53
崩壊していく通路を走り抜け、出口に倒れ込むように脱出すると脇に立ったアルッテが呟いた。
『……やったか?』
「お前、それいったら……」
『フラグなどへし折ってくれるわ!』
「お願いします! 止めてください!」
四郎が埋まった通路を見て構えているがそのまま時間が過ぎるだけで何も起きない。
「本当に来ないよな?」
『ここにも……ない』
『時間差攻撃か!』
「お前はーー!」
不意に現れた禍神の腕からとっさに飛び去ってアルッテに怒鳴るが、アルッテはその爪を禍神に突き立てる。
『早く逃げろ!』
そして四郎の横を駆け抜けて鉈を降り下ろすカーリン。四郎はその姿を見て脚が止まってしまった。次々と攻撃を繰り出して禍神の全身を傷つけるが傷は直ぐに元に戻ってしまう。それどころか傷も浅くなってきている。
『あっ!』
思いっきり降り下ろしたカーリンの攻撃が深く潜り込み抜けなくなる。アルッテの爪も刺さったまま抜けない。それどころかそのまま二人の腕が禍神に引きずり込まれていく。
「カーリン、アルッテ!」
二人を突き飛ばすようにして禍神にぶつかる。そして四郎の体は禍神に吸い込まれてしまう。
『四郎!』
『何で逃げない!』
禍神の拘束が解けて投げ出された形になったカーリンとアルッテはもう一度禍神に鉈と爪を突き刺していく。この時、禍神は動きを止めていた。
(ここは……どこだ?)
四郎は上下もわからない暗い空間に投げ出されていた。体の向きを変えようとする瞬間に重力に似たベクトルが変わり止まっているのか回っているのかもわからない。
『ここにもない。何処にもない』
禍神の声が反響したように聞こえてくる。砂のような粒の光が体にまとわりつくと異常な感情と共に体を蝕んでいく。
悲しみが腕を燃やし。
憎しみが神経をねじり。
喜びが内蔵を溶かし。
快楽が虫のように全身を貪る。
壊れていく心の中で四郎は祈った。
(おっぱい……)
と。
ただ、それだけを思い続けた。祈り続けた。それは禍神の中に残っていた意識に閃光のように突き刺さり……。
『この!』
何度目かの鉈が禍神を打った時にその体が崩れ始めた。その中から真っ裸の四郎が気を失った状態で出てきた。
『四郎、四郎!』
『カーリンお姉ちゃん、横にして安静にさせて』
『うむ、小さいですな』
『そうジロジロ見ないの~』
四郎を布団に寝かせて添い寝するヒピュスをカーリンとディーニュが布団から引きずり出すがそんな中に、
『これで終われる。ありがとう』
その声が四郎の眠っている意識にだけ聞こえた。




