第70話:深緑の足枷(あしかせ)
開けた分岐点でゲン班と別れ、リュウイチ班は向かって左側の小川沿いへと進路を取った。
広場を出た時点では霧は完全に晴れ渡っていたが、歩みを進めるごとに、周囲の巨木が乱雑に突き出す枝葉によって視界が塞がれていく。
頭上を完全に覆う深緑の天井のせいで、差し込むわずかな陽光すら緑色に濁って見えるほどだ。
ただ、目的の小川の周辺だけは木々が途切れ、少し開けた見通しの良い空間になっていた。
「……鬱蒼としてるな。足元も、木の根と腐葉土でまともに踏み込めねえ」
レイジが愛刀の柄に手をかけたまま、周囲の警戒を怠らずに呟く。
彼らのすぐ横を流れる小川は、相変わらずわずかに濁ったままで、その先にあるはずの源流の姿を隠し続けていた。
先頭を行くリュウイチは、時折足を止め、周囲の樹木の生え方や、わずかな地面の傾斜に耳を澄ませるようにしてルートを選定していた。
「みんな、あまり小川から離れすぎないでくれ。この先、急に斜面が切り立っている場所がある。この乱雑な森の形を見る限り、一度ルートを外れると戻るだけで大幅に時間をロスするぞ」
「了解。タイムリミットは3時間だからな。無駄な往復は避けたい」
テツが冷静に頷き、背後のエリスや里の戦士たちに目配せをする。
エリスもまた、周囲に生い茂る見たことのない植物の危険度を素早く見極めながら、一歩一歩慎重に足を運んでいた。
探索を始めてから、およそ二十分。
今のところ、汚染の明確な原因は見つかっていない。
ただただ、静まり返った不気味な森が続くばかりだった。
だが、その静寂は唐突に破られる。
ガサガサッ、ガサッ!
頭上の茂み、あるいは行く手を阻むように乱立する巨木の死角から、無数の小さな影が津波のように飛び出してきた。
「──囲まれた!?」
カイが身構える。
現れたのは、鋭い牙と赤黒い瞳を持つ、小ぶりな野鼠の群れだった。
一匹ずつなら足蹴にできるほどの小動物だが、その数は尋常ではない。
しかも、真っ向から襲ってくるのではなく、鬱蒼とした木々の隙間や腐葉土の影をすばしっこく駆け回り、一行の足元を執拗にかき乱して前進を阻んできた。
「チッ、チョロチョロと……! 小さすぎて当てづらいな!」
カイが放つ衝撃波やレイジの素早い剣閃でも、乱雑な地形を利用して不規則に跳ね回る野鼠たちを真っ正面から捉えきるには時間がかかる。
仕留めたとしても、鬱蒼とした緑の奥から次々と新しい群れが溢れ出し、キリがない。
「うわっ!? 足首を噛まれた!」
里の戦士の一人が声を上げ、バランスを崩す。
それを皮切りに、四方八方から飛びかかる野鼠の爪牙が、確実に一行の体力を削り始めた。
一匹を狙えば別の三匹が死角から跳んでくる。
自然の物量そのものが、一行を押し潰さんとする猛威となって迫っていた。
「くそっ、このままじゃ拉致が明かない……!」
視界を埋め尽くす赤黒い眼光の群れを前に、全員の顔に焦りと疲労の色が浮かび始めていた。
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