第79話:満身創痍と癒やし手
「……去った、か」
レイジが剣を下げ、その場に崩れ落ちるようにへたり込む。
異能を解除した瞬間、せきを切ったように全身を襲う激しい倦怠感と筋肉の軋みに、わずかに眉をひそめる。
「フゥー…その様だな」
リュウイチは無言で武器を収めると同時に、深く息を吐き出し、周囲の警戒を解くことなく、続けざまに指示をだした。
「エリスさん、すぐに負傷者の手当てを!」
リュウイチの鋭い指示に、円陣の中心で守られていたエリスが深く頷き、素早く動き出した。
彼女はそっと目を瞑り身体の奥底から力を引き出す様に、淡く清らかな光をその両手に宿す。
まずは裂刺蜂の毒針を深く喰らい、意識が朦朧としていた里の戦士の肩口に手を当てる。
エリスの異能が発動すると、傷口から不気味な紫色の毒液が押し出され、見る見るうちに肌の赤みが引いていった。
「う、うぅ……すまない、エリス様……」
「無理をしないで。まだ完全に毒が抜けきったわけじゃないから」
エリスは微笑み、次にカイとテツの元へと駆け寄る。
太ももを刺されたカイ、そして左腕を抉られたテツ。
二人の傷口にも光を当て、激痛と痺れを呼び起こしていた猛毒を次々と中和していく。
また、ウツボカズラの粘液を浴びて皮膚を焼かれた別の戦士の治療も、手際よく異能の光で包み込んでいった。
「ありがとう、エリス。……おかげで脚が軽くなったよ」
「ふぅーーっ、助かったぜお嬢さん。マジでヒリヒリしてやがった」
二人がホッとした表情を浮かべるのを見届けた後、エリスは最後にリュウイチの前に膝を突いた。
彼女の視線は、リュウイチの足元へと向けられる。
「リュウイチさん、足の傷を見せてください。最初の野鼠戦のあとにお薬で手当てしましたけど、この連戦です」
「ああ……すまない、少し無理をさせるな」
エリスは大丈夫だと首を振り、リュウイチがズボンの裾をまくり上げると、エリスが巻いた包帯にうっすらと血がにじんでいた。
傷自体は深くなかったため、最初は異能を使わずに薬と包帯で応急処置を済ませていたのだが、斥候として激しい3連戦を駆け回ったことで傷口が開くだけでなく、じわじわと赤く腫れて明らかに悪化してしまっている。
「やっぱり、かなり負担がかかって悪化しちゃってます。……今度はちゃんと、異能の力で治しますね」
エリスは小さく息を整え、リュウイチの足首にそっと両手を添えた。
再び柔らかな治癒の光が灯り、悪化しかけていた傷口を優しく修復していく。
光が消え、全員の傷と毒は確かに塞がった。
しかし、エリスの異能をもってしても、休む暇なく戦い続けた肉体の根本的な疲労や、削り取られた精神的な消耗までを完全に消し去ることはできない。
一同の顔には、隠しきれない濃い疲弊の影が落ちていた。
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