作戦会議
五月初週の日曜日、オレは宝彩駅前の商業ビル、プラトスにあるカフェで待ち合わせをしていた。ある作戦に参加するためだ。このカフェは料金が高く、一人では決して行かないため、入店する時には少し苦労した。飲み物のサイズも分からず、とりあえずキャラメルフラペチーノのグランデというサイズを選んだが、ひたすら甘ったるいキャラメルと、この大きなサイズは、オレにはミスマッチだったようだ。
しばらくして、二人の女子生徒が姿を現す。
「やっほー」
「えっと……今日はよろしくお願いします!」
斉藤夏帆と白瀬結衣だ。今日は二対一でしばらく過ごすことになるため、どうしても緊張してしまう。
二人は飲み物を持ってオレの席に着いた。斉藤さんは抹茶ケーキも注文していたようだ。
「今日はありがとね!来てくれて」
「いや、特に用事もないしな」
「あっ、ありがとうございます……」
白瀬さんは俯いたまま照れくさそうにマンゴーフラペチーノを飲む。オレの一つ下のサイズだ。オレもそのサイズにしておくんだった。
「一先ず今日の本題なんだけど……」
言われなくとも、なんとなく察しはついていた。白瀬さんの遠足の様子、そして今日の様子——。
「遠藤くんって、田中くんと仲いいよね?」
「まぁそうだな。一緒に出掛けることもあるし……」
斉藤さんと白瀬さんは顔を見合わせる。斉藤さんはうれしそうだったが、白瀬さんはずっと照れくさそうにしている。
「あのね、結衣ちゃんが田中君のこと気になってるの。だからいろいろお膳立てしてほしいというか……協力してほしいの」
つまり、キューピット大作戦というわけだ。
「わかったけど、具体的に何をするんだ?」
「えっと、そっ、その前に一つ確認したいことがあるんです」
白瀬さんの真っ白い頬が薄ピンクに染まっている。
「あはっ、結衣ちゃん、同級生なんだからタメ口でいいんだよ?」
「そうだね……じゃっ、じゃあ田中くん……じゃなくて遠藤くん」
すでに心の声が漏れている。その身長も相まって、白瀬さんは小動物のようだなと思った。
「はい」
今度はオレが敬語になってしまう。
「田中くんって、今、その……好きな人とか、彼女とかいるのかな?」
オレは冬弥との会話を思い返す。いつも話すのはテレビの話とかゲームの話とかクラスの話とかで、恋愛トークはしたことがなかった。
「聞いたことないから正直わからないな。今度それとなく聞いてみるよ」
「そう……ですか……」
白瀬さんは残念そうな顔をする。表情豊かな人だ。
「でも、軽音部で放課後は忙しいみたいだし、休日も家事が忙しいとか言ってたから、他の女子と遊んでるってことはないと思うよ」
「ほっ、ほんとに?」
「あぁ、だから好きな人は知らないけど、彼女はいないと思う」
その言葉を聞いて、斉藤さんは白瀬さんの肩を叩く。
「よかったね!結衣ちゃん!」
「うん!」
喜んでくれてよかった。
「で、具体的には何をすればいいんだ?」
キューピット役はしたことが無いので、その仕事がよくわからない。
「今度この三人と田中くんを入れた四人で遊びに行きたいと思ってるんだけど、どう?」
「なるほどな、じゃあオレは冬弥を誘ってくればいいか?」
「そういうこと!お願いできる?」
「わかった」
「ありがとー!」
「あっ、ありがとう、遠藤くん」
そのあとオレたちは日程や当日の行動予定を話し合った。その中で冬弥の好みや趣味の話が持ち上がる度、オレはまだまだ冬弥のことを知らないのだと実感した。
一時間ほど話し合ったあと、時刻は午後四時。白瀬さんはこの後、塾があるらしく先に解散ということになった。
「遠藤くん、もしかして飲みきれない?」
斉藤さんはオレが一時間たってもまだ半分ほどしか飲んでいないのを見て心配する。斉藤さんはというと、ケーキも飲み物もすっかり平らげていた。
「このカフェに来るの初めてで、適当にサイズを注文したら失敗したんだ。後悔してる」
「ははっ、結構大きいよねここのサイズ。あたしも初めて来たときはびっくりしたもん」
迷惑をかけないよう、早く飲み干してしまいたいところだが、口の中には甘ったるい空気が漂い、お腹はタプタプだ。この状況を抜け出す方法は一つしかない。
「ちょっと飲むの手伝ってくれないか?甘くて甘くて……」
「いいの?じゃあ頂戴!」
相手が異性ということもあり、この提案は気が引けたが、斉藤さんは喜んで残り半分を飲んでくれた。きっと甘いもの好きなんだろう。
「じゃあそろそろ行こっか、遠藤くん」
「そうだな」
オレと斉藤さんはカフェを後にする。この後は二人で一緒にカメラを修理に出しに行こうという話になっていた。
駅前はそこそこ大きな商業施設が立ち並んでいて、飲食店や服飾店、雑貨店などが一通り揃っている便利なエリアだ。さっきのカフェも駅前で立地がいいこともあって、いつも若い人で混んでいる。特に近くの大学の学生や、宝彩高校の生徒も利用するようだ。あまり近寄らないでおこう。そう思った。
オレと斉藤さんは同じビルに入っている電器屋へと向かう。
「遠藤くんって好きな人はいないの?」
二人で歩いていると、突然斉藤さんは切り出してきた。
「オレはいないかな……」
学校の顔と名前が一致している女子生徒を一人一人思い浮かべてみたが、あまりピンとくる生徒はいなかった。
「そっかー、中学はどうだったの?っていうか福岡なんでしょ?」
「まぁそうだけど……中学も恋愛沙汰はなかったな」
「そっかー、遠藤くん、もう少し喋るようになれば絶対モテると思うんだけどなー」
自分がよく喋るようになりモテている様子を想像してみたが、ひどく滑稽だ。
「なんなら私がプロデュースしてあげよっか?」
「オレはアイドルかよ」
「ははっ、ナイスツッコミだね!」
満足そうだ。
「ってことは、白瀬さんもプロデュースしてるってことか?」
「そんな感じ」
斉藤さんは笑顔のまま少し俯く。
「結衣ちゃん、幼馴染なんだけど、昔からすっごく人見知りでさ。引っ張ってあげないと、なかなか私以外の友達ができないんだ」
「そっか」
オレは冬弥のことを思い出していた。オレも冬弥がいなければ、入学式の日、文芸部室に行くのをためらっていたかもしれないし、こうして斉藤さんや白瀬さんとも話さなかったかもしれない。思えば、今の人間関係は、冬弥を中心に広がっていた。
「白瀬さんは、いい友達を持ったな」
オレにとっての冬弥のように。
「そっ、そうかな」
斉藤さんはそっぽを向き、表情は見えなかった。
電器屋に着いたところでカウンターにカメラを渡し、修理を依頼する。斉藤さんは少しカメラを見ていきたいとのことだったので、ディスプレイされているカメラを見て回る。カメラというのは非常に高価な電子機器で、オレが持っているコダックのような手のひらサイズのデジカメでも、十万円を超える機種もあった。オレと斉藤さんは、その性能と値段に一喜一憂して回った。




