第58話:もう一度
「……リュウイチさん。どうします?」
レイジがリュウイチ判断を仰ぐ。
「…もう一度だ!もう一度進んでダメだったら戻ろう」
ここまできて諦められない気持ちと、もし迷ってからでは皆の命が危険にさらされる気持ちとの葛藤の中で、リュウイチは静かに微かに唇を震わせながら答えた。
皆は互いに頷き合い、再び移動を開始した。
リュウイチは同じ間違いを犯さないよう慎重に、先ほどではないが泥濘に苦しめられながらも、時にはレイジやテツにも手伝ってもらいながら、確実に歩を進めていた。
そんな中で不意に、後ろを歩いていたテツが声を潜めて言った。
その声は心なしか震えている。
「なぁ…気のせいならいいんだがよ……あそこに影ねぇか?」
テツの言葉に、一同に緊張が走りピタリと足を止めた。
俺たちの動きに合わせて、泥をねだるような不気味な足音も、一拍遅れて静まり返る。
「影、だと?」
リュウイチが低く問い返す。
リュウイチは目を凝らし、霧の壁に映る、薄暗い輪郭を見つめた。
白濁した霧の向こう。
確かに、姿が歪んだ黒い影が映し出されている。
テツの言う通りだった。
影は五つ。
警戒を強める5人。
こちらが動くとあちらも動く。
霧の壁の奥でゆらゆらと黒い影を揺らめながら――、三つ、六つあるいはそれ以上あるようにも見えた。
「おいおい、冗談だろ……。増えてやがらぁ」
ドウラが大斧の柄を握り直す。
シーン、と静まり返った空間に、鋭い緊張が走る。
「……気のせいではないな。確かに、我々の数とは一致しない」
ゼロが槍を低く構え、いつでも突き出せる体勢を取った。
全員の呼吸が浅くなる。
冷たい霧の中にいるはずなのに、背中を嫌な汗が伝っていく。
誰も動かない。
誰も声を上げない。
ただ、霧の向こうの「何か」と対峙するような、息の詰まるような沈黙だけがその場を支配していた。
――その時だった。
ピチャリ。




