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 この日、村の前には見知らぬ人影があった。しかし、この村にはその人を迎える村人は誰も見えない。道の真ん中に立つ一人の神を除いて。


『待っていたぞ』


 “水鏡に映る”神はそう言って人影を招く。その姿は何処にでもいて何処にもいない記憶に残らない人の姿をしていた。


『ここの住人は?』


 村に入ってきた人影はそう聞いてきた。影のように見えたのは全身を覆うアミタイツみたいな者のせいだ。その上に無表情な顔が乗っている。


『お前のような者が来るのに置いておくわけにはいかんじゃろ?』

『そうか……ならばお前を喰ってから、その後を追ってやろう』


 禍神の腕がゴムのように伸びて“水鏡に映る”神を掴む。だがその手は水に手をいれたように波紋を作り“水鏡に映る”神をかき消す。


『水面に映る月は誰にもすくえん』


 禍神の背後に表れる。そこにもう一度腕が延びるが先程と同じで波紋を残し消える。


『無駄だ。お前にワシを捕まえることはできん』

『どうかな?』


 禍神は手を閉じたり開いたりして確かめた後、“水鏡に映る”神に近づき手を伸ばす。その手は肩を撫でるようにして波紋を立てずにえぐった。


『水に映る月なら水が消えたらどうなる?』


 水面に映る月ならば、その水を消してしまえばどうなるか? その答えは“水鏡に映る”神のいる面そのものを削り取った禍神の力を見れば明らかだ。


『それならお前を映すとするか』


 “水鏡に映る”神の腕が禍神のそれに変わり禍神に延びる。


『無駄だ』


 “水鏡に映る”神の腕を受け止めたまま別の腕を生やし、千切り取った。その腕を体にくっつけて取り込んでしまう。


『総て取り込んでやる』

「させない!」


 肩から2本生やしそれで“水鏡に映る”神の体を掴もうとしたその時、背後から槍が胸を貫いた。


「ここは俺達の村だ! 禍神だろうが何だろうが勝手はさせねえ!」


 何処から現れたのかリーダーが槍を背後から突き刺して動きを止める。だが、その槍が禍神の体に吸い込まれていく。


『離せ!』


 禍神の方に槍ごと引きずられていくリーダーを見て叫んだ“水鏡に映る”神の声に手を離して跳びずさる。


「がっ!?」


 その胸を禍神の腕が突き刺す。リーダーの口からは血が吐き出される。


『止めろ! 村の住人に手を出すな!』

『お前も終わりだ』


 “水鏡に映る”神に向かって禍神の腕が延びる。そしてその胸を貫く寸前、村全体に波紋が広がり、同時に禍神の腕が鉈によって切り落とされた。


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