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『あーあ、殺られちゃった』
幾つもの食虫花が絡み付いた幹の下、頭を潰されたハーマドゥの死体が転がっている。そのハーマドゥが立っていた所には一抱えもある石を持ったアルッテが立っていた。
『本当にこれがお姉さまに危険を及ぼす奴だったのか?』
『そうだよ~。って言うか、今現在ピンチだけど?』
『お姉さま!』
四郎から逃げたアルッテはディーニュに騙されてハーマドゥを背後から襲った。そうとは気づかずに石を投げ捨てて走り去るアルッテに手を振って、ハーマドゥの死体に近づく。
『迷わせの細樹。あの時には入れ替わってたのかな?』
迷わせの細樹とは、森で生きる猟師の中で伝えられる伝説の植物である。人の姿で現れて追って来る人を森の奥深くに連れ去ってしまうという。
『そうよ。化物なんかと対峙したいとは思わないわ!』
ハーマドゥの声がディーニュを取り囲むように響いてきた。見るとそこかしこにハーマドゥの姿をした迷わせの細樹がディーニュを睨んでいる。
『ここで捕まるわけにはいかないのよ!』
ハーマドゥの姿をした中の一人が手をあげる。その瞬間、ディーニュの背後で何かを突き上げるような大きな音が響いた。
『四郎!』
カーリンの声に振り返ると荷馬車が下から突き上げた木の根によって宙を舞う所だった。
『あはは、中の人が無事だといいわね』
『お前……』
ディーニュの口から出るとは思えない低く怒気のこもった声をあげた。だが、その声に反応する気配はない。回りにはハーマドゥの姿を真似た木々が残っているだけだった。
『逃げちゃった。そんな急がなくても逃がしてやったのに』
普段の調子に戻ったディーニュの呟きは荷馬車から聞こえる悲鳴に書き消された。
「キャアアアァァァーー!」
「ギニャアアアァァーー!」
「漏ーれーるぅぅぅ~!」
荷馬車は建物3階分まで突き上げられ、地面に落ちて大破した。
「きゃっ!」
「グゲッ……」
虹香が目を開けると自分を抱えるようにして気絶している四郎と目の前に大輪の花を咲かせた月狂魔花を見て、四郎を引きずりそこから離れようとする。だが、それを阻むように月狂魔花から様々な毒草の蔓が伸びる。
「ダメ! イヤッ!」
伸びてきた蔓が腕に巻き付き引きずられる。必死にあがらうが、次々に伸びてくる蔓が巻きついて引きずり倒される。
「四郎!」
四郎を見ると全身を蔓が覆い尽くして緑の人形と化している。
「誰か助けて!」
必死に叫ぶその声が届いたのかいきなり体に巻き付いていた蔓が切り裂かれ倒れこんだ。その前に人影が現れる。
「大丈夫か?」
その声に顔を上げると内股で震えながら剣を構える干からびかけた勇者がいた。
「僕が勇者の名に懸けて助ける!」
よろよろと月狂魔花に歩きながら時折、お尻に手を当てて立ち止まる勇者を見ると、
「……ダメかもしれない」
そう呟いた。
(;゜∀゜) 頼むから漏らすなよ! 勇者。
(;¬_¬)フラグ立てんな。




