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第85話:牙を剥く虚空

少し修正しました。

「ゼロ、何がある」


ゲンの静かな問い。


だが、ゼロの目はまだ背後の実体を捉えきれていない。


全員が全方位を極限の警戒で睨みつけ、木々の隙間、岩の陰を隈なく探る。 


しかし、やはり何も見つからない。


草木一本揺れておらず、風の音すらしない。ただ、ひたすらに、音が、気配が、消えている。


「足元か──」


ジンの呟きが、静寂に吸い込まれる。


あの脱け殻の怪物が、もし、一切の音を消して、周囲の影そのものと同化して動く術を持っていたとしたら。


いま、自分たちの真後ろを埋め尽くしている「静寂の壁」の正体が、もし──。


ゼロが意を決し、ゆっくりと、だが限界の速度で自らの真後ろ──木々の隙間の暗がりへと視線を走らせた。


そこには、太陽の光すら吸い込むような漆黒の、そして血走った一対の巨大な眼球が、至近距離から自分たちを静かに見下ろしていた。


すでに大蛇は、彼らの頭上高くにまで鎌首を持ち上げ、一切の音もなく、あぎとを開ききっていたのだ。


「後ろか……!? いや、上だッ!!」


ゼロの叫びが空間を切り裂いた瞬間には、すでに手遅れだった。


背後の鬱蒼とした木々をへし折りながら、大蛇の巨大な頭部が、弾丸のような速度で一行へと突き落とされた。


風を切る音すらない。ただ、家一軒ぶんほどの質量がそのまま落ちてくるような、凄まじい圧迫感。


「しまっ──」


振り返る間もなかった里の戦士二人が、大蛇の鼻先による衝突をまともに喰らった。


鈍い骨砕きの音が響き、二人の肉体は防具ごとへし折られ、背後の岩壁へと容赦なく叩きつけられる。


一瞬の出来事だった。二人はピクリとも動かず、その場に崩れ落ちた。


「ガァアアッ!」


戦士長ジンが即座に大剣を構えて地を蹴るが、突進の衝撃波の余波だけで、その巨体が横へと激しく吹き飛ばされる。


さらに大蛇の太い尾が、鞭のようにしなって泉の水際を猛烈に薙ぎ払った。


ドガァアアン!! と爆音を伴う衝撃が走り、大量の泥と水飛沫が爆発したように舞い上がる。


その視界不良の混沌の中で、一行の陣形は完全にバラバラに引き裂かれた。


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