第40話:歪な鉄の結束
モールの重い鉄扉が、鈍い音を立てて開いた。
朝靄に包まれた草原を前に、五人の男たちが装備の最終確認を行う。
その背後から、マルタが食い入るようにドウラとテツの前に歩み寄った。
「……いい、あんたたち。自分勝手な真似をしてカイやゼロを危険にさらしたら、あたしが承知しないからね。分かった?」
マルタの鋭い視線に対し、ドウラは鼻で笑い、肩に担いだ斧の重みを確かめた。
「へっ、威勢がいいねぇ、マルタ。……安心しな、俺たちは『死体』を回収しに行くんじゃねぇ。英雄様が熊に食われてる間、俺たちがどれだけマシな戦いができるか、見せつけに行くだけだ」
「口を慎め、ドウラ!」
レイジが激昂して一歩踏み出すが、横で槍の穂先を研いでいたテツが冷ややかに割って入る。
「……落ち着けよ、レイジ。事実だろ? 英雄様がいなきゃ、お前らはここにいなかったかもしれねぇだからよ。……行くぞ。日が昇る前に」
マルタは唇を噛み締め、リュウイチの腕を掴んだ。
「……リュウイチ。あの子たちを、お願いね」
「ああ。……行ってくる」
五人は、朝日を背にして、黄金色に波打つ草原へと踏み出した。
「リュウイチさん、足元に気をつけろ。この辺りは『吸血の茨』が伸びてきている。片目だと距離感を誤るぞ」
先頭を行くリュウイチに、背後のゼロに低く声をかける。
「……問題ない。片目になった分、風の音や匂いには敏感になった。……それに、あのレンが色々遺してくれたのが、まだ微かに残ってる」
「……そうか。頼りにさせてもらう」
一行は、昨日レイジたちが逃げ延びた「第1ポイントルート」を辿り、再び深緑の境界線へと近づいていく。
森の入り口が近づくにつれ、空気は冷たく、そして湿った重みを帯び始めた。
「……へっ、ここからが本番か。今回のルートは、そんなに化け物がうじゃうじゃいるのかよ」
ドウラが不敵な笑みを浮かべ、斧を構え直す。
「昨日、俺たちが仕留めた巨猪以上の奴がいるかもな。怖気づいたんなら、今すぐ草原で花でも摘んでな」
レイジの挑発に、テツが薄笑いを浮かべる。
「……面白い。その巨熊とやら、俺の槍が通るか試してみたいもんだな。カイとかいう奴が手こずった相手なら、俺たちが仕留めれば序列はひっくり返る」
「……私欲で動くのは勝手だが、足だけは引っ張るな」
ゼロが冷たく言い放ち、森の闇へと最初の一歩を刻んだ。
「――ここからは、声と光を絞るぞ。……行くぞ。カイの足跡を、一歩も見逃すな」
静まり返った森。
昨日の喧騒が嘘のように、春の芽吹きが全てを飲み込もうとしていた。
五人の歪な結束が、カイの待つ深部へと、静かに、しかし確実に進んでいった。




