45.人間失格
「……」
どこか、懐かしむような表情をしていた。
いや、それだけではない。彼女の表情には、懐かしさと悲しさ、その両面が存在するように思えた。
俺は人の顔をよく見て育ってきた。環境的に、人の心情を伺うのが癖になっていたからだ。
だから、なんとなくだけど、彼女の気持ちが伝わってきた。
これから語られるのは、彼女にとっての大切な記憶。その一部。
「両親はいませんが、わたしには姉さんがいました。と言っても、みんなが思うような姉さんとは少し違う気がするんですけどね」
彼女は苦笑しながら、竿を揺らす。
「不思議な言い方をするな」
「そりゃ不思議な言い方をしますよ。なんせ、その本人が不思議な方でしたから」
そういう意図で言ったわけじゃなかった。もちろん、『みんなが思うような姉さんとは少し違う』という言い方は、まあ珍しいと思う。
けれど、別に不思議なことではない。
癖のある姉さんなんだなと、済む話だからだ。
俺が引っかかりを持ったのは、『いました』という部分。それに対して、俺は不思議な言い方をするなと言った。
しかし、大方どういうことなのかは察しが付く。俺もそこまで鈍感なわけではない。
正直失言であったと思ったが、レイレイがあまり気にしていないようだし、そこから話を膨らまそうとしているので俺は合わせることにした。
「不思議な姉さん……想像できないな」
「なんていうか、人間失格と言いますか……」
「人間失格とな」
嘆息しながら、レイレイがぼやく。
人間失格。
不思議な方で、人間失格で、となると単語が単語で、俺では想像ができない。
「姉さんらしくなかったとか?」
どうにか考えて、溢れた言葉は稚拙なものである。
まあ、今はそんな想像力が必要な場面ではないんだけれど。俺が勝手に何か深く考えすぎていただけの悪い癖である。
「ええ。本当にダメな姉さんでした。家事はできないし、妹のお世話だってできない。なんなら、わたしが姉さんのお世話をしていましたから、立場は逆転してしまってましたしね」
「とことん言うな」
思わず笑ってしまう。




