第43話:泥濘の波紋
日が落ちた夕間暮れ時、モールのバリケードの外側に、五人の影が現れた。
「――戻ったぞ! 開けろ!」
ゼロの鋭い声に、重い鉄扉が微かに開く。
ふらつきながら中へ入った五人を待っていたのは、松明の炎に照らされたマルタ、そして怪我を押して壁に縋り付くように立っていたレンの姿だった。
「ゼロ! ……カイは、カイは一緒じゃないのかい!?」
マルタの悲鳴に近い問いに、五人は一瞬、沈黙で応えた。
レイジが震える手で、泥にまみれた「カイの小手」を差し出す。
「……第4ポイントの奥で見つけた。これだけだ」
「そんな……」
マルタがその場に崩れ落ちる。
レンは小手を見つめたまま、一筋の鼻血を拭うことも忘れ、その場に釘付けになっていた。
「……聞け、全員」
リュウイチが、煤けた顔を上げて静かに、しかし重く告げた。
「カイは死んじゃいねぇ。…可能性がある…だが、事態は巨熊よりも厄介だ。第4ポイントから第5ポイントの湿地にかけて、あるはずの足跡が『消されて』いた」
「消されてた……? どういうことだよ、リュウイチさん」
門番の男が、信じられないといった面持ちで身を乗り出す。
「そうだな順をおって説明しよう。俺達はカイとレイジ達が別れたところまで行き、カイと熊の痕跡を辿った。確かに第4ポイントの池までは痕跡が明確にあった。けどそこから…跡形もなく消え去っていた。俺達は驚愕した。くまなく探し続け諦めかけた時、ようやくそれを見つけたんだ」
「野生の獣は、ふつう、自分の足跡を消したりはしねぇ。……何者かが、意識を失いかけていたカイを運んだに違いない。追跡を逃れるために痕跡を潰しながら歩いた跡があった。……あの第5ポイントの泥濘の奥へだ」
その言葉がモール内に響いた瞬間、焚き火の爆ぜる音さえも止まったような静寂が訪れた。
「人為的な誘引」
それは、この森に自分たち以外の「知性」が存在する可能性を示唆していた。
「……明日、夜明けとともにもう一度捜索にいく」
ゼロが、愛槍の柄を軋むほどに握りしめて宣言した。
「俺とレイジ、リュウイチは当然だ。ドウラ、テツ、お前たちもだ。……門番、悪いが明日はバリケードの設営を中断し、戦える奴をあと数人貸してくれ。場合によっては事を構えることになるかもしれない…」
「……へっ、面白くなってきやがった。熊の次は『森の幽霊』退治かよ」
ドウラが不敵に笑い、テツもまた、暗い照明の下で槍の穂先を冷徹に光らせた。




