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宝彩  作者: ぜろすけ
一年生・前期
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14/18

第八十一回宝彩高校大運動会

 宝彩高校の運動会は、明治時代中頃から始まった伝統行事である。一学年十二クラスのところを、三クラスずつに分かれ、赤、青、黄、白の四つのブロックを作り、各競技での点数を競う。運営は生徒によって構成された運動会実行委員会が、企画、予算管理、安全管理、広報のすべてを担い、教職員は一切関与しない。つまり、やろうと思えば、そもそも運動会を実施しないということもできるわけだ。また、各ブロックからも「幹部」なる生徒が選ばれ、そのブロックを引っ張っていくことになる。


 グラウンドへの入場を待っている間、オレは人工芝の上に落ちていたタンポポの綿毛を見つけた。ここでは定着などできまい。指先で拾い上げて手のひらに載せてみると、それはまたすぐに飛んでいき、六月の空気の中へ消えていった。

 六月の第一土曜日。大気は初夏の熱気を孕み、運動会へ滾る生徒たちに火をつけている。空は雲一つない快晴で強い日差しを許しているが、時々吹いてくる爽やかな風は、熱に飲まれた生徒たちをなだめているようだった。


 突然、運動会実行委員長の叫びが聞こえ、生徒たちはいっせいにグラウンドへ向けて走り出す。この高校では、リズムに合わせた軍隊調の行進は一切行わない。伝統的に移動は全て、全力ダッシュである。

 全校生徒がグランドの中央に並んだところで、開会式が始まる。校長、実行委員長、生徒会長の順に話を述べていくが、どの話も、話というよりはほとんど詩に近かった。文章として何回も読んでみなければ解釈しきれないような詩だ。生徒会長も、いつも文芸部室で見る姿とは見違えるように厳粛だった。


 開会式が終わり退場も済ませたところで、さっそく開始するのは百メートル走。オレが出る競技だ。実行委員の号令とともに、オレは全力ダッシュでスタート地点へと向かう。生徒は八人ずつ、つまり各ブロックから二人ずつ選ばれ、その組での順位によって各ブロックへの得点が入る仕組みだ。組み合わせは当日並んでみて初めて分かるため、オレは自分の横に並んでいる人を確認する。残念ながら誰も知らなかった。ただ、オレは今日の日のために、百メートル走っても体力が持つよう、ほとんど毎日個人的に練習してきた。いつも通り走れば問題ないはずだ。

 オレは周囲を見渡す。一周二百メートルのグラウンドの四方には鉄パイプで斜面状に組まれた各ブロックのスタンドが設置され、既に生徒が応援のために座っている。その席の間には保護者達がカメラなどを持って競技開始を待ち構えている。運動会は小学校、中学校と経験してきたはずなのに、ここまで鼓動が速まっているのはなぜだろうか。この運動会がかつてないほど大規模なせいか、照り付ける太陽のせいか、練習に見合う成果を得られない恐怖に対するものか。


 すると後ろに並んでいた生徒から肩を叩かれる。


「やあ、遠藤くん。頑張ろうね」


 橘だ。


「ああ、頑張ろう」


 橘は相変わらず澄ました顔をしている。サッカー部でこのような舞台は何度も経験済みだからだろうか?オレの一つ後ろの組で走るようだ。


 いよいよオレの番が来て、スタートラインに立つ。赤ブロックの応援席を見ると、オレのクラス、一の一の席もかなり埋まっている。顔は判別できないが、あの中に冬弥や、夏帆や、白瀬さんも居るのだろう。そう考えると、もう足が動かなくなってきそうだった。

 スターターの合図でスタートの姿勢を取る。


「よーい!」


 そしてすぐにピストルが鳴らされ、オレはスタートを切る。スピードに乗り上体を起こすと、もう横で走っているはずの生徒の姿は見えない。風がオレの体操服の間を通り抜け、オレを前に前にと押し出す。

 そのままオレは一着でフィニッシュし、赤ブロックの得点に貢献することができた。


 *


「ハル!快勝だったね、っていうか足速いんだ!」


 スタンドに戻ったところで夏帆に声を掛けられる。


「まぁ練習したからな」

「おい、なっちゃん知らねぇの?こいつブロ対にも選ばれてるんだぜ?」


 そう言って割って入ってきたのは、ファミリーパークで一緒に行動した金髪の瀬戸だ。さすがに今日はパーカーは着ていない。


「そうなんだ!なんで言ってくれないの?」


 夏帆は少し怒る。


「いや、言う機会が無かっただけだ」

「まぁいいや。ってことはハル、運動会は大活躍だね!」


 あまり期待されすぎると弱る。実際、あの橘と走ったのは試走会の一度だけで、付け焼刃の練習は積んだとはいえ、勝てるかは分からない。


「まぁ頑張るよ」


 そう言ってオレは次に続く競技を見るため、自分の席に着くことにした。


 障害物リレー、千五百メートル走、女子の綱引きとダンス、騎馬戦の予選、そしてオレも参加した組体操と棒倒しの予選と種目は進んでいく。冬弥が参加した騎馬戦の予選では、赤ブロックと黄ブロックのカードとなったが、赤ブロックは敗北を喫し、予選敗退という結果となった。前に部長が言っていたように、赤ブロックにラグビー部が少ないということも響いたのかもしれない。

 女子のほうでは青ブロックと白ブロックのカードとなった。秋山さんが青ブロックで作戦立案を担当していると言っていたから楽しみにしていたが、作戦と呼べるようなものはあまり見えず、ゴリ押しでの勝利という形だった。午後の部の決勝用に暖めているのかもしれない。

 棒倒しでは赤ブロックは決勝進出を果たし、こちらも午後の部の決勝を待つことになった。この時点でリードしているのは白ブロックの百二十点、それに青ブロック、赤ブロック、黄ブロックと続いていく形となった。


 次の競技はブロック全体で参加する応援コンテスト。スタンドで生徒たちが色とりどりのパネルを掛け声や歌に合わせてめくり、大きな絵を作るというものだ。もちろんこれも教師に審査され、ブロックの得点へと加算されることになる。各ブロックのスタンドは向き合っているため、これが見ていてなかなか面白い。一枚の大きな絵ができたときは思わず感嘆を漏らしてしまう。そして自分たちがやるという番になると、自分たちで自分たちの絵柄が見られないのが残念になる。結果、この応援コンテストは白ブロックが最高評価を獲得し、二位とさらに差をつけることになった。

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