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第51話:未熟な咆哮

「『澱んだ熱』だと……? わけのわかんないことを言うな。そもそもあんた、一体誰なんだ」


首筋の刃は引かれたものの、カイは依然として右腕を構えたまま、目の前の細目の男を睨みつけた。


男は相変わらず表情を崩さず、静かに言葉を返す。


「儂の名か……。それは追々知ることになろう。それよりもガキ、まずは貴様のその『力』、儂に見せてみろ。加減などいらん。あの大岩を叩いてみよ」


師匠が指差したのは、庵から少し離れた場所に鎮座する、人の背丈を優に超える巨大な岩だった。


「いきなり何言って……」


「安心しろ。使い物にならぬほど壊れれば、エリスが治す。……それとも、己の力が怖いか?」


「……っ、上等だ」


挑発に抗えず、カイはしぶしぶ岩の前へと進み出た。


大きく息を吐き、右腕の「蓋」を無理やりこじ開けるようにして、内側に渦巻く熱を一点に凝縮させる。


「おおおおおっ!爆ぜろっっっ」


ドゴォォォォォン


咆哮と共に放たれた一撃が、大岩に叩き込まれた。


岩の表面が無残に凹み、蜘蛛の巣状の亀裂が全方位へと走り、巨大な質量が数センチほど地面を削って後退した。


凄まじい威力ではあるが、それは洗練された技ではなく、ただ破壊の衝動を押し付けただけの、歪な暴力だった。


「ぐっ、あああああ……!」


直後、カイはその場に膝を突き、右腕を抱えて悶絶した。過剰な熱が逆流し、筋肉と神経を内側から焼き焦がしている。


「カイ! ……『癒やし』を!」


エリスが駆け寄り、カイの腕に必死に手をかざす。


淡い光が立ち上るが、先ほど民を助けた時よりも、エリスの顔色は明らかに蒼白になっていた。彼女の身体が小刻みに震え、額から大粒の汗が零れる。


「……師匠、損傷がひどすぎます……。私だけでは、完全には……っ」


エリスの苦しげな報告を聞き、師匠は初めてその細い目を僅かに見開いた。


「……済まぬ、二人とも悪かった。儂の想像以上に、状況は良くないようだな」


師匠は短く呟くと、歩み寄ってエリスの手を優しく止めさせた。


そしてカイの焼け付いた腕を一瞥し、奥に控える庵を顎でしゃくった。


「残りの手当ては儂が薬草で行う。……二人とも、少し話がある。中へ入れ」


師匠の纏う空気が、先ほどの鋭利なものから、どこか重く、静かなものへと変わっていた。


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