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『あー、月狂魔花が枯れてる』
四郎が血塗れになっている所に戻ってきたディーニュが花のあった場所を見て叫んだ。
『ヒピュス起きて。この下掘り返して』
『ムニャムニャ……はい』
月狂魔花のあった場所が隆起して根っこ共々地面から引き出された。外に出た月狂魔花の根元の部分は巨大な球根の形をしている。
『良かった無事だった』
ディーニュは身の丈ある包丁を出すと球根だけを切り離した。
『四郎、しっかりしろ!』
『お姉さま、もう諦めてこの白い布を当てましょう』
血まみれの四郎を起こそうとするカーリンの側で白い布を四郎の顔に被せようとするアルッテがいた。
『あ、そうだった』
球根の一部を切り出してすり鉢で磨り潰す。その中に動物の物と思われる内蔵の一部も入れて更に磨り潰す。そしてそれを布の上にあけて搾る。程なくしてどきつい色した液体が器に入れられた。
『はいはい、退いてね』
カーリンを押し退けアルッテを蹴り飛ばすと出来たばかりの液体を四郎の口に含ませる。喉の動きで飲み込んだ事を確認すると、
『これで失った血は増えるはずだから後は傷の治療をお願いね』
そう言って球根の処理に戻っていった。
「うう……おいら?」
『四郎、目を覚ましたか!』
ぼんやりと目を覚ました四郎を抱きしめるカーリン。その押し付けられる胸の感触で完全に目を覚まし、そのまま胸の感触を味わっていると、
『四郎、大丈夫だったのか!』
「いででででっ、もげる! もげちゃう!」
アルッテが引き剥がそうと足を引っ張る。足がもげそうな痛みに悲鳴をあげた。
『はっ! 殺気っ』
四郎の足を引っ張っていたアルッテは手を放して飛び退いた。そこには剣を振り下ろした姿勢で立つ勇者がいた。
「コノ屈辱……ハラサデオクベキカ……」
目付きが鬼のようになった勇者が剣を振り回してそのままアルッテを追いかける。アルッテは木々の間に逃げ込み勇者も後を追った。
『トウシュゥ!』
「尻がーー!」
「……お帰り~」
しばらくしてアルッテに蹴り出されて勇者が戻ってきた。尻を押さえたまま痙攣している勇者をロープでぐるぐる巻きにして荷馬車に押し込む。
「ディーニュちゃん帰るよ」
『はーい』
球根をした処理して仕舞いこんだディーニュが最後に荷馬車に乗り込み、走り出す。
『あれ? ヒピュスは?』
『お姉さまあそこです』
荷馬車を引く四郎の前にぶら下げられている。
『これで明日には着きます』
『……無理だろ?』
しかし、次の日の夕方には勇者宅に着いた。
『うん、着実に人間辞めてってるね。お兄ちゃん』
ディーニュだけが喜んでいた。
今の四郎の身体能力は勇者を超えています。
でも喧嘩は弱いです。