(4)
廃ビルを出たあと、銃声が外に聞こえていたのかパトカーのサイレンが鳴った。とどまっていたら危なかったかもしれない。
ダッシュで病院にかけ込むと、沙耶の案内でICUに向かうことになった。
ところが途中で看護師に声をかけられる。
相手は矢継ぎ早にやれ沙耶の顔色が悪いとか、タタミちゃんのTシャツが血で汚れてるとかとにかくうるさい。
おれはとりあえず他の3人を逃がし(なぜかここあもついていった)、怒る看護師にひたすら適当に説明を繰り返した。いやいや納得させるのに苦労したことしたこと。
ICUでも医者に呼び止められたが、事情を知る別の人にうながされて奥に進むことができた。
やっとの思いで目的地にたどり着くと、ここあが部屋の前の壁にもたれていた。
どこかせつなげな表情を向けると、アゴで部屋の中を指し示した。
うながされるままに入ると、どこかうすら寒さを感じさせる照明に照らされ、ガラス張りの壁の前にタタミちゃんの後ろ姿があった。
彼女も振りかえるとどこか浮かない顔になっている。「沙耶は?」と問いかけると、そっとガラスの向こうを指差した。
ガラスの前に立つと、ちょうど透明なビニールのカーテンの中から防護服に身を包んだ沙耶の姿が現れた。
ゆっくりとした足取りでベッドの上に寝そべるやせこけた男性に近寄っていく。
おれはタタミちゃんのほうを見ないままつぶやく。
「あれが、沙耶のお兄さんなのか……」
「そう。いま投薬実験をしていて、人間だったら絶対耐えられない強力なウィルスを身体に感染させて、新薬やらワクチンを投与してんの。
そっちの方も危険だからお兄さんじゃないと無理なんだって」
沙耶はやせこけた兄に話しかけ、相手は力なくうなずいているようだ。
見ていて痛々しいことこの上ない。
思わずタタミちゃんに目を向けると、彼女もまた難しい顔で腕を組んでいる。
「こういうことでしか、死霊族は人間社会で生きていけないのか?」
「あるいは政府の下で働くとか。それもまたしんどいかもしんないけど。
それ以外の道を選ぶにしろ、アタシたちにはきびしい生活が待ってる」
「それでも、タタミちゃんたちはこっちの世界で生きていこうと?」
「当たり前でしょ?
それがアタシたちの夢なんだから」
彼女は真顔でこちらを見た。
無機質な光に照らされたその顔に、おれはどこか神秘的な何かを感じさせられた。
「っていうか鉄くさいぞ。部屋の中だとよけいに臭うな」
おれが鼻をつまんで反対の手を仰ぐと、タタミちゃんは照れくさく後ろ頭をナデナデする。
「にゃははは、ドジっちゃった。
どうも眼帯をつけたままだとうまくいきません」
「気をつけろよ。お前病院内でかなり怪しまれてたからな。
あとでなんて言われても知らないからな」
「……その通りだ。お前たちの起こした案件、相当なものだぞ。
下手をすれば魔界に永久追放ものだ」
聞き慣れない声に振り返ると、部屋の入口にパリッとしたスーツ姿の男性が立っていた。
廃ビルで出会ったチンピラのリーダーと違い、長身でスーツがよく似合っている。
こちらに近寄ると、ぴっちりとしたオールバックの下にあるシャープな顔立ちが不敵な笑みを浮かべる。
なんだか吸い寄せられそうな顔つき。
「警視庁、公安6課。
13係長の『倉鴨 賢哉 』だ。
今日はずいぶん派手なマネをしでかしてくれたな」
「こ、公安っ!? 公安って、あの……」
「そう、テロリストを相手にするあの公安だ。
6課は表向きには存在しない部署で、超常現象をひそかに取り扱う。つまりアメリカFBIで言うXファイルの日本版に当たる。
13係はその中でも死霊族を担当する部署だ」
「やっぱり、死霊族はずっと監視されてるんですね?」
倉鴨と名乗る男は皮肉まじりの笑みを浮かべてうなずいた。
「表向きはね。
もっとも自分は、君たちをよからぬ輩から守っているつもりだがね」
「守っている?」おれは首をひねった。
「死霊族の存在を知れば、受け入れられずに拒絶する人間もいるだろう。
かくいう私の部署でさえ、もしものことがあれば全力で地上から追い出そうと意気込んでいる奴も多い。
君や私のように理解している係員はごく一握りさ」
おれは眉根を寄せて、病室の中の沙耶に目を向けた。
「ひょっとして、今そのまずい事態が起こってしまったんですか?」
ふとタタミちゃんがうめくような声をあげた。目を合わせるとかなり気まずそうにしている。
最後にまた倉鴨さんに目を戻すと、相手は鼻で笑った。
「いいや、今回は目撃者もそう多くもない。
確かにチンピラ連中の数は多いが、我々で何とか対処できる人数だ」
おれはふぅと胸をなでおろしながらも、気になって問いかけた。
「対処って、この間うちの学校の敷地に入りこんできた猟師たちみたいな?」
言いつつおれは、確かその時に会った全身黒ずくめの集団も彼の部下なんじゃないかと思い返した。
すると倉鴨さんは軽く笑いながらうなずいた。
「あの猟師たちには気の毒なことをしたが、半グレ連中ならそう罪悪感はわかないだろう?」
まあそうですけど。
心の中ではそう思ったが言葉にはしなかった。
「沙耶たちは、どうするんです?
魔界に永久追放だけはカンベンしてほしいですけど」
「そいつはさすがにないが、すぐに魔界に帰ってもらおう。
どうせ彼女は自分のやりたい事を果たしたようだしな」
おれはもう一度ガラスの向こうを見た。
ちょうど話が終ったらしく、沙耶は弱っていながらも笑みを浮かべる兄の額にマスク越しにそっと口づけをし、立ち上がると小さく手を振った。
兄も軽く手をあげ、沙耶は透明なカーテンをくぐっていった。
ドアの中から彼女が出てくると、すでに防護服を脱いだ後だった。
その目が蔵鴨さんを見たとたん、神妙な顔つきでぺこりと頭を下げた。
「あ、どうも……」
「え? 沙耶、知り合い?」
「ええ。わたしも狛田村の娘として、いろいろとお世話を」
へえと言いながらうなずくと、倉鴨さんがおだやかな声をかける。
「用事はすんだかね?
君たちには悪いが、すぐに学園まで送り届けなければならない」
沙耶はもう一度ぺこりと頭を下げる。
「わかっています。覚悟はできていました。
むしろあれほどのさわぎで、そのような処分ですんだことは幸いです」
「恩を着せるのは好きじゃないが、上を説得するのは苦労したんだ」
笑いまじりに言う倉鴨さんを見ながら、おれははっとしたことがあった。
「あっ。そう言えばおれの家に、2人の荷物があったんだった!」
それを聞いたとたんにタタミちゃんが両手で髪の毛を押さえた。
「うはぁっ! どうしよう!
倉鴨さんでしたっけ、ひょっとして荷物をまとめる時間もないとかっ!」
「残念だが急げと言われているんでね」
「ひゃぁっ! どうしよう!
黒服の変な連中に荷物いじられちゃう!」
半ば泣きそうなタタミちゃんにおれが首を振る。
「いやいや、それはまずいだろ。
でも他の誰かが荷物を片づけなきゃいけないな」
「あら、それなら安心ね。新介君、お願いできるかしら?」
あっけらかんと言う沙耶におれはジト目を向ける。
「沙耶、いくらなんでもそれはないでしょ。
出会って数週間しかたってない男子に自分の下着を片づけられてもいいの?」
言われ、沙耶は少し困った顔をした。はじめて気づいたのかよ。
「あ~、アタシちょっと抵抗あるかも。
まあ新介だったら仕方ないと思えるけど……」
「だからなんでおれが1人で荷物を片づける前提になってんだよ!
大丈夫だよ! 片づけにはちゃんとやってもらう人いるから!」
タタミちゃんはまだ要領がわかっておらず、「誰よ?」と問いかけてくる。
おれは半ばあきれつつ、
「ここあだな。
今回の騒ぎの原因はあいつだし、お詫びのつもりで片付けさせるのもいいだろ」
当然だと思ったが、タタミちゃんは意外なことを言う。
「ったくも~手きびしいなぁ~。
少しは彼女に優しくしてあげたらぁ?」
意味がわからず、おれは首をひねった。
するとタタミちゃんはわざわざこちらまで近寄ってくる。
「新介、ひょっとしてここあちゃんの気持ちとか、真剣に考えたことある?」
「ねえよ。だって幼なじみだろ?
そんなもんわざわざ察しなくても空気でわかる」
するとタタミちゃんはなぜか怒った顔つきになり、
おれの背中をパシンッ、と叩いた……
「っていてえよっっ!
だからお前死霊族なんだから人間相手には手加減しろって!」
おれがチラリと横を見ると、沙耶も倉鴨さんも笑っている。
バツが悪くなっておれはそっぽを向いた。
「力加減間違えたのはあやまるけど、悪いのは新介なんだからね!?
身近な相手だからこそ、かえって気持ちが伝わらないことだってあるんだから!」
気持ちが伝わらない? どういうことだろう?
おれが、ここあの心情を勝手にカン違いしていたとでも?
まだ腑に落ちないのが顔の出てしまったのか、目の前のちょい美少女はさらに人差し指を立てた。
「いい?
彼女の方にはアタシのほうからビシッと言っておくから、新介君も一変彼女の本音をちゃんと聞いてみな!
今ならはっきりしたことがわかると思うから!」
そう言って首をかしげながらおれのほうから離れていく。
「意外とコイツニブイところがあるな~。
ちょっと買いかぶりすぎたか?」
少しムッとしたが、これくらいでムキになっても仕方がないのでこらえた。
そんなことより、やっぱり彼女の言った内容が気になる。
そんなことを考えているうち、倉鴨さんは高価そうな腕時計を確かめた。
「そろそろ時間だ。
それじゃ2人の荷物は任せて、君たちにはすぐにわたしについていってもらおう」
容赦なく言われ、タタミちゃんはさすがにつまらなそうな顔で頭の後ろで腕を組んだ。
「あ~あ、もう帰宅かぁ~。
せっかく2人ともうちょっと遊んで行こうと思ってたのに、残念だなぁ~」
「また遊びに行けばいいよ。なんなら今度の土日使ってもいいぞ?」
こちらをちらりと見たタタミちゃんは挑発的な笑みを浮かべる。
「へえ、大丈夫? また教頭の馬車に乗る羽目になるよ~?」
「だったらひとつお願いがあるんだけど、その時はアキバめぐりも内容に加えてくださいっ!」
タタミちゃんは真顔で「考えとく」と言った。横から沙耶が口をはさんだ。
「新介君、なんで秋葉原にこだわるわけ?
ひょっとして新介君ってそっちの趣味がある?」
2人して疑わしげな目を向けられ、おれは必死で否定する。
「ないっ! ないよっっ!
ただ興味があるから行ってみたいってだけで!」
「フン、だったらヒャッパでも誘うんだね。アタシ正直ムリ」
ガックシ。正直タタミちゃんのドン引きリアクションが見てみたかったのに。
「もう時間がない。2人とも行くぞ」
若干時間を気にしはじめてきた倉鴨さんに頭を下げ、2人はそろって手を振ってきた。
「そいじゃ荷物片づけを担当するここあちゃんによろしくお願いしといてね」
「そうだわ。新介君、学校には戻ってくるの?」
「悪いけど、せっかくの実家だからもう少しのんびりしてくるよ。
あまり心配もかけたくないし」
すると2人とも、残念そうな顔で「ふ~ん」と言ってきた。
おれも申し訳なさげな顔で手を振ると、2人は手を笑顔で振り続けながら倉鴨さんが開けたドアから外に消えていった。
「それでは、ごきげんよう。
これからも彼女たちと仲良くしてやってくれ」
おれがぺこりと頭を下げると、倉鴨さんも出ていった。
1人きりになったおれは、思わず窓ガラスの向こうを見た。
するとそこには青白い顔をした病人がひたすら目をぱちくりさせながらこちらをじっとうかがっている。
気味が悪くなったおれは頭を下げつつ急いで部屋を出た。
外に出ると、ちょうど3人は廊下の曲がり角を曲がったところだった。
ふと視線を変えると、革の固そうなソファーに座りこみ、疲れ切った表情を見せるここあの姿がった。
「……行っちゃったんだ。なんだか、悪い夢でも見てたような気がする」
「デリカシーがない言い方するな。あれでもおれの友達なんだよ」
若干ぶっきらぼうな言い方をしてそっぽを向くと、ここあのほうも立ち上がった。
「どっちがデリカシーないんだか」
彼女の言葉を聞き流しながら、おれは3人が消えていった廊下を歩いた。
彼女も若干距離を取りながらあとをついてくる。
家に帰り、ここあを中に入れると、家族には内緒で2人の荷物をここあに片付けさせた。
さすがに反省してるのか、彼女はほとんど文句を言わずに和室に入った。
すべてをここあに任せるのも悪いので、彼女の合図でおれは和室に入り、中身が全部しまわれた沙耶の方のトランクを持った。
「あら、なんで2人がお友達のトランク持ってるの?
あの子たちはいったいどうしたのよ?」
が、途中で母に見つかり、おれたちは肝を冷やした。
そこからは説明がしどろもどろで、結局沙耶の身内に不幸があったことにしてしまった。沙耶ゴメン。
なんとか自宅を抜けだすと、おれとここあはそろって深いため息をついた。
「ふう、まったくなんなのよあの言い訳。
お母さん結局納得した顔しなかったわよ」
「しょうがないだろ?
どう考えてもおかしいだろ。2人が荷物も持たずに帰っちゃうだなんて」
言いつつ、おれは沙耶のトランクを持ち上げた。
「こっそりお前の自宅に荷物をおいとく計画もムダになっちまったな」
おれとここあはそろって笑った。
2人でこういうリアクションをとるのはいつ以来だろう。
せっかくなので、おれは例の話題を切り出した。
「で、どうなんだよ結局。
お前、おれにどんな隠しごとをしてたんだ?」
しかし、ここあは心外そうにがっかり顔を浮かべた。
「やっぱりあんた、デリカシーない。
そんな調子じゃあの2人とどこまで仲良くできるか微妙ね」
おれはため息まじりに言い返した。
「タタミちゃんが言ってたんだよ。身近だからこそ気付かないこともあるって。
それに信じたくねえけど、おれがドンカンだってこともあるだろうし。
なあ、はっきり言いたいことがあるんなら教えてくれよ」
かなり気を使ったつもりだが、それでもここあはふてくされた顔をしたままあらぬ方を向いた。
「もういいよ。どうせあんた、あの2人に夢中なんでしょ?」
そこで言われ、おれは初めて頭を殴られたような気持ちになった。
さすがにここでなにもわからなかったらただのバカだ。ク○バカ野郎だ。
「ま、まさかお前、お前、おま、え……」
指をさせばあからさまにふるえている。
それを見たここあは思わずと言った感じで吹き出したが、恥ずかしかったのかすぐに顔をしかめる。
「やっと気づいた?
まあ、ずっと一緒にいたんだからそうなってもおかしくないけど」
「え、いやだっておかしいって。
ずっと一緒に育ってきた幼なじみなのに、そんな気持ちになるなんて……」
「……おかしいっっ!?
新介に対して、『そういう気持ち』持っちゃいけないっ!?」
彼女が顔を真っ赤にしているのは、それだけが理由じゃないだろう。
よほど怒り心頭なのか、ここあは腕をくんでいまいましげに斜め横を見る。
「それに、わかっているわよ! ああわかっていますともっ!
どうせあたしはブサ○クですよっ! ブサ○クすぎてこっちが好きだと言っても相手はドン引きしますよっ!
ましてや幼なじみなら気持ち悪いと思うんでしょっっ!?」
「いや、違う。それは違うよ……」
おれの言ったことが意外だったのか、ここあは確かにあまり美人ではない顔をポカンとさせる。
「確かにビックリしたけど、ここあがそういう気持ちを持ってくれたことはうれしいよ。
素直に、うれしいと思う……」
「新介、ひょっとして……」
どこか期待を込めた言い方に、おれはあわせてかぶせるように言った。
「でもごめんっ!
おれ、ここあに対してそういう気持ちになれないっ! ホントゴメン!」
案の定、ここあは泣きそうな顔になった。
「……やっぱり、あたしの顔がよくないから?」
やっぱりそうきたか。
おれは困り切って、頭の後ろをポリポリかいた。
「そうじゃない。そうじゃないんだよ。いやこれは正直に言ったほうがいいか。
確かに沙耶やタタミちゃんは美人でグッと来るけど、だからってここあの顔が苦手って言うわけじゃないんだよ。受けつけないってわけじゃない」
「それって気休め?」
上目づかいでにらまれると少し苦手だが、言うわけにもいかないのでぐっとこらえた。
「でも、それ以前の問題なんだよ。
おれ、ここあのこと、妹のようにしか思えなくて……」
ここあはただ、「妹?」とだけ言った。おれはうなずいた。
「ずっと一緒に育ってきたから、そういうふうにしか思えなくて。
今さらそういう気持ちになれって言われても、たぶん無理、だと思う……」
そこまでしか言えなかった。
少しぼう然となっていると、ここあはやがて顔を上に向けた。目からは早くも涙があふれはじめている。
「そうか、だったら、しょうがないか……」
「それにおれ、やっぱりあの2人にひかれはじめちゃってるから。
言っとくけど顔の問題じゃないぞ!?
いや全くないと言ったらウソになるけど、それだけでコロッといかれるようなおれだと思われちゃ困るぞ!?
だいたい2人は人間じゃないんだ……し……」
言ってからおれはあわててまわりを見まわした。
今の内容を大声に出すのはまずい。
すると、ここあはそれを見てクスクスと笑った。
「あははは、大丈夫だよ。ほら、誰もまわりにいないし」
少し機嫌を取り戻したここあを見て、おれは少しほっとした。
つられたように彼女ははっきりとうなずいた。
「うん、なんだかんだ言って2人ともいい人だしね。あ、人じゃないか」
そして2人で声を合わせて笑った。
笑い終えたあと、ここあはため息まじりに行った。
「なんだかすっきりしちゃった。気持ちを正直に打ち明けたら、思ったより楽になった。
あの人の言ってた通りだ」
おれがうなずくと、ここあは少し申し訳なさそうな表情で言う。
「変なこと言ってごめんね。
今のことは忘れて、これからも幼なじみとして付きあってくれる?」
「前半はムリだけど、後者に関してはお安いご用さ!」
おれが親指を立てると、ここあはクスクスと笑った。
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差出人:不明
はじめまして。私は倉鴨氏の友人だ。
くわしい身分については明かせないのでご了承願いたい。
狛田村沙耶くん、今日の君の話はだいたい聞かせてもらった。
ずいぶん派手なことをしてくれたようだね。勇ましいことだが、あまり騒ぎを起こしすぎると死霊族の今後にもかかわる。
そこで1つ、忠告をしておこうと思う。
君はまだ、人間との付き合い方をあまり勉強していない方だね?
もっとも君が本気で人間に興味を持ちはじめたのは新介君と出会ったからなのだろうし、君自身がこちらの世界にやってきてまだ日も浅いのだから仕方ないのかもしれない。
しかし、これからは気をつけることだ。
これからはより一層社会への関心を深め、それなりに知識を集めていってほしい。
それともう1つ。あの新介君を普通の人間と同じようにみなさないことだ。
彼が周囲を引きつける魅力があるということは、それだけどこにでもいるような凡人とは一味違うということでもある。
当校への入学の際に死霊族への適応能力が優先されるため仕方ないことなのだが、君はもっと彼とは違う人間のあり方について学ぶ必要があるだろう。新介君自身にうかがってもいいだろう。
これからも励みたまえ。
君の夢が実現に向かうためには、新介君以外の人間に対してもっと興味を持つことだ。
返信
どなたか存じ上げませんが、ご忠告ありがとうございます。
それにしても事情をよくご存じですね。
こちら側から出される情報は多くないでしょうに、わたし自身の内的心情までご存じとは、正直返信メールを打つ指がふるえるほどです。
そして、やはりあなたの身の上が気になって仕方ありません。
どのような立場に立っておられれば、我々の実情をそこまで把握することができるのでしょう。不思議でなりません。
返事は期待しておりませんが、いちおうこちらとしてはあなたに対し警戒の念を持たざるを得ない、ということを伝えておこうとは思います。
それでは、かしこ。




