知らないわ。

 日ごろたるんでるから運動神経がついていけないだけじゃないかしら?」


 ちょっとした険悪ムードをおれがなだめようとした時、突然会場がざわめいた。

 沙耶が後ろを向くのに合わせこちらも視線を変えると、非道丸の足元で倒れ込む豹摩の姿が見えた。

 どうやら容赦(ようしゃ)なく鉄拳制裁(てっけんせいさい)を受けたらしい。


「相手をナメてしまったことはあやまります!

 だけどあのシロート女に、まさかオレの魔球が打ち返されるだなんて……!」

「お前は彼女のことをよく知らないからそんなことが言えるんだ。

 言っただろう、たとえ野球の経験がなくとも、狛田村沙耶に対して決して手を抜くなと!」


 言って非道丸はベンチの前に立つ沙耶に対して鋭い視線を送る。

 対する沙耶もまた、立ち上がるなりゆっくりと腕をくんで仁王立ちした。

 チラリとうかがえるきれいな横顔が、相手とまったく同じ目線を返している。


 非道丸にとって沙耶は直接ケンカしたこともある因縁(いんねん)のライバルだ。

 今回の試合は、その雪辱(せつじょく)を晴らす意味もあるだろう。

 それにおれもだ。おれもきっと非道丸にとって因縁の相手に違いない。

 それを思い返しつつ、おれはキャップを目深にかぶり、ベンチを立った。





 8番レフトの一蔵、そしてピッチャーの豹摩と、おれはベンチに立った相手を次から次へとベンチに沈めていく。

 包帯グルグルはバッターボックスでは大したことはなく、本人のやる気もそれほどではなくそれほどの相手ではなかった。


 打席は一巡してふたたびギョロ目の馬場。

 静かな闘志(とうし)をみなぎらせて立ちはだかる彼を、おれは再びなんとかしのいだ。

 はた目にはおれが順調に相手を倒したと見るだろう。


 しかしベンチに戻る際、教頭のほうがこちらの方に歩み寄ってきた。


「やはり問題があるようだね。

 どうだい、一度みんなに話してみたらどうだ?」

「もう少し様子を見させてください。

 おれが順調なあいだは、みんなを不安にさせたくない」


 教頭はうなずき、みんなにはげましの声をおくってベンチに戻っていった。


 続く3回裏、打席に向かうのはおれの代打のヒャッパ。


「ったくなんでマネージャー役のオレが打席に立たなきゃなんねえんだよ。

 こんなん教頭がやりゃいいだろ?」

「教頭はいずれ誰かと交代してもらうつもりなんだよ。

 いいから早くバッターボックス向かえよ」

「チッ。自分は打席に立たなくてすむからってのんきなこと言いやがって」


 そう言ってしぶしぶボックスに向かうヒャッパをおれたちは肩をすくめて見送る。

 打席に立ったヒャッパを、豹摩はここぞとばかりに挑発的ににらむ。

 あまりにするどい目つきに、ヒャッパはあからさまにビビり倒している。


「しっかりしろよー!

 もし連続三振したらひどい目にあわせるかんな~」


 キースが笑いまじりに言うと、ヒャッパがビクリと肩をふるわせた。


 結果は、文字通りの連続三振だった。

 おどおど戻ってくるヒャッパに対し、キースはどう料理してやろうかと言わんばかりに舌なめずりする。

 おびえる小動物はベンチに座るなり身をちぢこませた。


 その後はタタミちゃんと華鷹先輩がヒットを打つものの、豹摩の魔球を()り交ぜた戦術にみんなが翻弄(ほんろう)され、結局1点も取れずに3回裏は終了した。





 続いて野球部の攻撃。バッターボックスに立つのは、あのチアキだ。

 今回の試合では唯一のヒットを飛ばした野球部員だけに、余裕しゃくしゃくと行った様子だ。


 いや、それ以前にチアキは先輩方からアドバイスをもらっている節がある。

 それだけに、奴はおれの弱点をあらかじめ熟知(じゅくち)しているはずだ。


 どうにも、おれは先立つ不安を抑えられない。

 しかしそれを悟られないよう平静を保ちつつ、ボールをグローブの中に隠した。

 勢いのままに、ボールを一瞬で放つ。

 この時はボールゾーンから真ん中に戻るタイプの変化球だったが、その時のチアキのしたり顔がおれの脳裏に鮮明に焼きついた。


 カキィィィン。

 ボールはおれのすぐそばを一直線に通り過ぎる。

 振り返るとショートのタタミちゃんはそれを受け止めきれず、彼女の横を抜けていく。

 影乃とタコゾウが同時に動くが、丸い巨大ボールになったタコゾウのほうが一瞬でキャッチして、体型を戻してボールを投げた。

 その頃にはすでにチアキは一塁を通過しており、セカンドのミノンちゃんがボールを受け止めることでなんとか事なきを経た。


 ため息をつきつつ、おれは正面に顔を戻した。

 先ほどとほぼ同じ展開。バッターボックスに立つのは、またしてもあの男だ。


 非道丸はバットの先をこちらに向けたあと、ぐるぐると振り回して構えをとる。

 チアキにとっておれのボールなどと待っているも同然だが、こちらの方はどうか。

 奴に対し、おれは変化球を2つ投げた。

 どちらも相手にボール球だと見抜かれ、見過ごされた。

 そのたびに非道丸に不敵な笑みが浮かぶ。


 まずい。奴はおれの弱点を熟知(じゅくち)している。

 おれは一計を案じ、微妙(びみょう)に変化するストレートで勝負をかけた。


 またしても甲高い打球音。

 球は空高く舞い上がり、後ろの芝生の中へと向かう。

 しかし、外野には素早く動く丸い影がある。


 身体を丸めたタコゾウは一瞬のうちに落下するボールの真下まで動き、体型を元に戻してあっけなくボールを受け止めた。

 その瞬間に非道丸は走っていたコースから抜けた。


 ところが、タコゾウはおかしな行動に出た。あろうことか、

 非道丸が消えたはずの一塁に向かってボールを投げたのだ。

 意味がわからないながらもチアキを見ると、少しとまどいながらも3塁ベースへと向かう。


 あわてた様子のキースが渾身(こんしん)の力を込めて華鷹先輩にボールを投げる。

 しかし時すでに遅く、相手がボールを受け止めるときには、チアキはホームベースへと向かっていた。

 奴は俊足(しゅんそく)自慢(じまん)なだけに、あっという間にホームイン。


 華鷹が怒り心頭と行った様子で、状況が理解できないと言わんばかりに周囲を見回すタコゾウのもとへと向かう。


「バカッッ! 非道丸は今のでアウトになってんだよっ!

 フライキャッチは受け取ったらアウトにできるんだよっ!

 お前ちゃんとルールを確認したのかっ!?」


 目の前でどなり散らされるタコゾウ。

 彼に対し誰もがしらけた視線を送る。


 こいつ、まともにルール確認してないな。


 次の瞬間、吹き飛ばされたかのようにタコゾウの丸い身体が空中を舞い上がった。

 丸まった奴の身体はあっという間に大空の中に消えていった。


「わぁぁぁぁぁぁっっ!

 アイツ責任を放棄(ほうき)して逃げやがったぁ~っ!」


 タタミちゃんがここぞとばかりに大声をあげるが、もはやあとの祭りだった。

 ミノンちゃんが怒り心頭でグローブを地面に叩きつけた。


「あんにゃろ~っ!

 よもやルール確認さぼって、いつもみたく好きな音楽聞きまくってやがったんだなぁ~っ!」


 一方の野球部は、そろって笑い声をあげる。ホームベースのチアキは腹をかかえて大笑い。

 クールな印象の非道丸や馬場もこらえきれないと言わんばかりの笑いようだ。あの勢尊ですら、うつむいて肩をふるわせている。


 おれはただ、それを見てゆっくり首を振るだけだった。





 そのあとはなんとか勢尊とクルガを押さえ、同点で回を終えた。

 逃亡したタコゾウに変わってセンターに立った教頭が、みんなを集める。


「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」

「教頭、今その話をするのは早いんじゃないんですか?

 おれはまだ大丈夫です」

「そうも考えてたんだけど、早いうちに警告したほうがいいんじゃないかと思って。

 出来るだけ緊張させないようにして話してごらん?」


 おれは仕方ないと言わんばかりにうなずき、教頭の後を引き継いだ。


「こっからの展開だけど、おれの攻撃はかなり(きび)しくなると思う」

「あなたが人間だから?

 たしかに人間の身で9回まで投げるのは、だいぶ体に負担をかけるはずだけど」


 心配そうに見つめる沙耶に、おれはうなずいた。

「それも確かにある。

 だけどそれ以前に、おれには致命的な弱点があるんだ」


 それには野球経験のあるメンバーすら首をかしげた。


「おれが人間であるということは、死霊族が投げる球よりもスピードが遅いということだ。

 当然動体視力がいい相手からすれば、おれの投げる球は止まって見えると思う」


 これには番長が苦言をていする。


「でも、うまく奴らを出しぬいてるじゃねえか。

 お前は変化球をうまく取り交ぜてなんとかやってるように見えるが?」 

「そうかもしれないけど、変化球ならなんでもかんでも通用するわけじゃないんだよ。

 スピードが遅い球なら、それだけでどんな球種なのか相手にすぐ見抜かれる」

「それじゃ、投げる球投げる球すべて早い球種にせざるを得ないってわけね?」


 おれは野球にいくらか詳しい沙耶のほうを向いた。


「それも、いずれ難しくなると思う。

 ボールって言うのは回転の向きや回数でも、どのような球種なのか判別するヒントになる。

 プロ野球選手の中にはそれをうまく見抜く能力を持った人もいて、たとえどんなに速い球でも正確に打ち抜くことができるらしい」


 おれは相手ベンチのほうを見た。


「ましてや日ごろ野球に打ち込みまくってる死霊族の集団だ。

 いずれはおれの変化球も、即座に見切られるに違いない」


 ここであ然としたタタミちゃんが、すっとんきょうな声をあげた。


「それってだいぶピンチなんじゃん!

 新介、最後まで投げられるのっ!?」


 おれは彼女に向かって歯をむき出しにして人差し指を立てた。


「しーっ! 声が大きいよ。今はまだ大丈夫だ。

 いくら野球慣れしてる非道丸や馬場でも、まだおれの投げる球を完璧には把握し損ねているらしい。

 だけど、クルガは少しヤバい。チアキにいたってはもう限界だな」


 4回裏にして、早くも牽制(けんせい)球を投げる必要が出てきたようだ。

 もはやチアキは放置するより仕方ない。


「だからみんな、おれの活躍にはもう期待するな。

 おれに無失点を期待するより、むしろどうやって豹摩を攻略するか、真剣に考えた方がいい」


 しかし華鷹はろこつに不安を顔に浮かべた。


「それだけでは不安があるな。お前は最後まで投げられるのか?

 相手は問題ないだろうが、こちらとしては新しいピッチャーがほしいところだな」

「教頭先生がやればいいんじゃないの? 経験長いでしょ」


 ミノンちゃんは言うが、教頭は口笛を吹いてそっぽを向いた。

 この時、おれはある人物が目線を外していることに気がついていた。

 しかしそのことを切り出すのはまだ早いと判断した。

 もう少し判断材料がほしい。そのためには次の攻撃を待たなければならない。





 時間は経って、6回裏。


 これまでの試合展開は、どちらもバッターが何本かのヒットを放ち、しかし別のバッターが打ち取られることによって無得点に終わる、といった内容だった。

 このようなこう着状態になると、当然試合時間も長くなる。


 そのため、時間はお昼を過ぎていた。

 長い試合にうんざりしたギャラリーは新たな波が訪れるまで待てないので、次々と昼食に向かっていく。


「ほらほら、あんたたちも腹が減った状態で(いくさ)なんかできないでしょ。

 差し入れ持って来たよ」


 見覚えのある女子がやってきた。

 ウェーブがかった緑色のロングヘアの一年先輩、迷仲遊騎奈(まよなか ゆきな)はタタミちゃんにとっての姉弟子であり、当然タタミちゃんは「センパイッッ!」と言って立ち上がる。


「ハハハ、あんたたちもずいぶん厄介なことに巻き込まれちゃったね~。

 忍術勝負なら相手にならないだろうに」

「野球勝負だから、おれが相手になってますよ。

 もっとも試合展開は苦しいですけど」


 おれが以前ユキナさんと会ったことを知っているらしく、タタミちゃんはおれが口を挟んだことに異を唱えずに、ユキナさんが差し出した弁当箱の中の唐揚げに爪楊枝(つまようじ)を突き刺し、ほうばった。

 口をもぐもぐさせながら「やっぱセンパイ料理うまいわ……」とつぶやく。


 仲間たちが同じように唐揚げを拝借するなか、先輩はおれの前に立った。


「ほら、あんたも。

 だーいじょうぶ、素材は普通の鳥肉だって」

「いや、遠慮(えんりょ)しときます。

 人間は死霊族と違って、運動中に食事をとると身体の動きに支障(ししょう)が出ますんで」


 現役時代に教わったことだ。

 腹の中に消化物があるとそれにエネルギーを使ってしまい、動きが取れなくなる。だからプロスポーツ選手は試合前や最中は水分以外食事をとらない。

 おれも当然、ダメ押しにスポーツドリンクを飲んだだけで済ませた。

 ユキナさんは残念そうな顔で「ふ~ん、おいしいのに」というのを、おれは頭を下げてあやまった。


 空腹がないかと言えばウソになるが、ここはドリンクでごまかして、試合に集中することにした。





 七回表、我々はピンチに立たされた。


 葬也に続き、チアキがヒットを放ったことで、ベース上は1塁3塁が埋まっていた。

 続いてバッターボックスに立つのは、非道丸。


 おれはひそかに眉を寄せた。

 ここのところ、あきらかに奴はおれの攻略法を見抜いている。

 おれがどのような球種を使い、そして試合が経過する過程でその種類がどんどん減っていることを、おそらく見抜いているはずだ。


 そのせいで、奴のドクロメイクには余裕の笑みが浮かんでいる。

 すでにおれはボール球を2回も与えている。ストライクは1つしかとっていない以上、もはや勝負は避けられない。

 おれは比較的速度の速い、変化球を投げつけた。

 しかしボールが奴の目前に近づいた時点で、その目がカッと開かれたのを見た瞬間、覚悟を決めた。


 カキィィィィィィィンッッ!

 ボールは大空高く舞い上がる。おれは悟った。

 こいつは確実に、グラウンドの外に飛び出すぞ。

 いちいち目を向けはしなかった。

 しかし観衆の悲鳴(ひめい)にも似た絶叫が、そこらじゅうにこだました。


 葬也とチアキがホームインしていく光景に少しだけ目を向けながら、おれは必死に策を練っていた。

 もはや、少しのちゅうちょも許されない。

 同時に教頭が「タイムッッ!」と大声をあげた。


「……どうすんの新介っ! このままじゃ負けちゃうよっっ!」


 ようやく顔をあげると女子たちは悲痛な表情を浮かべ、男子たちも心底不安がっている様子を見せた。

 おれは決心をまなざしに込めた。


「試合中、どうしても気になっていたことがある。

 この中で、本気を出していない奴がいる」


 おれはあるメンバーに目を向けた。

 そいつは見られた瞬間影に隠れようとしたが、いつの間にか忍び寄っていた教頭が彼を捕まえ、前に引っ張りだす。そのイヤそうな顔がなんとも。


「影乃君。ボクは知ってるんだよ?

 キミ、ホントは左利きなんでしょ。

 こっちはそんなこと承知(しょうち)済みなんだから、観念しなさい」


 影乃を見た仲間たちは半ばおどろき、半ば納得してうなずいている。

 教頭が引っ張る左腕は、グローブの中が包帯でぐるぐる巻きになっている。

 この包帯の中身こそが、影乃がずっと右手でプレイし続けてきた理由だ。


「そんな、オレにはできない……

 この『魔鬼眼(まきがん)』を使って、ボールを投げるなんてことは……」


……一瞬場がしらけた雰囲気に包まれた。


「あのさあ、それネーミング変えない?

 なんで手なのに眼なの。眼って……」


 うんざりしてツッコむおれを、ミノンちゃんはたしなめる。


「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょっ!

 だいたい、影乃君が左手を使わないのって、込められた能力がいまいちコントロールできないからじゃなかったっけ!?

 なのに今さら左手を使えってのも(こく)な話じゃない!?

 だいたい新介君に変わるピッチャーはどうすんの! まさか……」

「ああ、そのまさかだ。

 影乃に、新しいピッチャーになってもらう……」


 なんとなく察しはついていたが、はっきりと言われてショックを受けた、

 と言わんばかりにみんながどよめいた。

 影乃はすぐに激しく首を振った。


「バカなっ! これは野球の試合なんだぞっ!?

  誰かを殺すための戦いじゃないっ! オレがこの腕を使えば、みんなが危険にさらされるっっ!」

「そう言うと思って、今の今までだまってた……」


 おれは影乃の肩をがっちりとつかみ、まっすぐおびえる目を見つめた。


「だけど、それはこのあいだ証明されたはずだ。

 たとえ危険な能力でも、自分の意志1つでいくらでもコントロール出来るんだって。

 大丈夫、お前はその腕を暴走させたりなんかしないさ」


 それでも、影乃はおれに慎重な目線を送る。


「予想でものを言うのは危険だぞ。

 だいたいそこまでリスクを(おか)す必要は……」


 言いかけて、言葉が(よど)んだ。おれは後を引き継いだ。


「あるさ。この試合に負ければ、少なくともおれ1人が死ぬことになる。

 危険を冒すには、十分な理由だろ?」


 おれはみんなの視線が突き刺さっていることに気づき、キャップを目深にかぶった。


「教頭は、おれの意見に賛同しますか?」

「うん、仕方ないね。

 大丈夫、監督に言って、周囲のみんなに警告するように言っておくから。

 いざという時の体制も、万全なものにしとく」


 チラリと視線を向け、おれはうなずいた。

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