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(3)

 沙耶たちはミノンちゃんに声をかけに行っているので、おれはその間に他の候補に声をかけに行った。


 次に会ったタコゾウはあらかた説明すると、無言でうなずいてくれた。

 クルリとうしろを向くと、彼はひそかに「ウヒヒヒヒ……」と笑っていた。


「い、いくら特殊能力がオッケーだからって、お前自身がボールになって相手にぶつかるのはナシだからな」

 タコゾウは向こう側を向いたまま親指を立てた。





 ここからは全く話しかけたことがない生徒が相手になる。うまく話に乗ってくれるだろうか。


「大丈夫だろ。

 死霊族なんだから、苦痛がなけりゃイジメなんてまったく意味がない」


 キースはそういうが、とりあえず声をかけた先輩は残念な返答をした。


「い、イヤだぞ俺はっ!

 主将の非道丸はまじめな奴だが、その後輩連中はどれもふざけた奴ばっかりだ!

 クルガもアンジンもチアキも、そろいもそろっておれに寄ってたかってイジワルばかりしてくるんだっ!

 もうあんな奴らにかかわるのはゴメンだっ!」


 具体的な内容を聞くと、素っ裸にして外に放置したり、持ち物を奪ってズタズタにしたり、片想いしていた女の子にあれこれ吹聴(ふいちょう)してイメージを悪くしたり、などなど。

 キースがなぜかニヤニヤしてアゴをさする。


「あーなるほどね、(なぐ)()る以外にもいろんな手法があるわけだ。

 でもそうなるとやってることが小学生レベルに聞こえるな」

「そ、そういうことだっ!

 とにかくこっちとしてはあいつらの顔も見たくないんだっ!

 悪いがもう2度と声をかけないでくれっ!」


 言うなり先輩は足早にその場を立ち去ってしまった。


「どうする? もう1人声をかけようとしてた先輩も似たようなもんだぞ?

 はっきり言ってこっちの方も望み薄だな」


 ヒャッパが残念そうな表情でこちらをうかがう。


「別動隊の沙耶たちに期待するのもあれだから、もう少し候補(こうほ)がいないか調べてくれないか?

 なんなら未経験者でも仕方がない」


 言われヒャッパが調べようとしたところ、そのケータイから着信が鳴った。

 ヒャッパはそれを耳に当てた。


「ああもしもし? こっちは収穫少なめだ。でそっちは?

 ……ええっ!? いいのが見つかったっ!?」





「ああ、やってやってもいいぜ?

 野球部にはいろいろ因縁(いんねん)もあるからな」


 そう言うのは、これも元野球部に所属していた

鶴見華鷹(つるみ はなたか) 』と言う男。

 おれたちよりも1年先輩で、前髪が異様に前に押し出されている。そして眼光もかなり鋭い。


「いったい、なにがあったんですか?」


 沙耶が問いただすと、華鷹は首を振りながら深くため息をついた。


「どうしたもこうしたもない。

 俺は正直、もう非道丸にはついて行けない」


 心底うんざりした顔つきだ。

 それでも一応、「あの、非道丸さんって一応、先輩なんですよね?」と聞くと、相手はギロリとこちらをにらみつけてきた。

 そうじゃない時でも眼光が鋭いのでよけい怖く、おれは声にならない叫びをあげた。


「誰があいつをキャプテンだなんて認めるもんか。

 あんな奴についてってるほかの部員のほうがわけわからん」

「確かに非道丸はちょっと変な奴ですけど、具体的に何がトラブルの原因になったんですか?」


 夜になっていたので、集まった場所は寮の談話室だ。

 タタミちゃんが問いかけると、華鷹先輩はゆったりできるソファーにどっかりと背をあずけた。


「何もかもおかしな奴だ。

 あいつとはいろいろモメたが、特に俺が理解できなかったのは奴がかかげる目標だ」


 タタミちゃんが「目標?」とオウム返しすると、相手は両手を広げた。


「なんでも野郎、

『人間界の高校野球に出場して、甲子園を目指す』んだとよ」

「「「「はああぁぁぁぁぁぁっっ!?」」」」


 これにはその場にいる全員がビックリしてしまった。


「ちょ、ちょっと待てっ!

 あの格好で甲子園目指すだぁぁっ!? どう考えてもおかしいだろっ!」


 すっとんきょうな声をあげるキースの頭をヒャッパがはたく。


「それ以前の問題だろっ! オレたちゃ死霊族だぞっ!?

 人間よりも力がある奴が普通の高校生と戦えるわけがないだろっ!

 ていうか日本政府が許さないだろっ! ムダだよムリっっ!」


 華鷹は半笑いぎみにうなずいた。


「そういうわけだ。

 そんな頭のおかしい奴がキャプテンじゃ、こっちもやる気なくすっつーの。

 もっとも他の連中はちゃんと野球ができりゃどうでもいいらしいが、俺は正直ムリだったな」

「じゃ、じゃあ、おれの心臓を変な神様に捧げてまでもかなえたい願いってのは……」


 おれがガクガクふるえて言うと、華鷹は身を起こした。


「間違いないな。

 あのドアホは、いるはずもない神様にいけにえをささげれば、間違いが起こって自分たちでも高校野球に出られるとカン違いしてるらしい。

 変人もあそこまで行くともはやビョーキだな」

「だとすると、ちょっとおかしいですね」


 ここで沙耶が、難しい顔で腕を組み、先輩に問いかけた。


「華鷹先輩は、どうして他の学校に転入しないんです?

 先輩が部をやめたのは人間関係が原因でしょう?

 先輩の野球への情熱はそこで冷めてしまわれたんですか?」


 少しぶしつけな質問のような気もしたが、相手は気にせず軽く手を振り仰いだ。


「俺は、非道丸以外の連中が好きだからな。

 ダチと離れ離れになってまで、他の学校で野球を続けるつもりはない」


 華鷹は沙耶の顔をまじまじと見つめた。


「野球部員に弐嶺千阿鬼(にれい ちあき)って奴がいるだろ。

 特にあいつとは無二の親友で、今でも部の練習が終わったあとでこっそり2人で腕を磨いてるんだ」

「あのチアキが? 一番不良っぽそうな奴だけど」


 ヒャッパが信じられないと言わんばかりの表情になると、華鷹はそれを鼻で笑った。


「よく言われるよ。

 もっともあいつの目標は死霊族の硬式野球大会の高校部門で優勝することであって、甲子園なんてどうでもいいはずだ。

 他の部員も同じじゃないか?」


 ここで影乃が口を開く。その表情はせつなげだ。


「でも、先輩はもっと練習に打ち込みたいはずだ。

 俺は途中で道をあきらめざるを得なかったから、その辺りはよくわかる」


……おれもだ。正直、野球は続けられるものなら続けたかった。

 今はそれほど未練(みれん)はないが、もし野球を続けていたらという想像にふけることはある。


「俺は2年、非道丸は3年だ。

 来年にはいなくなる。そうなれば部に戻るさ」

「1年は短いようで長いですよ? それまで耐えられますか?」


 きわどい質問に先輩はムッとしたが、気を取り直したように首を振った。


「いや、そこまで待つ必要はなくなったのかもしれんな。

 お前らが持ちかけた話は、もしかしたら俺にとってはチャンスかもしれん」


 そして俺の方をまじまじと見つめた。


「お前らが野球部に勝てば、あの野郎もさすがに目を覚ますかもしれん。

 その可能性を考えれば、この話に乗らない手はないな」


 しかし、すぐにがっかりしたような顔つきになる。


「不安要素は多いがな。

 いくらハンデ戦とはいえ、お前らは未経験者、普段の授業を犠牲にしてまで野球に打ち込んでる連中に、どこまでかなうかどうか……」


 それを聞いて、周囲は誰もが顔を見合わせる。

 先輩は気を取り直したように告げた。


「人間、お前は経験者だったな。ポジションは?」

「ピッチャーです。しかも変化球が専門です。

 それ以外はあまり期待しないでください」

「ふうん、人間でピッチャーか。

 不安要素はあるが、変化球が得意だってんならなんとかなるだろう」


 影乃が口をはさむ。


「俺は外野を担当してました。

 小6で野球をやめる際はライトを担当してました」

「おい、お前リトルリーグどまりか!

 まったく、それでまともに野球やったつもりになってるとは、先が思いやられるなオイ……」


 あまりに露骨ながっかりの仕方なので、おれは思わず「先輩だってブランクありますよね……」とつぶやいた。相手は「うっ」と口ごもる。


「あと荒木笹勝馬先輩も野球経験があるそうで、今回はキャッチャーを担当してくれるそうです」


 おれが言うなり、華鷹は目を大きくさせた。


「あの応援団長がっ!?

 確かにあいつはキャッチャーであることを自慢(じまん)してるが、キャッチャーってのはどんな球でも受け止められるだけじゃ役には立たない。

 捕手にはピッチャーの目に映らない周囲の状況をしっかり把握しておく必要があるんだ。

 奴にそれができるとは思えないね」

「あ、やっぱりそうなんだ。それもまた今回の不安要素ですね」


 一通り聞き終えたあと、華鷹は呆れかえったように手を振った。


「ダメだダメだ、全然話にならない。

 今回ばかりは、お前らに分が悪いな」

「やってみなきゃわかんないじゃない。それでもアタシたちにはやるしかないんだから。

 それとも先輩は今回の試合で負けることで何か減ることでもあるの?」


 タタミちゃんにするどく突っ込まれると、先輩は首を振った。


「ない、ないさ。

 だけどな、このままの状態で勝とうってんならはっきり言って無理だぞ?

 正直、ほかに当てはないのか?」

「先輩がそう言うなら、もう少し人材を探してみますけど……」

「でも、野球が好きな生徒ならすでに部に入ってるはずよね。

 やめた人間はここにいる華鷹先輩と違って完全に野球をあきらめているようだし、ひょっとしたらもうこの学校には……あっっ!」


 言いかけた沙耶が突然立ち上がった。

 短いスカートからパンツが見えそうになったので、すぐとなりにいたおれは思わず顔をそむける。


「なんだよいきなり立ち上がって。

 なんか心当たりでもあるのか?」


 沙耶はこちらを向いて訴えかけるように顔を近づけた。


「野球をやったことがある人なら、なにも生徒じゃなくてもいいんじゃない!?

 たとえば、先生をチームに引き入れるとか」

「おいおい、そんなんで向こうが納得すると思ってんのか?

 野球部はともかく、バックにいる生徒会が納得しないぞ?」

「いいえ。今回の騒動(そうどう)の背後にあるのは、人間であるあなたが気にいらない生徒会と、対立する教職員側の抗争よ。

 あちら側にしてみれば教師たちも当事者なんだから、それをうちのメンバーに引き入れたところで何の問題もないはずだわ。

 いいえ、決して文句なんか言わせない」


 力説しながら人差し指を立てる彼女は、顔をこちらに近づけているためにパンツがきわどいことになっていることに気付いていない。

 そのせいで、後ろのほうにいるヒャッパの目がそこにくぎ付けになってしまっている。このクソスケベめ。

 が、やがて沙耶は直立し胸に手を当てた。


「この狛田村家の息女の名にかけて、これ以上は譲歩(じょうほ)しないわ!」

「ハハハ、それはいいね。

 ここはぜひとも先生方にもご協力いただこう!」


 華鷹は喜ぶが、おれは首を振った。


「念のため、生徒側の候補ももう少し探しとこう。

 ヒャッパ、いちおうリストアップのほうを続けてくれないか?」

「オッケィ了解。

 こちらとしては人数が多ければ多いほどオレがグラウンドに立つ必要がなくなるからな」


 ヒャッパはどこまでも現金な奴だった。





 どこからつなぎがつけられたのか、生徒会から教師の参加オッケーの返事が来た。

 職員室に呼ばれ、メンバーとして名が挙がったのはなんと……


「ああ、ボクだよ~。

 こう見えても学生時代は野球部で鳴らしてたんだ~」

「『教頭』がっっ!? 意外ですね。

 てっきり軽音部でギターを弾いてるもんだとばかり思ってました」

「はははは、よく誤解されるけどね~。

 言っとくけどこの格好はロックファッションを意識してるわけじゃないんだよ。

 聞くのは好きだけどね~」


 意外な話に、おれは思わず顔に手をやってしまった。


「教頭先生は、どのポジションを担当されてたんですか? 打順は?」


 沙耶に聞かれ、教頭は机に両ヒジを乗せ、遠い目をして上を見る。


「そうだねぇ~。

 ポジションはサード、球を受けるよりバッティングのほうが得意だったかなぁ~」

「そうですか、それでは今回の助っ人である華鷹先輩と同じですね。

 いちおう先生にはベンチとして参加してもらおうと思っていますが、よろしいでしょうか」


 すると教頭は満面の笑みを浮かべて親指を立てた。


「全然オッケー! こっちとしては新介君を騒動(そうどう)に巻き込んだ手前、放ってはおけないからね。

 そんなことより、みんなの練習はどうなってる?」


 問われると、おれの顔は自然に不安げなものになってしまう。


「なかなか難しい状態ですね。

 みんなのポテンシャルはもともと高いので動きは大丈夫ですが、野球のルールは一般の人が考えているよりずっと複雑ですからね。

 特にタタミちゃんとキースは妙にカン違いしてるところがあるから、一苦労です」


 おれが言い終わるのを待って沙耶もうなずく。


「わたしも、あらためて勉強して気付かされたことがありました。

 野球ってのは意外に複雑なゲームなんですね。ヒャッパ君はよく勉強していて感心しますが」

「野球を知らないみんなには、ホントに苦労をかけるね。

 経験者もブランクが長いようだし」


 そして教頭はまじまじとおれの方を見る。


「キミ、その間に野球のボール、握ったことあるの?」

「……正直、目を向けてもいませんでした。

 プロ野球とか、甲子園に地元の学校が出場した時くらいは見るんですけど、野球をやめて以降は全く別の趣味にハマってしまいまして……」

 心底恐縮したように言うと、となりで沙耶がこれまた申し訳なさげに横目を向ける。

「新介君、どうして野球をやめてしまったのか、聞いてもいいかしら?」

「ゴメン。

 当時のことを思い出すから、事情はまだ話したくないんだ。

 いつかはちゃんと言うつもりなんだけど……」


 頭の後ろをなでながら、おれは当時のことを思い出す。

 あの時のくやしさはだいぶ薄れたが、まだ笑って話せるような心境ではない。


 それを見て、ますます悲痛な表情になる沙耶だった。





「あ~あ~違うっ! そうじゃなくって、こうっっ!」


 グラウンド、もちろん野球部が使っているものではなく校庭のすみで、華鷹先輩がキースとタタミにノック指導をしている。

 タタミちゃんは生真面目に取り組んでいるが、多少心得のあるキースはあくびをしながらの練習である。


「キースッッ! いくらお前野球知ってるからって調子に乗んなよっ!

 おれたちがのんきに教室にいる間も、野球部はせっせと練習してんだからな!」


 おれがたまらず叫ぶと、キースはここぞとばかりにイヤな顔を向ける。


「てめえっ! 野球部出身だからって調子のってんじゃねえぞっ!」


 華鷹先輩がこちらの加勢に加わった。


「いいや、新介の言う通りだっ!

 ぶっちゃけコイツよりタタミちゃんの方が扱いやすいっ! なんとかしてくれっっ!」


 すると別のほうから叫び声が飛んだ。


「いいや! 新介は今からおれとピッチング練習だっ!

 おい、早くこいっっ! こっちはずいぶん待ちくたびれてんだぜっっ!」


 声のする方を見ると、他のみんなより背丈の高いバンカラ姿の大男がウ○コ座りしておれを待っている。

 急いで斜面のくさむらをかけおりた。


「番長、その格好で練習するんですか?

 ひょっとして本番もその格好のつもりですか?」

「いやなのかよ? 応援団長が他の格好してどうすんだよ。

 なあに、オレの身体はそこいらの死霊族よりよっぽど丈夫なんだ。何の問題もねえよ」


……まあいいや。どうせ公式の練習じゃないんだし。とにかく練習を始めよう。

「ほらよっ!」番長がボールを投げる――


 しかしそれは高速で向かってくる当たれば絶対死ぬ本当のデッドボールであった!


「おわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」


 あわててかわすと、番長はすぐに「なんで逃げんだよ」と信じられない顔をする。


「あっ、あぶねぇぇっっ!

 当たり前じゃないですかっ! こっちに向かって真っすぐ投げないでくださいよ!

 ただの人間じゃ受け止められないですよっっ! 軽くでいいんです軽くでっっ!」


 番長の舌打ちを聞き流し、おれは後ろの方を見た。

 ボールは草むらの中にめり込んで煙をあげている。


「番長がピッチャーやった方がいいんじゃないのか……?」


 首をかしげつつ草むらに近づき、草むらに開いた穴に手を突っ込む。

 かなりの熱量で「あちっ、あちっ!」と言いながらなんとかボールを取り出すと、久しぶりの感触に思わず妙な感情がわき上がった。


 もう2度と(というのは大げさだが)手に取ることはないと思っていた硬式ボールが、今おれの手の中におさまっている。

 昔の記憶が、チラリとぶりかえした。


「いつまでてこずってんだ! 早くこっちに投げてこいっ!」


 おれは「はいはいっ!」と叫びながら番長のところへ戻り、体で覚えたバッテリーの距離に立った。


 少し緊張し、息を整える。

 なんと言っても久しぶりにボールを投げるのだ。緊張しないわけがない。


 しかし、番長がこちらに向かってグローブを広げたとたん、おれの身体が勝手に動いた。

 その時相手が何か言ったようだがおれの耳には届かず、次の瞬間にはすでにボールを投げたあとだった。


 普通よりサイズ大きめのグローブに、小さく見える白球が激突。

 番長はそれを取りこぼさないように下の手で落ちたそれをしっかりと受け止める。なかなかいい手際だ。


「おう……お前いい球投げるじゃねえか

……お前本当にあの新介か?」

「番長……本当に野球できたんですね」

「なんだお前! オレをうたがってたのかっ! まったくふざけた野郎だ!」

「ちょっ、ちょっと待ってくださいよっ!

 さっきのデッド、じゃなくてデスボール投げないでくださいよっ!?」

「なに言ってんだ。ほい、受け取れ」


 番長がヒョイッと投げると、思ったより柔らかい球が飛んだ。

 おれはグローブを広げ上にあげると、堅い感触が手のひらにすっぽりと収まった。


 チラリと横を見ると、沙耶とキャッチボールしているミノンちゃんが、そこを通りかかった陸上部のメンバーに向かって手を振っている。

 確か彼女、いくつもの部活をかけ持ちしているという話だったが、結局どうなんだろう。


「おい、ぼうっとしてないで早くそいつを投げろ」

 番長の声がかかって、おれはあわてて自分の練習に集中した。





 そのあとも、即席野球チームの練習は続いた。

 朝と晩にはトレーニング。残りの空いた時間で、ヒャッパが調べ上げた野球部の情報を使い、どうすれば勝てるか野球経験のあるみんなで話し合った。


 それでも、不安をぬぐうことはできない。

 おれたちがまじめに授業に取り組んでいる間も、本物の野球部はせっせと練習にいそしんでいるはずなのだ。


 なのに、なんとかほかの方法で連中を出しぬく、そういう発想がおれの頭にはなかった。

 なぜか、おれはきちんとした野球で奴らに勝ちたい、そんな欲求がぬぐえなかったのだ。


 昔の血がさわいでいるせいかもしれない。そう思いはじめるのに、さほど時間はかからなかった。

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