表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fantasy Saga(仮)  作者: 天海 燈乃
第1章:黎明
45/54

第39話:出撃の朝

モールの円筒状の天窓から、薄い春の光が差し込み始めた。


一晩中、巨猪の肉を捌き、血の匂いと熱気に包まれていたモール内は、夜明けとともに張り詰めた静寂に支配された。


「……行くぞ」


レイジが立ち上がった。


一晩の泥のような眠りを経て、不思議にもその体には力が戻っている。


だが、その瞳には焦燥の炎がゆらめいていた。


彼が武器を手に取り、鉄扉へ向かおうとしたその肩を、ゼロの強い手が制した。


「待て、レイジ。一人で突っ込むつもりか」


ゼロもまた、昨夜の疲労を色濃く残しながらも、兄としての冷静な眼差しを取り戻していた。


「あいつが、カイが一人で戦ってるんだぞ! 一刻も早く……!」


「分かっている。だからこそ、少数精鋭でいく。……俺と、お前。そして、あともう数人だ」


ゼロの言葉に、周囲にいた者たちが一斉に顔を上げた。


「俺も行く!」と真っ先に声を上げたのは、門番の男とクマさんだった。


だが、ゼロは静かに首を振る。


「あんたたちには、ここの防衛とバリケードの続きを頼みたい。もし俺たちが失敗すれば、このモールを守れるのはあんたたちだけだ。それに、カイが戻ってきたとき、ここが壊れてちゃあいつに顔向けできないだろう?」


苦渋の決断だった。


熟練の二人は唇を噛み締めながらも、その言葉の重みに頷くしかなかった。


「あたしも行くわ。気持ちなら負けない」


マルタが進み出ようとしたが、その前に一人の男が立ち塞がった。


「……よせ、マルタ。お前はここにいろ」


低い、少しかすれた声。


そこにいたのは、左目に深い傷跡を持ち、かつて斥候の筆頭を務めていた男、**リュウイチ**だった。


「リュウイチ……あんた、その目で……」


「片目でも、森の歩き方は忘れてねぇよ。……お前はここに残って、女や子供たちの支えになってやれ。絶望が一番の毒だ。お前がいなきゃ、この場所は中から腐る」


マルタは言葉を飲み込み、震える手でリュウイチの腕を掴んだ。


衰弱し、横たわったままのレンが、微かに目を開けて呟く。


「……リュウイチさん……なら、安心だ。……お願いします……カイ、くんを……」


リュウイチは短く頷き、ゼロの横に並んだ。


だが、まだ人数が足りない。


その場の空気が淀んだ時、壁に背を預けていた二人の男が、嘲笑うような足音を立てて歩み寄ってきた。


「……おいおい、仲良しこよしで心中か? 見てられねぇな」


現れたのは、ドウラとテツだ。


ゼロやレイジとは事あるごとに衝突し、その実力は認められつつも、独断専行が目立つモール内の「厄介者」たちだった。


「ドウラ……お前たち、何の用だ」


レイジが敵意を剥き出しにする。


「用? 決まってんだろ。そのデカい猪を仕留めた『英雄』様が、熊の餌になったってんなら、俺たちが引導を渡しに行ってやるってんだよ。……まぁ、ついでにそこのリーダー様の無様な死に様も拝めるしな」


ガモンが不敵に笑い、横でテツが槍の穂先を弄びながら冷ややかに笑う。


血気盛んで口は悪いが、その腕は確かだ。


この極限状態において、これ以上の戦力はない。


「……いいだろう。ドウラ、テツ。お前たちの力、貸してもらうぞ」


ゼロが二人を見据え、短く告げた。


こうして、私怨も理想も混ざり合った、歪な五人の「精鋭」が結成された。


春の朝靄が立ち込める草原へと、再び鉄扉が開く。


カイを救い出すための、時間との戦いが始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ