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第66話:一週間の変貌

高台での修行が始まってから、瞬く間に一週間が過ぎた。


フォレストドゥエラーの里の小高いところ。


そこには、一週間前とは明らかに「まとう空気」を変えたレイジとゼロの姿があった。


過酷な湿地帯をがむしゃらに突き進んでいた頃の、どこか泥臭く焦りに満ちた雰囲気は綺麗に消え去っている。


「……ふん。一週間でここまで形にしてみせるとはな」


岩の上に腰掛けた師匠が、満足げに小さく口角を上げた。


師匠の視線の先で、レイジはあれほど過酷なシゴキを課されたというのに、荒い息一つ吐くことなく、涼しい顔で立ち尽くしていた。


底なしの体力を思わせるその佇まい。


「へへ……。最初はどうなるかと思ったけど、今ならいくらでも動ける気がするよ」


レイジはニヤリと笑う。


だがその直後、自身の身体を内側から走った微かな軋みに、一瞬だけ眉をひそめた。


その隣で、無言のまま静かに周囲を見渡していたゼロ。


その双眸は、風に舞う微細な葉の動きや、霧の向こうの微かな変化すら完全に捉えているかのように、鋭く冴え渡っていた。


しかし、ゼロはすぐにふっと目を閉じ、目元を軽く押さえる。


そして、二人と共に牙を研いでいたカイもまた、静かに己の掌を見つめていた。


時折、その手元でパチパチと小さな火花が弾ける。


以前のような危うい反動は消え、制御された異能は放たれるのを待つかのように大人しく凝縮されていた。


「どうだ、レイジ。ゼロ。掴めそうか?」


掌の火花を消しながら、カイが二人に視線を向けた。


「あぁ。まだ完璧じゃねぇし、なんか妙な引っかかりはあるけどよ……。確かな手応えはある」


レイジが自身の身体を確かめるように拳を握りしめる。


ゼロも静かに目をあけると、カイを見据えて短く告げた。


「感覚は研ぎ澄まされた。だが、長くは持たない。ここぞという局面での切り札だ」


「……さすがだな。二人とも、一週間でよくそこまでものにできたな」


カイはそう口にすると、フッと不敵に笑った。


3人の間には、同じ「異能」という未知の力を宿した者同士の、静かな信頼感が漂っていた。


「カイ。残りのお仲間たちも、どうやら戻ってきたようだぞ」


師匠の言葉に、カイが視線を山道へと向ける。


道を上ってきたのは、救い手の案内人のもとで訓練を終えた、リュウイチ、テツ、ドウラの三人だった。


彼らの変貌もまた、凄まじいものがあった。


もともと優秀な斥候であったリュウイチだが、斜面を上がってくるその足取りは、音もなく霧に溶け、まるで忍者のような独特の雰囲気を漂わせている。


その後ろから歩いてくるテツは、以前のどこか大雑把だった無駄な動きが一切消え失せ、手にした槍の構えが見違えるほどに洗練されていた。 


最短最速で敵の急所を貫く鋭さを覗かせている。


テツは静かに槍の柄を握り直すと、隣に立つゼロへと視線を向け、引き締まった眼差しで不敵に笑った。


「よぉ、ゼロ。そっちは少しはマシになったか?」


ゼロは視線だけでテツを一瞥し、短く応じる。


「お前こそ、少しは隙が減ったようだな」


二人の間で、静かに火花が散った。


そして最後に上ってきたドウラは、以前までの「ただ力任せに斧を振り回すだけの粗暴さ」が完全に削ぎ落とされていた。


重心は深く安定し、無駄のないキレを予感させる。あの重量のある大斧を、威力を落とさず連続で叩き込んでみせるような圧倒的な気迫。


ドウラは大斧を肩に担ぎ、レイジの前に立ちはだかるようにして凶悪な笑みを浮かべた。


「チッ、俺様向きじゃねぇと思ったが、これならあのデカトカゲどもの首も、一瞬でぶっ飛ばせるぜ。おいレイジ、遅れをとんじゃねぇぞ」


「そっちこそ。大口叩いてすぐバテんなよ、ドウラ」


レイジが不敵に言い返し、こちらもまた火花を散らす。


一週間という短い期間。


しかし、この過酷な環境と一流の導き手によって、一行は確実に「戦士」としての格を数段階引き上げていた。


まだまだ完全には使いこなせているとは言えないが、それぞれの佇まいは一週間前とは比べものにならない。


「全員いい面構えになったな」


一歩前に出たカイが全員の顔を見据え、引き締まった声で告げた。


「ここでの訓練は終了だ。……明日から、里を脅かす『水質汚染』の原因を探るため、湿地帯のさらに奥深くへと調査に入る。みんな、準備はいいな」


カイの言葉に、レイジ、ゼロ、環境に適応しつつあるリュウイチたち三人が力強く頷く。


己の内に目覚めた力、そして磨き上げた技術――まだ見ぬ「限界」をその身に宿しながら、一行は里を救うため、そして更なる強さを証明するための「実戦」へと、いよいよ足を踏み入れるのだった。

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