(2)
「ったく、なんだってあんな奴にからもうとすんだよ。
あんな根暗ヤンキー、新介君と気が合うとは思えないけど?」
タタミちゃんが言いつつ赤面してるのは、おれが上半身ハダカにされ肩に包帯を巻きつけられているからだ。けっこう体を鍛えてるのでよけい見栄えがいいはずだ。
「その前に、新介君はうかつに強引なコミュニケーションをとらないようにすることね。
死霊族はやろうと思えば人間より2・3倍も力を出せる。
それが生身の人間にとってはとても危険なことであることを自覚すべきね」
包帯を巻く保健医のミカ先生が若干冷たい視線でおれをにらみつけてくる。
「はい、気をつけます……」
それにしても片腕しかないのにとても器用だ。
鳥肌ぎみにあやまっているところに、沙耶から声がかかる。
「新介君、『毛鞣影乃』君のこと、ずいぶん気にしてるみたいだけど。
なにか思うところでもあるの?」
見ると、沙耶もまた赤面してこちらを見ない。
口元に手を当てるしぐさがなんとなくカワイイ。おれも若干とりみだしつつ答える。
「あ、ああ。
エイノの奴、腕のケガを気にしてたみたいだけど、なんかあったのかなと思って」
それを聞いたミカ先生が、突然「くっ、ふふっ!」と言って笑いだす。
おれは思わず「なんだよ!」と声をあげてしまった。
「あ、いや、新介君、案外ニブいなって思って。
あれ、別にケガじゃないわよ?」
「ケガじゃない? じゃああの腕、なんなんです?」
おれがふに落ちない顔を向けると、先生は含みのある笑みを浮かべた。
「毛滑影乃君のあの腕こそ、彼の特殊能力に由来するものよ?」
「特殊能力? あの包帯はその腕がめったに使えないほどにグルグル巻きにされてました。
そしてそれをかばうようにもしていた」
言っているうちにおれはなんとなく感づいた。そ
して心のそこからげんなりした。
「……まさか、それはないでしょう。
あの腕の中に、周囲を危険にさらしかねないような危険な能力が秘められてるとか、そんなオチないですよね?
いくらなんでもそんなベタな話……」
「ベタも何も、影乃君の特殊能力の厄介さは、知る人ぞ知る事実よ?」
おれが顔を向けると沙耶はあっけらかんとした顔をしている。
「新介君、たしかに滑稽な話よね。
わたしたち死霊族の特殊能力は実用的なものも多いけど、まれに本人ですら持てあます危険な能力の持ち主もいるのよ」
そう言った先生に顔を向けると、彼女は中身のない袖に手をかける。
「かくいうわたしの能力も非常に便利なものだけど、おかげで普段はこのように隻腕になってしまっている。
特殊能力がいちがいに文句なく使い勝手のいいものになっているとは言い切れないわ」
それを聞いたタタミちゃんも普段隠している大きめの眼帯に手をかける。
「そうそう。だいたい死霊族って言うのは、能力に関連する身体の部位に何らかの異常があることが多いの。
アタシの場合は片目がおかしな具合になっているだけだけど、それでも人目には出せないから不便っちゃ不便だけどね」
「小麦色の肌をしているミノンちゃんみたいに見た目には全く支障がない子もいるけど、そちらの方が少数派ね」
「そういう沙耶ちゃんも、身体になんかの異常があるの?」
そういうと彼女は何も言わずに髪をかきあげ、背中のあたりに手を入れた。
それを出したときには、彼女の手のひらに粘液にまみれた奇妙なツブツブが現れる。
「これがわたしの能力の代償。風呂場でも見たでしょう?
わたしの背中は一面が腐っていて、それを隠すためにわたしの黒髪はあるの。
背中の部分は常に粘液でおおわれているから、特殊な絆創膏で常に覆い隠す必要があるわ」
おれは「そうなんだ……」といって少しがっかりする。
それを見たタタミちゃんが笑った。
「にゃははは、沙耶チャンの背中がきれいじゃなくて残念だねー。
死霊族のそういう身体的な特徴、
なんでか『腐敗部』って名前がついてる。
沙耶チャンみたいに本当に腐ってる子はそんなにいないけどねー」
「エイノってやつは、あきらかに腕の中が腐敗部だよな。
中はいったいどうなってるんだろ?」
おれが腕を組んで首をかしげていると、沙耶が神妙な顔をした。
「新介君、悪いことは言わない。
影乃君にはあまりかかわらないほうがいいわ」
おれは沙耶に同じく神妙な表情を返す。
「おれ、さっきは前のめりになりすぎてたけど、接触したこと自体は後悔してないぞ?」
「なに言ってんの新介クン! あんたその肩のねんざのことわかってるっ!?
まともな腕のほうで殴られただけでその具合なのに、下手に反対側の腕で何かされたらどうなるかわからないよ!?
あいつ人前で能力使ったことないからいったい何が起こるのかわからないけど、必死で隠すくらいだから絶対ヤバいってっっ!」
若干必死になるタタミちゃん。
おれはそちらにも真剣な目を向けた。
「だったらほっとくってのか?
本人はなんにも言ってないけど、見た目にもあきらかに悩んでいることは確かだろ。
このままあいつは誰にもかかわれないまま、ずっと1人で生きて行けって言うのか?」
言われたタタミちゃんは「それは……」と言って口ごもる。
おれは同じ視線を沙耶にも返す。
「沙耶、お前も学級委員だろ。なんで悩んでいるあいつに手を差し伸べてやらないんだ?
まさか好きで学級委員やってんじゃないとかいう言い訳するんじゃないだろうな。
そんなの通用しないぞ?」
沙耶は案の定、気まずい顔でうつむいた。
「わかってる。
だけど、人付き合いが苦手なわたしには、どうしたらいいのかわからなくて……」
「だったらみんなに相談すりゃいいじゃねえか。
そのために友達っていうのはいるだろ」
聞いた瞬間にタタミちゃんは額に手を当てて天井に顔を向ける。
「あー、それ言われちゃったか。
アタシはもう少し様子を見てからでも遅くはないって思ってたんだけど……」
「それはそうかもしれないけど、そうしている間にもあいつは1人悩み苦しむ時間が伸びるってことなんだぞ?
慎重になる気持ちもわからないでもないけど、早く奴の苦しみを和らげてやるのも大事なんじゃないのかよ」
そう言われてタタミちゃんは「う~ん」とうなる。
人付き合いのいい彼女もまた、エイノのことをそれなりに気にかけていたようだ。
「……よし、出来た。
新介君、もう上着ていいわよ」
そう言ってミカ先生が肩をポンと叩いた。
その瞬間に痛みが走り、「いたっ!」と思わず声が出た。おれは「ホントに医者かよ~」と先生をにらみつけつつ、となりのカゴに入れていた白シャツに手を伸ばす。
「新介クン、Tシャツ着ないんだね……」
見るとタタミちゃんが赤面している。
おれもつられて顔を熱くさせながら、急いでシャツをはおる。
「え、だってうっとうしいし」
「なんだかセクシーな気もするけど、ゴワゴワするしファッションの点からすると、下にちゃんと着た方がいい気もするんだよね」
「そうか? 全然気になんないけどな。
むしろこっちの方がスースーして気持ちいいけど」
おれは首にネクタイをかけ、さらにブレザーをかける。
色はどちらも真っ黒なので、校章がなければ喪服に見える。もし親族に不幸があってもこれで安心だ。
そんなくだらないことを考えていると、アゴの手を触れて考え込んでいた沙耶が不意に口を開いた。
「新介君、でもやっぱり影乃君に接するのはやめておいた方がいいわ。
あまりにも危険よ」
「沙耶はあいつの能力知ってんの?」
「いいえ、でもウワサには聞いたことがある。
彼が一度能力を解放すると、不死身に近い我々でさえ生命の危険が及ぶほどの力を発揮するとか」
おれは考え込んだ。
死霊族でさえ危険なのに、肩を殴られただけで保健室行きになるような、ただの人間に容易に接することができるだろうか。
「いいや、やっぱり放っておけない。
少しでもいいから、おれも何か力になってやりたい。
なんとかして近寄れないか?」
腕を組んで考え込んだ沙耶は、やがてしぶしぶうなずいた。
「わかった、なんとかして見るわ。
だけど新介君、もし次影乃君に近づく時は必ずわたしたちに声をかけて。
いざという時に身を守ってあげられるのはわたしたちしかいないから」
おれは思わず顔がほころび、ぺこりと頭を下げて「ありがとうございます!」と言った。
それを見た沙耶が心なしか少しあわてている。
「こーさん。アタシも負けたわ」
タタミちゃんのほうを見ると、彼女は仕方ないと言わんばかりに苦笑する。
「確かになんにもせずにほっといたアタシたちも悪かった。
新介クン、困ったことがあったら知恵貸してくんない?
キミだったら、なんかいい方法思いつきそうだから」
おれは上機嫌に「もちろん!」と言って親指を立てた。そしてお互い小さい声で笑い合う。
それを見ていたミカ先生がため息まじりに告げてくる。
「仲がいいのはうらやましいけれど、あまりムチャしないでよ?
あたしもヒマじゃないんだから、また下手なケガをして保健室にかけ込むのはカンベンよ?」
教室に戻る途中、沙耶は不意に声をかけてきた。
「新介君、なんであなたは、影乃君に目をかけようと思ったの?」
「そうそう、普通ならあんな怪しい雰囲気の奴、めったに声をかけようとか思わないよね~。
それを誰も援護もなく、わざわざ1人で体当たりしようなんてさ~。
なんかあった~?」
タタミちゃんにも言われ、おれは正面を向いたまま答えた。
「う~ん、実は理由があって……」
おれは遠い目でシミだらけ(汚ねえ!)の天井を見た。
「正直、ヒャッパやキースみたいな、変なイジワルばっかしてこない友達が欲しいと思って。
おれ別にイジられキャラじゃないし」
「アタシらがいるじゃん」
あっけあかんと言うタタミちゃん。
しかしおれは両手をかかげて語気を強めた。
「おれはちゃんとした男友達がほしいんだよっ!
女友達も悪くないけど、それじゃ変なモテ男子みたいで正直気まずいんだよっ!」
「あはは~。たしかに新介クン顔は悪くないけど特別イケメンってわけでもないしね。
どっちかって言うとどこにでもいる平凡な男子って感じ?」
「自覚はしてたけどはっきり言われるとちょっとショックだよっ!」
「それにしたって、彼、影乃君を新しい友達にチョイスするのは危険すぎると思うけど」
「それはそうなんだけど。
あいつの横顔見た瞬間にさ、一気にそんな気持ち吹っ飛んだ。
いまはそれより、やっぱり助けになってやれないかなって」
おれが少々情けない顔をすると、彼女は愛想のない顔で髪をかきあげた。
「まあ動機はどうでもいいけど。
とりあえず、最初のうちは慎重にいきましょ? あまり下手に出られると向こうも迷惑だし」
おれがうなずいた時、教室は目の前に近づいていた。
教室に入ると、この時間の担当である英語教師は淡々と授業を続けていた。
ロマンスグレーのこの人はあまり生徒には関心がない。
その証拠に、教室中でひそひそ話ばかり聞こえてきてもちっとも注意したりしない。
声が大きくなれば、ものすごい勢いでチョークが飛んでくるが。
当然、座った瞬間に後ろのヒャッパが声をひそめて話しかけてくる。
「まったく、だから言っただろ。
関わりあったらロクなことにならないって」
振り返ると、ヒャッパはしきりにとなりの席を気にしている。
見ると時おりそこに座る太っちょ女子がこちらに鋭い視線を投げかけてくる。
どうやらおれがトラブルの原因だということに気づいたらしい。肝が冷える。それにしても沙耶と比べるとヴィジュアルが雲泥の差だな。
よそ見をしているとヒャッパがおれの袖をつかんできた。
「とにかく、奴にはかかわるな。マジで死ぬぞ!」
奴は奴なりに心配しているらしい。
おれはクラスメイト達のすきまからわずかに見える影乃の姿をうかがった。
奴はなにも気にしていないそぶりをしているが、ふと目が合うと息をのみ込むようなしぐさをして、すぐ窓のほうを向いた。
休憩時間、おれは沙耶やタタミちゃんとともに席を立った。
キースとヒャッパがおどろいてなにをしでかすのかと言わんばかりの顔をするが、影乃の方へ向かうと見るやヒャッパが「マジかよ……」と言って頭をかかえた。
「よう、さっきはゴメンな。
あれは完璧におれのせいだから、気にすんなよ」
少し散らかった髪形はこちらを見るや、急におびえたような表情になる。
「なぜおれに関わる? 関わればロクなことにはならんぞ」
そう言ってまたしても窓の方に目を向けた。
「窓の外に、なんか面白い光景でもあんのか?
おれらからしたら霧ばっかでなんも見えないぞ。
それよりこっちの方が面白いと思うけど?」
「あはは、新介クン言うね~」
タタミちゃんのかけ声におれも上機嫌になり、2人してお互いを指差す。
そんな様子には意も返さない沙耶が目を閉じて髪をかきあげる。
「わたしは推薦で学級委員になった身だけど、だからと言って自分の役目がイヤなわけではないわ。だからあなたのことをいままで放置してたことは反省してる。
影乃君、もし悩んでいることがあれば、なんでも相談して?」
「別におれは……」
「悩んでないって言うわけか? 悪いけどとてもそうは見えないな。
本当に悩んでない奴は一日中窓の外をずっと眺めてなんかいないぞ」
おれが言うと、不意に影乃の目があらぬ方向に向けられた。
「……って部屋のすみで固まってる奴は関係ないぞっ!
あれはそういうのとは全く別物だっ!」
危ない危ない。このクラスには例外中の例外という奴らがいることを忘れてた。
にしても踊ってる奴にしろなんなんだよお前らは!
「自分の口から言えないのはわかるけど、そうやっていつまでもいじけていたら、人生つまんないまんまで終わっちゃうよ?」
「タタミの言うとおりね。
このまま延々と自分の殻に閉じこもっていたら、まったく展望が開けないと思うけど?
わたしには、正直同じことをウダウダ考えてばかりの人生には耐えられないわ」
沙耶の言葉に、少しは動いた感じがする。
影乃の視線がちらりとこちらを向いた。
「お前たちには、わからんだろう。おれのこの、
『魔鬼眼』が起こす、悲劇というものを……」
「え、な、なに? ま、マキガン?
何なのそれ? いったい何が由来?」
聞きなれない名称におれは耳に手を当てて問いただそうとするが、返事がまったくない。
「過去に何かあったようね? 悪いけれど下手に詮索する気はないの。
あなたの口から話してちょうだい」
沙耶の口調は非常に優しい。
いつもは不愛想だが、こういう時はきちんと相手と向き合う。いいことだ。
するとおどろいたことに、影乃は突然うつ伏せになった。
「お、おいっ! 大丈夫かっ!?」
思わず手をかけようとすると、それをタタミちゃんに取り押さえられた。
思わず振り返ると彼女はいつになく真剣なまなざしで首を振り、すぐに沙耶に目線を変えた。
そちらを見ると彼女もまた真剣な目でうなずき、そっと影乃のほうをうかがう。
「1つだけ言ってちょうだい。その状況はなんなの?
体調が悪いの? それともその腕が原因?」
すると、相手はブツブツとつぶやいている。
おれはその内容が気になり、タタミちゃんが引っ張ろうとしているのにもかまわず耳を近づけた。
「……静まれぇぇぇぇぇぇ……静まれぇぇぇ、おれの左腕ぇぇぇぇぇぇぇぇ……」
その声があまりにも切羽詰っていたので、おれは思わず顔を離した。
すると影乃の全身がブルブルと震えだし、それが見る見るうちに大げさなくらいになる。
「静まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!」
最後に思い切り叫びあげると、影乃の身体のふるえが収まった。
思わず周囲を見ると、クラスの全員(変態キャラを除外)がこちらに視線を向けている。
おれは急に気まずくなった。
視線を前に戻すと、影乃はうつ伏せになったまま、右腕をこちらに振り上げる。
「頼むっっ! おれのことは、放っておいてくれっっっ!」
あまりに涙声だったので、おれたちは仕方なくその場を退かざるを得なかった。
結局その日は、まともに話すことができないまま1日が終わってしまった。
「ってなんでアンタ、授業中にこっそり弁当食べてたの?
まさか本当に腹が減ってたってわけじゃないでしょうね」
昼休憩になり、タタミちゃんが軽蔑するような目をこちらに向ける。
おれはその問いに答えるように、後ろに声をかける。
「ヒャッパ、食堂行こう」
前後左右からおどろきの声が上がる。
特にヒャッパは信じられないと言わんばかりの表情になった。
「ま、まさか新介が、あの新介が自分から学食に行きたいと言い出すなんて……」
目を見開いたままだと思ったら、突然目がうるうるし始め、それをブレザーの袖でごしごしとふいた。
「な、何もそこまで感動するこたぁないだろ。
たかが学食行くだけなのに」
するとヒャッパはおれの肩に手をかける。
「いやっ! オレは感動したっ!
素晴らしい、お前は素晴らしい奴だっ! 見直したぞっ!」
あきれ果てていると、横からクギをさす声がかかる。沙耶だ。
「話、聞いてたわよね?
食堂の主人はかなり気難しいタイプだって。先に昼食を済ませたあなたが、なにも口にしないで許されると思うかしら?」
おれは「うっ」と口ごもりそうになりながらも、あわてて首を振る。
「それでも、一度は見に言っとかないと。実は前から気になってたんだよね」
「うっそこけ!
本当はあれでしょ? エイノクンでしょ?」
おれはギクッとして、おそるおそるタタミちゃんを見る。
異様なほど不機嫌な表情で腕を組む。
「キミ、アタシたちとのお昼ご飯をフイにしてまで、エイノクンと仲良くしたいわけ?」
おれは「あ、それは……」と口ごもる。
タタミちゃんは毎回おれたちとのお昼ご飯を楽しみにしているのであった。その期待を見事に裏切ったのである。
「おい、まさかお前あの影乃と……」
ろこつに不安そうな顔をするヒャッパに対し、おれはすぐに肩に手をかけた。
「心配するな、ちょっと様子を見るだけだ。
なぁに、別に遠くからうかがうだけだって」
「様子を見る、だけねぇ……」
それでも納得がいかずに首をかしげるヒャッパに、今度はおれが肩に手をかける。
「交換条件だよ。せっかく行きたくもない学食に一緒に行くんだ。
ちょっとくらいおれに都合しろ」
そう言われ、さすがにヒャッパも言葉がない。
すると突然前方から声がかかる。
「いいじゃねえか。
なにかあれば俺らがかばってやるから、一緒に学食行こうぜ」
見ると、ヒャッパと違ってキースはノリノリにイスにのしかかる。
「あれ? キース、影乃のこと怖くないの?」
おれの問いかけにキースは明らかにバカにしたような顔になる。
「なに言ってんだお前? 俺はこれっぽっちもあの野郎にビビってるわけじゃねえぜ。
むしろワクワクするかな」
おれがやや冷や汗ぎみに「ワクワクって……」と言うと、奴はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「だって、あいつどっちかって言うとヤンチャそうだろ?
ああいうのを見るとなんつーか、親近感わくんだよなー」
「ああ……キースってそっち系っぽいもんな」
するとキースは視線をそらして腕を振りあげた。
「ぽいじゃねえよ。俺は完璧なヤンキー気質なんだよ。
ぶっちゃけお前やヒャッパみたいな奴とはつきあってらんねえっての」
そういうとキースは立ち上がり、おれを通り過ぎてヒャッパの元に向かう。
なぜかヒャッパはおどおどした表情になる。
「な。と言うわけで、お前も学食、喜んで行くよな? な?」
そう言って不敵な笑みを浮かべつつ、キースはヒャッパの肩をがっちりとつかんだ。
おれはその光景を目を細めて見つめる。対するヒャッパの視線がキースとおれを行ったり来たりする。
「ヒャッパ君、ひょっとして、君どっちかって言うとイジられ系?」
「そんなことないぞっ! そんなこと……」
いやらしい笑みを浮かべるキースが顔を近づけると、ヒャッパは観念したような顔をした。
「うぉぉぉ、こういう感じは苦手だよぉ~。新介ぇ、助けてくれよぉ~」
おれは知らんぷりをしてあさってのほうを見る。
ヒャッパが片手を差し伸べようとしてきたが、当然のごとく無視する。




