第86話:焦燥の散発
すいません。立て込んでててようやくできました。
引き続き楽しんでもらえたら嬉しいです。
ジンは泉の対岸の泥濘ぬかるみへ、ゲンは左手の険しい斜面へ、ドウラとゼロは右手の岩場の影へと、それぞれ異なる方向へ弾き飛ばされる。
互いの位置すら視認しづらい最悪の散開状態。
「クソッ、ジンの旦那!ゲンの旦那!」
ドウラが泥まみれになりながら大斧を握り直し、叫ぶ。
だが、返ってくるのは滝の水音と、大蛇が這い回る不気味な地響きだけだ。
「狼狽えるなドウラ、やつが来るぞ!」
ゼロの警告と同時に、泥の霧を割って大蛇の影が滑り込んできた。
個々に分断された人間を、確実に一人ずつ圧殺する。
大蛇の狙いは、最も大きな武器を持つドウラへと定められていた。
大蛇の漆黒の双眸がギラリと光り、鎌首が容赦なく振り下ろされる。
連携の取れない孤立無援の戦場で、若き二人に大蛇の牙が迫っていた。
大蛇の急襲に対し、それぞれ必死の抵抗を試みた。
「チョロチョロと、舐めるな!」
右手の岩場へと吹き飛ばされていたゼロが、大蛇の側頭部を狙って槍を鋭く突き出した。
狙いは正確だった。
ザシュッ!
槍の穂先が鱗の隙間に滑り込み、大蛇の皮膚を裂く。
だが、手応えが浅い。
大蛇は痛みに僅かに首をひねるだけで、それ以上の刺突を許さず槍を強引に払いのけた。
ゼロの腕に重い反動が返る。
「このっ……、化け物が!」
ドウラもまた、大蛇の鼻先が地面に叩きつけられた衝撃の隙を突き、大斧を横一線に全力で振り抜いた。
標的は大蛇の首筋。
しかし、大蛇はドウラの一撃が届く直前、巨体に似合わぬ俊敏さで上体を大きく仰け反らせた。
空を切る大斧。
その自重に引かれ、ドウラの体勢が一瞬だけ前に崩れる。
そこへ、左手の斜面から回り込んでいたゲンが、大蛇の注意がドウラに向いた瞬間を見逃さず、黒い双剣でその胴体の隙間を鋭く切り裂いた。
シャッシャァァァッ!
連続して刻まれる細かな斬撃。
大蛇の腹部から幾筋もの血が流れるが、大蛇は激しく胴体をくねらせて、ゲンを跳ね飛ばそうとした。
「肉が厚すぎるな……!」
ゲンが顔をしかめてバックステップを踏む。
それぞれが持ち得る技術で、個々に必死の猛攻を仕掛け、確かに傷は与えていた。
だが、どれだけ刃を叩き込んでも、敵の動きが鈍る気配が全くない。
ただ戦士たちの体力と焦燥だけがじりじりと削られていく。
連携の繋がらない散発的な攻撃では、この怪物の莫大な生命力を削り切ることは不可能だった。
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