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第71話:闇を射る声

単体ならなんの問題もない野鼠が群れになるだけで翻弄され、3時間という貴重なタイムリミットが溶けていく──。


そんな嫌な思考が脳裏をよぎる中、先頭のリュウイチだけは静かに目を閉じ、その場に深く腰を落とした。


視覚が遮られた暗闇のなかで、彼の五感は極限まで研ぎ澄まされていく。


(……右、巨木の影の腐葉土。次、左の朽ち木の裏から三匹。いや、頭上の枝からも二匹降りてくる……!)


目に見える素早い動きに惑わされる仲間たちとは違い、リュウイチの耳は、乱雑な森のノイズの中から「野鼠たちが次に地面を蹴る微かな音」を完全に捉えていた。


不規則に見える野鼠の動きも、音の先読みをすれば、その着地地点が手取るように分かる。


「レイジ、右斜め前方、三歩先の木の根元に刀を置け! カイ、そこから左の太い幹に向けて衝撃波を放ってくれ!」


リュウイチの鋭い指示が飛ぶ。


信じて即座に動いたレイジが剣を突き出すと、まるで自ら刃に飛び込むように野鼠の群れが躍り出て、次々と斬り伏せられた。


同時にカイが放った青白い火花の衝撃波が、リュウイチの予言通りに幹を蹴って跳ぼうとした個体群を空中で一網打尽に消し飛ばす。


「すげえ……! ドンピシャだ!」


カイが歓声を上げる。


「僕が次の着地地点を指示する! みんな、視覚じゃなく僕の声に合わせて動いてくれ!」


鬱蒼とした森の死角を突いてくる野鼠の猛威に対し、リュウイチの「聴覚による先読み」が完全に噛み合った。


彼の的確なナビゲートにより、一行は翻弄されることなく、効率よく野鼠の群れを排除していく。


「次、テツの足元! カイ、真上から三匹!」


「オラァッ!」


激しい金属音と衝撃波の音が、狭い小川の空間に何度も反響する。


リュウイチの指示によって無駄な動きは減ったものの、それでも相手は圧倒的な数の暴力だ。


木の根の隙間から滑り込んできた数匹が、前衛をすり抜けて後衛へと肉薄する。


「しまっ──」


指示を出していたリュウイチの足首に、一匹の野鼠が鋭い牙を突き立てた。


「痛っ……!」


「リュウイチ!」


レイジが即座に身を翻し、リュウイチに群がろうとした残りの数匹を素早く斬り捨てる。


「……ハァ、ハァ……。もう、奥からの気配はない。これで、最後だ!」


リュウイチが息を切らしながら声を絞り出す。


カイが最後の一匹を地面ごと殴り飛ばして粉砕すると、ようやく開けた小川沿いに静寂が戻ってきた。


あたりには無数の野鼠の骸が転がり、一行の衣服は返り血と腐葉土の泥で黒く汚れていた。


「あぁクソ、弱ぇくせに精神的にどっと疲れるな……」


レイジが剣の血を払いながら、ふぅと荒い息を吐き出す。


「リュウイチ、動かないで。すぐ手当てするわ」


エリスが素早く駆け寄り、リュウイチの前に膝をついた。


彼女は自身のカバンから慣れた手つきで薬草の入った小瓶と清潔な布を取り出す。


「これは噛み傷の毒を和らげる薬草よ。森の野鼠は雑菌が多いから、すぐに処置しないと傷口が腐るわ。痛むけど、少し我慢してね」


エリスはテキパキとした手つきでリュウイチのズボンの裾をめくり、傷口に薬液を浸した布を当てて手際よく包帯を巻いていく。


その無駄のない動きと冷静な判断に、里の戦士たちも感心したように視線を向けた。


「……ありがとう、エリス。助かったよ」


リュウイチが痛みに耐えながらも、ほっとしたように笑みを浮かべる。


「お互い様よ。あなたの耳がなかったら、今頃全員もっとボロボロになってたわ」


エリスが立ち上がり、周囲を見渡す。


「他の人たちも、小さな擦り傷や噛み傷があったら今のうちに言って。この先、何があるか分からないんだから」


エリスの的確な処置によって、調査隊はなんとか戦力を維持することに成功した。


だが、タイムリミットは確実に刻一刻と迫っている。


一行は息を整え、再び濁った小川の奥へと歩みを進めるのだった。

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