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Fantasy Saga(仮)  作者: 天海 燈乃
第1章:黎明
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第42話:消失の波紋

「……おい、ここが第4ポイントだぞ!」


「カイ! カイ!返事をしろッ!」



レイジが茂みをなぎ倒し、泉のほとりへと躍り出た。


だが、そこにあるはずの「救うべき背中」はどこにもなかった。


「……バカな。足跡は、確かにここまで続いていたはずだ」


リュウイチが、血走った右目で地面を這うように見渡す。


泉の周囲の湿った土には、カイがよろめきながら歩いた跡が残っていた。


しかし、それはある一点を境に、まるで見えない壁に突き当たったかのように「唐突に」途切れていた。


引きずられた痕跡も、巨熊が侵入した足跡もない。


大型の怪鳥が舞い降りた形跡すら、周囲の枝葉ひとつ折れていないことから否定される。


「……消えた? 跡形もなくかよ。喰われたなら血の一滴、骨の一片くらい残ってんだろ!」


ドウラが斧を地面に叩きつけ、苛立ちを露わにする。


テツも、冷ややかな表情を崩しながら、周囲の静寂を不気味そうに睨んだ。


「……大型の獣の気配もない。不自然すぎる。まるで、最初から誰もいなかったみたいだ」


「そんなわけねぇだろ! カイは、カイはここまで来たんだ!」


レイジが叫び、泉の底を泥だらけになって攫う。


だが、答えは返ってこない。


一時間。


二時間。


五人は必死に周辺を捜索したが、森の深部へと向かうほどに、カイの気配は霧のように霧散していった。


「……クソッ。日が傾き始めてやがる。これ以上は……」


ゼロが唇を噛み締め、撤退の決断を下そうとしたその時。


「……待て。……あれを見ろ」


泉の反対側、膝丈ほどもある叢の奥を凝視していたリュウイチが、弾かれたように駆け出した。


彼が拾い上げたのは、泥にまみれた「カイの小手」だった。


「……レイジ、お前が作ったやつだろ、これ」


「……っ、ああ! カイの……!」


レイジがそれを奪い取るように受け取る。


小手は鋭い爪で引き裂かれたような跡があったが、他は特に不審な点は見当たらない。


その先さらに深くに目をやると、暗い藪の奥へと「何か」が続いていた。


「……よく見ろ。なんだこれは。……これは、誰かが、足跡を『意図的に消しながら』歩いた跡だ」


リュウイチの言葉に、全員の背筋に冷たいものが走った。


その不気味な「跡」を辿り、五人は左端の第5ポイントへと足を踏み入れた。


そこは、これまでのポイントとは一線を画す、広大な泥濘と湿地地帯だった。


足を踏み入れるたびにズブズブと黒い泥が音を立て、立ち枯れた巨樹が墓標のように湿原から突き出している。


「……なんだよ、ここ。第5ポイント……こんなに気味が悪い場所だったか?」


レイジが周囲を見渡すが、日はすでに朱色に染まり、湿地の上に長く、歪な影を伸ばしている。


「……リュウイチ、これ以上の捜索は全滅を招く。……一度、モールへ戻るぞ」


ゼロの断腸の思いがこもった声が響く。


「……待てよ、ゼロ! 目の前に手がかりがあるんだぞ! ここまで来て!」


「レイジ、落ち着け。……逆に考えろ」


リュウイチが、泥の上に残された「不自然すぎるほど隠された痕跡」を指差した。


「喰うならその場で喰う。攫うならもっと派手にやる。……足跡を消し、この足場の悪い第5ポイントへ誘い込むような真似……これは、野生の獣の仕業じゃない。……つまり、カイはまだ、『何者か』の手によって生かされている可能性がある」


その言葉に、絶望に沈んでいたレイジの瞳に、微かな、しかし鋭い光が戻った。


ドウラとテツも、自分たちの理解を超えた「人為的な不気味さ」に、珍しく沈黙を守っていた。


「……明日だ。夜明けとともに、総力を挙げて再び来る。……生きて連れ戻す。そのためには、今、戻るしかないんだ」


ゼロの言葉に、レイジは小手を強く握りしめ、地面を一度だけ殴った。


救い出せるはずだった希望が、さらに深い謎へと形を変えた。


五人は、泥濘の奥に消えたカイの気配を背中に感じながら、夜の帳が降り始めた森をモールへと急いだ。

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