第73話:捕食者の鉄壁
「待て! 今助ける!」
レイジが地を蹴り、高度を上げていく戦士の真下へと飛び出す。
だが、それを遮るように、両岸の巨木から無数の蔦が一斉に伸長してきた。
それらが立ち塞がる様に進路を塞ぎ、前衛の足元へ絡みつこうと迫る。
「クソッ、邪魔すんじゃねえ!」
カイが右腕を振り回し、正面の蔦を強引に殴り飛ばす。
しかし、頭がぼーっとしているせいで踏み込みが甘く、なかなか蔦を吹き飛ばすことができない。
「くっ、しぶといな……! 刃にまとわりつく!」
レイジの剣にも、乱雑に伸びる細い蔦がしつこく絡み、得意の快速な剣閃が鈍る。
それぞれ自衛だけで完全に手一杯だった。
「う、うわああぁっ! やめろっ、離せっ!」
頭上から戦士の悲鳴が響く。
一行が足止めされている間にも、戦士の身体は地上から5メートル、6メートルと、確実に巨大なウツボカズラの大口へと近づいていく。
じわじわと削られていく猶予が、一行の焦りを加速させ、冷静さを失わせていた。
ビシャッ!!!
「二人とも、お気を確かに! まずは意識を取り戻して!」
エリスが叫びざま、引き抜いた水筒の水をカイとレイジの顔面へと勢いよくぶちまけた。
不意に浴びせられた冷水の刺激に、二人がわずかに顔をしかめる。
しかし、脳を覆う甘い霧はまだ完全に晴れきらない。
「おい、カイ……ッ!」
「お前こそ、しゃきっとしやがれ……!」
視線が交わった瞬間、
バチンッ!!!
二人は同時に互いの胸ぐらを掴み、空いた手のひらで相手の頬を思い切り引っ叩き合った。
肉が激しく弾ける凄まじい音が二発、同時に響く。
容赦のない痛烈な一撃によって、朦朧としていた脳の奥が一気に冴え渡り、二人の瞳に鋭い光が戻った。
その泥臭くも確実な覚醒動作を見たリュウイチやテツ、そして里の戦士たちも瞬時に動いた。
それぞれが手近な水筒の水を頭から被り、己の顔を激しく引っ叩いて甘い毒気を強制的に撥ね退ける。
「みんな!陣を立て直せ! 蔦をまとめて切り払う!」
リュウイチの鋭い指示が飛び、意識を完全に覚醒させた一同の動きが劇的に変わった。
先ほどまで翻弄されていたのが嘘のように、息の合った完璧な連携で迫りくる蔦を的確に叩き切り、踏みつぶしていく。
じわじわと押し戻し、前線にわずかな優位が生まれかけた、その瞬間だった。
──ボコッ、バキキッ!
歓喜を打ち砕くように、足元の腐葉土を突き破って不気味な破裂音が鳴り響く。
地中から躍り出たのは、表面に鋭い棘を無数に逆立たせた赤黒い**吸血蔦**だ。
これまでの蔦とは比較にならない速度としなやかさで、鞭のようにのたうち回り、再び一行の形勢をひっくり返しにかかる。
その禍々しい色と不気味な脈動に、テツが顔をこわばらせて叫んだ。
「これはヤバい! 血を吸い取られるぞ! 気をつけろ!」
テツの脳裏には草原での牙の姿が脳裏を過ぎった。
一同は一歩引いて慎重にならざるを得ない。
せっかく立て直した戦線が、再び防戦一方に追い込まれていくのだった。
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