第16話 ボルノ火山
「地図と照らし合わせてみてもばっちし!到着だ!!」
「到着〜!到着〜!!」
「ここが…!ボルノ火山ガルか!」
人間の急襲から四日後、ナラク達はついにボルノ火山の懐ふところまで辿り着いた。
山頂から呼吸の如く吐き出される大量の白煙と雪のように舞う火山灰。それは現在進行形でこの山が火山活動を行っていることを物語っていた。
「この空から降ってくる白いのなにー!?」
「雪じゃねぇか!?どれ」
どんよりとした空から降る雪のようなものを舐めてみる。
「なんだこれ?ジャリジャリするぜぇ…」
「ほんとだぁ…、これは美味しくない雪だ」
スラピーもナラクに続いて舐めたようだ。渋い顔でペッペッと吐き出している。
「絶対雪じゃないガル……」
少し引いて様子を見ていたガルラがそっと呟いた。
「よし、行きますか!!ガルラ、辛くなったら降りるから遠慮せず言ってくれよな!」
「分かったガル!!」
そうしてナラク達は、この山のどこかにあるオーガの里を目指して山道を登り始めた。
「ハァ、火山のせいか??あちぃな…、ガルラ大丈夫か?」
「ハァ、ハァ…、申し訳ないガル。我は毛皮に包まれている故、熱いのがすごく苦手ガル…」
ボルノ火山の中腹あたりまで登ってきただろうか。いまだにオーガの里は見つからない。
通常、山を登っていけばどんどん気温は下がっていくが、この山はそんな常識に反比例するかのように周りの気温がどんどん上昇していく。
「ここから俺らも歩こうスラピー。それにそろそろ水分補給もしたいしな」
ナラクはガルラから飛び降りると、水を作る魔道具を取り出した。精製された水を持参した木のコップに注いでスラピーとガルラに渡す。
「うめぇ〜!!!」
「生き返ったガル〜!!!
「お水美味しい〜〜!!!」
飲んだ瞬間、カラカラになった細胞一つ一つに命の水が染み渡った。それを一気に飲み干した三人は、冷たい至福のため息が出るのを抑えられなかった。
そんな神がかった水分補給で体力を回復させたナラク達は、再びオーガの里を探すべく立ち上がった。
足に伝わる地熱を嫌というほど感じながら一時間ほど歩き続けただろうか。後ろを歩くガルラがピリピリとした警戒感を撒き散らしていることに気がついた。
「どうした?ガルラ??」
「我らに向けてではないガルが、少し先で敵意を持ったモンスターの気配を感じたガル」
ガルラの言葉にナラクとスラピーは驚いた。
「マジか!?何も感じないぜ!!」
「僕も全く感じないよー!」
「我も驚いてるガル…。ふと気づいたらモンスターの気配に敏感になっていたガル」
ナラクが呪文転送を覚えたように、ガルラもまたこの旅でその力を成長させていたのだろう。
なんと魔物やモンスターの気配を探知することが可能になっていた。
「方向は分かるか?」
ナラクは神妙な顔つきでガルラに聞いた。
「この先ガル」
「リスクはあるが、オーガの里の手掛かりもあるかも知れねぇな」
「ナラクは魔物だけじゃなくモンスターの言葉も分かるもんねぇ〜!」
「とにかくガルラの感じた気配のする方に行ってみよう」
それはナラク達は急いで進路を変え、ガルラの指し示した方角に向かい始めた矢先だった。
「キャァァァァァッ!!」
突如、悲鳴のような叫び声が進行方向から聞こえたきた。声の大きさから考えるに声の主は目と鼻の先だ。
「わわ!なんの音!?」
「ご主人様、すぐ近くガル」
「あぁ、只事じゃなさそうだ!急ごう!!」
草を掻き分け先を急ぐ。すると、あれほど行手を阻んでいた草や木が消え、一気に視界が広がった。
そこは鬱陶うっとうしい雑草や木があまり生えておらず、まるでぽっかりと空いた小さな空間のような場所だった。
その空間には、イキり立った数匹のゴブリンと赤色の肌をした鬼のような少女が怯えた様子で蹲うずくまっている。
その少女はギルバートから教えてもらったオーガの外見と一致していた。
「なんだてめぇら?てか?人間??」
「人間がなんでこんなところに」
ゴブリン達の注目が、少女からナラクに移る。
「えーと、何があったか俺には分からないけど、そこのオーガの女の子に用があるんだ。彼女、見逃してあげてくれないかい??」
「「「「!?」」」」
「俺だけか…?言葉が分かるぞ!!」
「俺もだ!!あの人間!なんでだ!?」
「アイツ俺達の言葉が喋れるのか!?」
ナラクの言葉は伝わったようで、全てのゴブリンが驚きふためいていた。そんな中、一匹のゴブリンが強気な様子でナラクに近づく。
「嫌だと言ったら??」
ニタニタと笑いながら奴は棍棒の先をゆっくりと上げる。
言葉こそ伝わったが聞き入れてもらえないようだった。交渉決裂だ。
ナラクは弱肉強食であるこの世界において、どれだけ可哀想であってもモンスターが捕らえた獲物を助けることはしないと決めていた。捕食者にも生活がかかっていることを重々承知しているかりだ。獲物を救ってしまっては今度捕らえた側が飢えてしまう。
だが今回のケースは違った。ゴブリンに襲われているオーガの少女は、手掛かり飛び越えて目的地そのものだ。流石に看過はできない。
「力ずくになっちゃうな」
ナラクはゴブリンの棍棒に合わせるようにゆっくりと手を上げる。それを皮切りにスラピー達もジリジリと間合いを取り始めた。
「スラピー、ガルラ。今回は気絶させるくらいで命までは取らないようにな」
「分かったよぉ!」
「了解ガル」
はらはら舞い降りる火山灰が肩に触れる。その刹那、目の前のゴブリンが棍棒を振りかぶりナラクに向かって走ってきた。
「フレム《初級火球呪文》!」
なんの作も持たず、無謀にも突っ走ってきたゴブリンの顔面を断罪するかの如く、火球が炸裂した。
「ガァァァガフッァ…」
口から白い煙を吐きながらゴブリンは大の字になって地面に倒れる。
「僕もやるよぉ!!」
スラピーは、手当たり次第ゴブリンの腹に向かって強烈な体当たりをかましていた。スラピーのことだから勢い余って奴らを殺してしまわないか心配だったが、周りの四つん這いで立ち上がれないゴブリンの様子を見ると、絶妙な力加減で戦っているようだ。
しかし、思った以上にゴブリンの数が多かった。仲間がやられている隙を見て、ジリジリとスラピーを取り囲むように移動していたゴブリン達が一斉に飛び掛かった。
(流石ゴブリンの連携だな、スラピー気付いてねぇ。援護してやるか)
「魔法転送・フレム×四!!」
そう唱えると、スラピーの体に四つの魔法陣が発現し、その全てから先鋒ゴブリンを屠ったフレムが飛び出した。スラピーを介したフレムは、意表をついたハズのゴブリンのさらに意表をつき、全てのフレムが直撃した。
「ありがとぉ!ナラク!!」
「気にすんなっ!さて、こっちはあらかた片付いたか」
ガルラの方にも視線を送る。数十匹のゴブリンが平伏す中でガルラは毛づくろいをしていた。どうやらあっちもいい感じに片付いたようだ。
ゴブリンを蹴散らしたナラクは、蹲っていた少女の方へ歩み寄る。
「大丈……」
ーーバチィン!!
頬が吹っ飛んだと錯覚するほどに熱い痛みと、鼓膜を揺さぶる乾いた破裂音が響いた。
「痛っってぇぇ!!え??」
「余計なことしないでよ!どうしてくれんのよ!!」
ゴブリンに襲われ蹲っていた少女を助けたお礼は、怒号とビンタだった。
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《Profile》
ゴブリン
魔物ランク D級
得意攻撃 集団リンチ
好きな物 弱者 強奪 酒
嫌いな物 裏切り
・体長は約一メートル。人間に近い見た目をしているが、緑色の肌と鋭く発達した犬歯を持っており、とても人間のものとは思えない。知能が高く集団行動を行うことで有名。一匹一匹の実力は大したことない。しかし数十匹以上のゴブリンを相手にすれば話は別である。数の力を活かした統制された動きは非常に厄介だ。




