第47話:細き生命線(いのち)
エリスの背を追い、カイは里を繋ぐ不安定な木道を歩く。
霧が少しだけ薄れた場所から見下ろすと、里の住人たちの生活が視界に入ってきた。
だが、その光景はどこか沈み込んでいる。
木道の脇で激しく咳き込む者や、全身に爛れを負い、力なく座り込んでいる者の姿が、あちこちでちらほらと見受けられた。
絶望というよりは、じわじわと蝕まれていくような静かな苦痛が、里の空気を重くしている。
「……ひどいな。みんな、病気なのか?」
カイの問いに、エリスは足を止めず、沈痛な面持ちで頷いた。
「はい。……この里には、かつて清らかな水を運ぶ小川が流れていました。それは私達の生活を支えてくれる水で大切なものでした。ですが今はもう使えないのです。
彼女が指差した先、里を貫く本来の川筋には、どろりとした澱みが流れていた。
「……あの水は、飲めば体が内側から腐り始めます。原因はわかりません。ただ、ある時期から上流から毒の粉が混じり始めたのです。……私たちが今、唯一安全に口にできるのは、あそこだけです」
エリスが指を向けたのは、岩壁の隙間から細々と滴り落ちる水滴だった。
「今はこの里から少し離れたところに大きな川があり、なんとか水を運んで凌いではいますが、そこは獰猛な猛獣たちが住み着き、私たちには安易に近づくことすら許されません。」
「このままでは、この人数を支えきれません。…あそこが枯れるか、あるいはあそこまでもが毒に侵されれば……私たちはこの里を捨て、別の場所を探しに出るしかありません。……ですが、この霧の深淵を、これほど多くの病人を抱えて移動するなど、死を選べと言っているようなものです」
エリスの声は、淡々としていながらも、逃げ場のない現実をそのまま映していた。
彼女はただ、目の前の事実をカイに突きつけるように、静かに前を見据えている。
「……あんたは、それでいいのか。ここで、ただ水が尽きるのを待つだけで」
カイが思わず問いかけると、エリスは初めてカイを真っ直ぐに見つめた。
「…っ」
その刹那、背後の古い工房から、一人の老人が転び出るように現れた。
「……その声、その立ち姿……! まさか、お前……」
老人は泥にまみれた手でカイの肩を掴み、その顔を食い入るように見つめた。
「……サイか!? サイ……生きていたのか……!」
サイ。その名を聞いた瞬間、カイの胸にじいちゃんの笑顔が浮かんだ。
「違うよ、じいさん。俺は……サイの孫だ」




