44.赤ちゃん……
「もしレイレイが構わないのなら」
「ふふ、ありがとうございます」
彼女は少し目を薄めて、
「昔の話です。と言ったら、スレイさんは身構えますかね?」
薄い笑みを浮かべて、レイレイが首を傾げる。
「そりゃエルフの昔だからな」
エルフと言えば、長寿な種族の代名詞と言えよう。彼女たちは普通に生活していても、何百歳と生きる。人間と比べたら、なんだか笑えてきてしまう。
「私、そんなに年増に見えますか?」
「エルフだから……百歳くらい?」
「馬鹿言わないでくださいよ。私、まだまだ子供です。十四才ですよ十四才」
「レイレイってそんなに若かったのか!?」
「そ、そんなにお年寄りに見えますか……?」
「冗談だよ。んじゃエルフ換算にすると……まだまだ赤ちゃんってところか」
「そうなりますね。私、まだまだ赤ちゃんです」
両手を胸の前に持ってきて、ぎゅっと握る。
……何をしているのだろうか。
「あ、赤ちゃん……」
「ああ! ああ、赤ちゃん」
まさかの赤ちゃんポーズをするとは思わなくて、変な声が出てしまった。
なんてことだろう。このエルフちゃん馬鹿みたいに可愛い。
やっぱり赤ちゃんだ。多分、百歳以上生きているエルフの場合、きっとこんなことしてくれないだろう。というか、したところで萌えるかどうか怪しい。
いや、萌えるか。
でも百歳超えっておばさんじゃね?
人間でいう百歳のおばあちゃんが赤ちゃんポーズをしていると考えたら色々と怪しい。
まあ可愛かったらオールオッケーな気がするけど。
「赤ちゃん……」
「可愛い! 超可愛い!」
「えへへ」
傍から見たらすごい空間だと思う。
だって赤ちゃんのマネをしているエルフと、賑やかしの俺。万が一通りすがりにこんな光景を見かけたら、二度見くらいすると思う。いや、三度見まで行くかもしれない。立ち止まって少し状況を分析するかもしれない。
まあ、最終結論としては俺が親ばかだってことになるんだけど。
「話が脱線しちゃいましたね。楽しくって」
「俺もなんかすまん。俺も楽しくってさ」
誰か一人とこうやって話す機会なんてなかなかないものだから、つい俺もテンションが上がってしまった。いつもは四人揃って、ということがほとんどだからな。
俺は未だに手応えのない釣り竿を握り直して、ふうと息を吐く。
「そう、昔の話です。スレイさんと出会うずっと前、わたしがまだエルフの集落で暮らしていた頃のことです」
「エルフの集落……か。となると、本当に昔の話になるな」
少なくとも、俺が知らない話題である。
エルフの集落。俺は魔族が住む場所になんて行ったことがないから上手く想像ができない。そもそも、俺はまともに他の街にも行ったことがないレベルなのだ。
「はい。スレイさんは……お兄さんか姉さんはいましたか?」
「兄姉はどうだったかな。恥ずかしい話、あまり家族のことを知らなくてさ」
両親は、本当に幼い俺を捨てた。両親と一緒にいた期間の記憶なんて断片的なものしか残っていない。それこそ、森に入る前に思い出した草木を走り回ったことくらい。
「家族のことを知らない……ですか。実はわたしもあまり知らないんです。ただ、唯一の人を除いてはですが」
「唯一?」
俺はその、唯一の人物が気になって、レイレイの方を見た。
無意識のうちに、彼女の表情を覗いてしまう。




