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第64話:霧の誓いと濁らぬ眼差し

部屋の奥に座す『頭』が、圧倒的な威圧感を放ちながらゆっくりとカイを見据える。


「カイよ。改めて確認させてもらう。お前は、我が里の現状を変えるため、力を貸してくれるのだな?」


頭の鋭い眼光を、カイは真っ直ぐに睨み返すように受け止めた。


「ああ、約束だ。あんたたちの里を救う手助けはする。……その代わり、俺をここで、この過酷な湿地帯を生き抜けるくらい圧倒的に強くしてもらう。それが条件だ」



カイの覚悟の座った返答を聞き、頭は小さく口角を上げると、それ以上は何も言わずに沈黙した。


レイジは納得がいかない様子でカイを睨みつける。


「おい、説明してくれ。何でこの里を助けるなんて話になってんだよ」


カイは深く息を吐き出すと、レイジたちの目を一人ずつ見つめながら、ぶっきらぼうに、だが熱を込めて語り始めた。


「……この里は今、深刻な水質汚染に苦んでる。飲み水もまともに確保できなくて、このままじゃ里自体が遠からず滅びる。何が原因なのかはまだ分かってねぇ。だから、俺がその原因を突き止めて、解決したいんだ。……そのためには、この危険な湿地帯を動き回れるだけの、圧倒的な強さがいる。だから、頭のもとで修行をさせてもらう」


カイは一度言葉を切り、隣に立つエリスを見つめた。


「何より……俺は、エリスに命を救われた。行き倒れてた俺を助けてくれたエリスに、そしてエリスの大事なこの里に、受けた恩をちゃんと返さなきゃ気が済まねぇ。……けど、モールへ帰るのを諦めたからじゃねぇ。この危険な土地を切り抜けて、全員で安全にモールへ帰るためだ。だから……今は残る」


カイの固い決意が、広間に響き渡る。


沈黙が流れる中、レイジはカイの目をじっと見つめ返していた。


かつてモールにいた頃よりも、どこか険しく、それでいて強く成長したカイの眼差し。


一度こうと決めたら絶対に曲げないその頑固さを、レイジは誰よりもよく知っていた。


(こいつは、ただ生き延びただけじゃない。もう前を向いて戦い始めてるんだな……)


目の前の相棒が放つ強い意志に触れ、レイジの胸の奥にも熱い火が灯る。


レイジは小さくため息をつくと、肩の力を抜いて不敵に笑った。


「……まったく、お前って奴は。言い出したら聞かねぇな。だったら、俺たちも残る。お前一人にいい格好させるかよ。俺たちも手伝う」


「レイジ!? 本気かよ!」


テツが飛び上がるように驚き、ドウラも顔をしかめて不満を露わにする。


「おいおい、冗談じゃねぇぞ。なんで俺たちまでそんな面倒に巻き込まれなきゃならねぇんだ」


「そうだぞ! 汚染だか何だか知らねえが、俺たちに関係ないだろ!」


テツとドウラの激しい反発に、レイジはニヤリと笑って言い放った。


「関係なくねぇよ。カイがここに残るってんなら、放っておけるか。それに、俺たちが来る途中で遭遇したあの巨大な影……今の俺たちの力じゃ、まともに戦うことすらできなかっただろ。この先、あの脅威に対抗して生き延びるためにも、俺たち自身がもっと強くならなきゃいけない。ここで森の民の技術や戦い方を学べるなら、悪くない話だろ?」


「強くなれる……か」


ドウラがその言葉にピクリと眉を動かし、大斧の柄を握り直す。


不納得ではあるが、「強さ」という言葉の響きには抗えない様子だった。


テツもまだ不満げに口を尖らせていたが、レイジの兄であるゼロや、リュウイチたちが静かに頷くのを見て、渋々とナイフを腰に収めた。


「決まりだな」


レイジの言葉に、カイの顔に少しだけ、いつものぶっきらぼうな、だが救われたような笑みが浮かんだ。


「チッ……勝手にしろ。足引っ張んなよ、レイジ」


「へっ、そっちこそな、カイ」


こうして一行は里に留まり、水質汚染の原因を突き止めるため、そして己の力を高めるための、新たなる闘いへと身を投じることになるのだった。

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