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第67話:脅威の源へ

修行の完了から一夜明けた、翌朝。


森の民の里は、夜明け前の深い霧に包まれていた。


里の入り口には、これから湿地帯の奥深くへと足を踏み入れる調査隊の面々が集結している。


カイ、レイジ、ゼロ、リュウイチ、テツ、ドウラの6人に加え、エリス、そしてあの湿地帯の救い手。


さらにその後ろには、険しい顔つきをした里の精鋭の男たちが数名、独自の武器を手に静かに控えていた。


高台に残る師匠の姿はない。


「師匠は……来ねえんだな」


レイジが小高い丘の方を振り返りながら呟くと、カイがぶっきらぼうに頷いた。


「あぁ。師匠はどうしても里を離れられねぇ理由があるらしい。……ここからは、俺たちだけで行くしかねぇ」


その言葉に、救い手の男が一歩前に出た。


冷徹な双眸が、一行を射すくめるように動く。


「これより、里の水源である川の汚染原因を突き止める。道中は人の手が入っていない未知の領域だ。足手まといは容赦なく置いていく。……私はこの里の斥候や自警を統括している、ゲンだ」


ゲンの冷徹な言葉に続き、後ろに控えていた大柄な精鋭の一人が、深く引き締まった声で言った。


「同じく、里の戦士長を務めるジンだ。お前たちの実力は賢者から聞いている。だが、森を侮るなよ」


里の戦士たちの放つ、実戦慣れした独特の威圧感が場を包む。


男たちのピリピリとした空気の中、エリスがフゥと小さく息を吐き、毅然とした態度で一歩前に出た。


「改めまして、エリスです。森の危険な動植物の判別や、万が一の毒への対処、怪我の応急処置なら任せてください。皆さんの足を引っ張るつもりはありません。よろしくお願いします」


その瞳には、ただ守られるだけの少女ではなく、過酷な山道を進む上で不可欠な専門家として、皆を支えようとする強い決意が宿っていた。


戦士長であるジンもフッと目元を緩め、頼もしそうに頷いた。


「よし、出発するぜ。目指すのは川の源流だ」


カイの合図とともに、調査隊は動き出した。


今回のルートは、里の中心を流れる小川を遡るようにして、ひたすら山を登っていく。


道中は、斥候担当のゲンと、一週間でさらに技術を磨き上げたリュウイチの二人を中心に進んでいった。


最初はなだらかだった道も、進むにつれて巨木の根が複雑に絡み合い、道なき道を進まざるをえなくなっていった。


「……っ、前が見えねぇな。思ってた以上に霧が濃いな」


レイジが足元の小川に視線を落としながら言う。


水面は不自然に濁り、どこか怪しい光沢を帯びた微細な粉のようなものが、水の流れに混じって不気味に漂っていた。


「油断するな、レイジ。川沿いを歩いているとはいえ、この濃霧だ。一歩踏み外せば、自分がどこにいるかも分からなくなる」


リュウイチが音のない確かな足取りで周囲を警戒しながら、冷静に声をかける。


ゲンとリュウイチが、互いのサインを確認し合いながら的確にルートを選定していくため、一行は迷いやすい濃霧の中でも確実に前進を続けられた。


しかし、森は生き物のように彼らの感覚を狂わせにかかってくる。


川のせせらぎが周囲の岩に反響し、まるで四方八方から水が流れているかのような錯覚に陥る。


さらに、行く手を阻むように巨大な腐木が倒れ込んでおり、それを迂回するたびに、本来のルートから強制的に引き離されそうになった。


少し川から離れた獣道を歩いていたテツが、ふと足を止めて霧の奥へ進もうとする。


それを見たリュウイチが、すかさず鋭い声をかけた。


「おいテツ、そっちは行き止まりだ。その音は偽物だ、騙されるな、ルートは右だ」


「チッ、音が反響してやがんのか……! ありがとよ、リュウイチ」


テツが冷や汗を拭いながら引き返す。


先頭を行くゲンや、後ろで見守っていた戦士長のジンは、リュウイチの地形を見抜く的確な判断力と無駄のない身のこなしに、目元を険しくして感心したように見つめていた。


ゲンが立ち止まり、木々の隙間から見上げるような険しい山頂を睨みつける。


その時、川の上流の霧の奥から、地響きのような不気味な鳴き声と、木々が激しくなぎ倒される凄まじい音が響き渡った。


ただの野生動物ではない。明らかに「異質な何か」が、こちらに向かって猛スピードで接近してきている。


「……チッ、さっそくおお出ましだ。全員、武器を構えろ!」


カイが掌にパチパチと火花を散らしながら吼える。


1週間の修行を経て、初めての「実戦」の幕が、突如として切って落とされようとしていた。

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