第84話:忍び寄る静寂
ザァアアア……。
滝から絶え間なく流れ落ちる涼やかな水音が、規則正しく空間を支配していた。
里の戦士たちが泉の水に感嘆し、喉を潤す賑やかな声が響く。
誰もがこの目的地で、ようやく肩の荷を下ろしていた。
そんな安堵の空気の中で、ゼロだけが、説明のつかない不快感を覚え始めていた。
それは、本当に微かな違和感だった。
風の冷たさが変わったわけではない。誰かの足音が聞こえたわけでもない。
ただ、何かがおかしい。
彼の感覚が、「景色の連続性」にほんの少しのズレを感じていた。
(……気のせいか?)
ゼロは自分の感覚を疑った。
滝を見つめるジンの背中、泥を調べ終えて立ち上がるドウラの姿、何も変わったところはない。
だが、じわじわと、肌の表面を粟立たせるような、冷たい「何か」が脳の奥を突き刺してくる。
時間は静かに流れていく。
戦士たちはまだ滝の美しさについて口々に話し合っている。
ゲンはすでに帰路のルートを確認するように、手元の地図に目を落としていた。
その間も、ゼロの不快感は少しずつ、確実に強まっていく。
物理的な何かではない。
だが、まるで「世界の密度が、自分たちの周囲だけ異常に濃くなっている」かのような、奇妙な閉塞感。
視線をどこに向けても、怪しい影など一つもない。ただ緑の葉が揺れ、澄んだ水が流れているだけだ。
(どこだ? 何が狂っている?)
焦りがじわりと首筋を濡らす。
どれだけ目を凝らし、耳を澄ませても、異変の『実体』が掴めない。
何も聞こえない。
何も見えない。
その「何もなさ」が、逆にゼロの心臓の鼓動を不自然に速めていく。
ザァア
──
その瞬間は唐突に訪れた。
それまで絶え間なく鳴り響いていたはずの滝の水音が
──
まるで、背後から巨大な壁を突きつけられたかのように、一瞬にして完全に消失したのだ。
周囲の全ての音が消え去り、耳が痛くなるほどの一切の静寂が空間を支配する。
ただの水音の途絶ではない。
自分たちの背後、わずか数歩の距離に、光すら遮断するほどの圧倒的な『巨大な体積』が、音もなく割り込んできたことによる肉体的な圧迫感。
「……待て。全員、動くな」
ゼロが低く、だが凍りつくような鋭い声で周囲を制した。
その声の尋常ならざる冷たさに、ジンとゲン、そしてドウラが即座に身体を強張らせ、それぞれの得物に手をかける。
安堵に浸っていた里の戦士たちも、息を呑んで動きを止めた。
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