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第48話:古き友の足跡

「……孫、だと。サイの、孫……」


ギルは掠れた声で何度も繰り返し、震える手でカイの肩を掴み直した。


まるで、目の前の少年が陽炎となって霧に消えてしまわないか確かめるような、必死の力だった。


「ああ。俺の名前はカイ。……じいちゃんは、草原の向こうの『モール』って場所で、俺を育ててくれた」


「モール……。生きて、外へ……。そうか、あのアホんだら、ちゃんと逃げ切りやがったか……」


ギルは天を仰ぎ、仮面の下で鼻をならした。


それは笑い声のようでもあり、長年抱えてきた「親友の安否」という重荷が、ようやく解けたような響きでもあった。


「……埃っぽいところだが、入れ。立ち話をするには、ここは湿気が多すぎる」


促されるまま、カイはエリスと共に、里の端に建てられた質素な木造の家へと足を踏み入れた。


室内には、錆びついた工具や正体の知れない骨の部品が所狭しと並んでいる。


中央には小さな火が焚かれ、香草の混じった煙が、里の淀んだ空気を僅かに浄化していた。


「おっと、エリス姫。わざわざ案内ご苦労さんだな。……姫さんも、そこに座んな」


ギルはエリスにぶっきらぼうながらも親しみのある挨拶を投げ、二人に椅子を勧めた。


エリスは小さく頷き、静かに腰を下ろす。


「いくつだ、カイ」


「……十七だ」


「十七……。サイとあの森で離れ離れになってから、それだけの月日が流れたか。儂も年を取るはずだわい」


ギルは使い込まれた椅子に深く腰掛け、遠い目をした。


カイもまた、杖を傍らに置き、じいちゃんの知らなかった一面を捉えようと、その言葉を待つ。


「じいさんは……ギルだっけか。あんたは何者なんだ? じいちゃんと、どういう関係だったんだよ」


カイの問いに、ギルは焚き火の爆ぜる音を聴きながら、ゆっくりと口を開いた。


「儂とサイはな、モールで育った幼馴染だった。……まだ二十代の後半だった頃だ。俺たちは数人の仲間と、この深い森へ狩りに繰り出した」


ギルのは静かに過去を語りだした。


「だが、運が悪かった。俺たちは、この森の捕食者の一つ――「巨虎きょこ」に出くわしちまった。……抗う術などない。主権は奴にあり、俺たちはただ逃げることしかできなかった。必死で森の中を走り、仲間の声も聞こえなくなり、気づいた時には方向もがわからなくなっていた」


「……それで、じいちゃんと離ればなれに?」


「ああ。儂は運良く森の民に拾われたが、サイの行方はようとして知れず、儂はあいつが死んだとばかり思っていた。……だが、サイ達は諦めていなかったんだな。巨虎のテリトリーを潜り抜け、故郷のモールへのなんとか帰れたんだな」


自嘲気味に笑うギルに、それまで静かに聞いていたエリスが口を開いた。


「……ギルさんは、この里に流れ着いて以来、ずっと私たちの生活を支えてくれました。ギルさんがいなければ、この里の道具や、私たちが歩く木道さえ、とうの昔に泥に呑まれて消えていたでしょう。……私たちが今、こうして形を保っていられるのは、ギルさんがモールから持ち込んだ技術のおかげなのです」


エリスの言葉には、ギルへの純粋な信頼と敬意が籠もっていた。


ギルは照れ隠しのように鼻を擦り、不意にカイの右腕をじろりと見つめた。


「よせやい。儂はただ、腕が錆びつくのが嫌で暇を潰してただけだ。……それよりサイの孫よ。お前、その右腕……さっきから妙な熱を孕んでおらんか?」

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