第80話:苦渋の決断
「ふぅ……間一髪だったな。エリス、助かった」
リュウイチが立ち上がり、自身の端末へと視線を落とした。その表情が、これまでになく険しくなる。
「……マズいな。最初の野鼠、さっきのウツボカズラ、そして今の裂刺蜂だ。この立て続けの3連戦で、思った以上に時間を食われた。制限時間の3時間のうち、もう半分以上が経過している」
「マジかよ、もうそんなに経ったか……」
カイが顔をしかめ、重い体を引きずるようにして肩を回した。
傷は塞がっても、精神的な焦燥感までは拭えない。
おまけに、これだけリスクを冒して進んでも周囲の景色は一向に変わらず、不気味な森がどこまでも続いているのだ。
「残り時間を考えたら、ここで引き返して合流地点に戻るのも手だけど……。リュウイチさん、どうする?」
テツが真剣な面持ちで、問いかけた。
振られたリュウイチは、小さく息を吐いて一度沈黙した。
冷静に帰路の消費体力と残り時間を天秤にかける。
ただの無茶はできない。
だが、ここで手ぶらで戻れば、ただの徒労に終わるのも事実だった。
リュウイチはゆっくりと顔を上げると、隣で静かに佇むカイへと視線を向けた。
「カイ、お前はどう思う?」
カイはふう、と深く息を吐き出し、少し考える素振りをすると、リュウイチの目をまっすぐに見つめ返した。
「……なぁリュウイチさん。ここからさらに奥へ進める余地は、まだ残ってるか?」
リュウイチはまっすぐにカイの目を見つめ、静かに頷いた。
「あぁ…あるにはあるが、この先も何があるかわからない。それに合流時間に間に合うかは微妙だな」
シビアな現実を突きつけられ、場に緊張が走る。
カイはゆっくりと、周囲の仲間たちの顔を見渡した。
疲労の色を隠せないテツ、静かにたたずむレイジ、 そして満身創痍になりながらも武器を握り直す里の戦士たち。
最後に、じっと自分を見つめていたエリスに視線を落とする。
彼女は不安を滲ませながらも、カイを真っ直ぐに見つめていた。
その瞳を見た瞬間、カイのなかで全ての迷いが消え、強固な決意へと変わる。
「なら、進もう」
カイが短く、一切のブレのない声で断言した。
その一言に、間髪入れずに言葉を重ねたのはレイジだった。
「よっしゃ!行くぞ!ここまで来て手ぶらで引き返せるかってんだよ。」
レイジが剣の柄を強く握り直し、熱い闘志を乗せて吠える。
その言葉にカイは不敵にニヤリと笑い、リュウイチも信頼を込めて小さく微笑んで、再び森の先へと鋭い眼光を向けた。
「よし、決まりだ。もう少しだけ進もう。ただし、さらに状況が悪化したり、合流時間までに戻れるかどうかギリギリを経過した時点で、強制的に引き返す。いいな?」
全員がそれぞれの武器を強く握り直し、まだ見ぬ森の深部へ向け、それぞれの維持や決意を胸に再び力強く歩き出した。
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