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第75話:刹那の針穴

弱点がバレたと察知したのか、巨大ウツボカズラはさらに吸血蔦を密集させ、その節を完全に死角へと隠そうと蠢きを早める。


はるか頭上、戦士の身体はついにウツボカズラの大口の縁にまで達し、その衣服が滴る粘液に触れ始めていた。


もう時間切れ寸前だった。


「テツ、レイジ、オレが道を作る。合わせてくれるかい」


リュウイチが、霞む視界を精神力で押し広げ、指の間に三本の短刀を挟み込みながら言った。


「あぁ、一瞬でいい。隙間を頼む」


テツは愛用の槍を腰の横に構え、その鋭い眼光を、蔦の防壁の奥にある「脈打つ節」へと定めた。


「……いくよッ!!」


リュウイチの腕がしなり、三本の短刀が目にも留らぬ速さで投擲された。


それと同時にレイジとテツが走り出した。


寸分の狂いもない三連投擲が、弱点をガードしていた吸血蔦を弾き、レイジが剣でその隙間を広げ、一瞬だけテツの槍が通る「直線のルート」をこじ開ける。


「テツ、今だ!!」


「ふんッ!!」


その僅かな隙間を、テツは見逃さなかった。


テツの身体が、地面を強く蹴って跳躍する。


その動きには一切の無駄がなく、流れるような一連の動作で、槍の先端が一直線に突き出された。


鋭い風切り音と共に放たれたテツの「急所突き」は、乱雑に蠢く棘の隙間を寸分の狂いもなく縫い、赤黒く染まった『節』を正確に貫いた。


ベキィッ!!!


不気味な破砕音が森に響き渡る。


中枢を破壊されたウツボカズラは、戦士を呑み込む直前でガクガクと震え、そのまま力なく大口を開けた。


拘束を失った戦士の身体が、真っ逆さまに落下してくる。


「危ねえっ!」 


カイが滑り込み、落下してきた里の戦士を寸前で受け止めた。


同時に、周囲を埋め尽くしていた普通の蔦も吸血蔦も、糸の切れた人形のように一斉に力を失い、ボトボトと地面に落ちて動かなくなった。


「……ハァ、ハァ……。生きてるか!?」


カイが粘液まみれになっていた里の戦士の顔を叩く。


戦士はまだ頭が朦朧としながらも、小さく頷いた。



レイジが刀を引き込みながら、ふぅと荒い息を吐き出す。


周囲の甘ったるい空気も、本体の枯死とともに急速に霧散していった。


「エリスに水をかけられなかったら、今頃一人失っていたな」


「助けれたからよかったけど、ほんとうに笑えない」


軽口を叩くレイジにエリスは冷たく返事をするが、一同どこかホッとしていた。


テツもまた、槍を引き抜きながら静かに息を整えた。


植物の猛威を、知識と完璧な連携で見事に突破したリュウイチ班。


しかし、彼らの衣服に付着した肉食植物の強烈な甘い粘液の臭いは、鬱蒼とした森のさらなる悪夢を引き寄せようとしていた──。

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