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第83話:源流の安堵

それからさらに斜面を登り詰めること、数十分。


目の前の鬱蒼とした木々が不意に途切れ、視界が一気に開けた。


正面にそびえ立つのは、垂直に切り立った巨大な岩壁。


その遥か高く、中腹にある不自然な岩の裂け目から、澄み切った水が突如として激しく流れ出していた。


絹糸のように、それでいて力強く流れ落ちる水は、美しい放物線を描いて足元の広大な泉へと注ぎ込んでいる。


ザァア、と細く、けれど途切れることのない涼やかな水音が、周囲の岩肌に反響して心地よく響き渡っていた。


「……ようやく着いたか」


里の戦士の一人が、武器を握り直しながらも、ホッと息を漏らした。


周囲を険しい岩壁に囲まれたその場所こそが、この小川の源流だった。


溢れ出た水がなみなみと湛えられている泉には、魚一匹、虫一匹の姿もない。


ただただ、澄み切った空気が満ちていた。


「周囲に異常なし。これより奥へ続く道もないな」


ゲンが周囲の岩壁を鋭く見遣りながら、短く告げる。


一行は警戒を維持しつつも、本来の目的である「小川の異変の原因究明」のために動き出した。


「ドウラ、泉の縁の泥を調べろ。何かが通り抜けた跡や、不自然な変色がないか見るんだ」


ゲンの指示を受け、ドウラは大斧を傍らに置き、泉の波打ち際に膝をついた。


泥を深くすくい上げ、その感触を確かめる。


「……ゲンの旦那、泥の層に乱れはねえ。不自然なくらい澄んでる」


一方、ゼロは泉に近づき、そっと掌で水をすくって匂いを嗅ぎ、僅かに口に含んだ。


感覚を極限まで研ぎ澄ませ、水の「質」を見極める。


「水に毒の類は入っていない。それどころか、下流のそれよりも遥かに澄み切っている。異変の原因となる濁りの源は、ここにはないな」


他にも徹底的な調査の末、水質にも周囲の地形にも「異常なし」という結論が出た。


「本当に、何もねえな……」


過酷な行軍の終着点。


調査を終えた里の戦士たちは、ようやく長い緊迫から解放され、目に見えて安堵の息を漏らした。


一人が膝をつき、泉の冷たい水を手で何度もすくって美味そうに喉を潤す。


「生き返る。……おい、お前も飲めよ。こんなに美味い水、里でも滅多にねえぞ」


「本当だな。おい、見ろよあの滝……。岩の中から湧き出てるみたいだ。吸い込まれそうだぜ」


もう一人の戦士も武器を岩に立てかけ、呆然と岩壁の中腹から溢れる滝を見上げていた。


水飛沫が陽の光を浴びて虹色に輝いている。


過酷な登坂の疲れを癒やすように、戦士たちはその圧倒的な美しさにすっかり心を奪われ、束の間の平和な時間を楽しんでいた。


ジンもまた、フゥ、と重い息を吐きながら、少しだけ肩の力を抜いて滝を見つめている。


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