第44話 新たな決意
コツ コツ コツ
「お前さん達……あそこまで、行ったのか」
救出隊の帰還に揺れるモールの中、人だかりを割って現れたのは、杖をついたカイのじいちゃんだった。
その眼差しは、レイジが握りしめる泥まみれの「小手」をじっと見据えている。
「じいさん…なんなんだよ。第5ポイントには何かあるのか」
レイジの問いに、じいちゃんは焚き火のそばに腰を下ろし、重い口を開いた。
「いいか、よく聞け。あそこの泥は、ただの土じゃねぇ。かつての文明が捨てた化学物質と、森の根が複雑に絡み合って、途中から底なしの沼を作っておる。一度足を取られれば、引きずり込まれて森の栄養にされるだけだ」
周囲の男たちがゴクリと息を呑む。
「そのさらにその奥……霧が立ち込める奥地は、わしらの記録にもない場所だ。そこへ足を踏み入れて戻ってきた者は、わしの知る限り一人もおらん。……カイがそこへ連れ去られたのなら、相手はただの獣じゃねぇぞ。獲物を『生かして運ぶ』だけの知恵か、あるいは我ら以上の『知性』をもつ何かがいるかもしれん」
「……それでも、行くしかないんだ。あいつが、俺たちを逃がしてくれたんだから」
レイジの言葉に、じいちゃんは静かに頷いた。
「……わかっておる。だが、無策で突っ込めば全滅じゃ……」
「…皆の者、何もできぬわしが言うのもおこがましいんじゃが、今夜は皆でこやつらの為に少しでも道具を揃えてやってくれんか」
その言葉を合図に、モール全体が息を吹き返した様に活気づく。
「おう」、「あたりめいだい」、「何いってんだよ」、「オレは何をしたら良い」
僅かな「希望」の為、新たな「恐怖」に打ち勝とうと
あちこちで皆口々にやる気を漲らせ、各々が自分ができる事やり始めた。
クマさんと門番が中心となり、武具の準備が始まる。
「おい、この厚手の革を二重に巻け! 泥の中のトゲで足を切ったらそこから化膿するぞ!」
「その繋ぎは甘い!ここはこうして、更にここはこうだ!」
男たちは夜通し、火花を散らして武器を研ぎだり、水を通しにくい様に簡易防具を急造していった。
「……レイジ、ゼロ。そしてリュウイチ、ドウラ、テツ…すまんな…」
じいちゃんが、明日出陣する五人を呼び寄せた。
「お前たちは、今すぐ寝ろ。泥の中での一歩は、草原の百歩に等しい。体力が尽きた時、そこが墓場になる。……ここは残る者たちで仕上げておく」
レイジ達は小さく返事をし、それぞれの部屋へと横たわった。
背後では、仲間たちが金属を叩く音や、革を縫い合わせる音が、子守唄のように、しかし力強く響き続けている。
(……待ってろよ、カイ。明日、必ず引きずり出してやる)
レイジは、そう胸の中で決意し、泥のついた小手を自分の枕元に置き場に、静かに眠気についた。




