第15話 いざオーガの里へ
「わぁ!!一面虹色のお花畑だよ!すごい!」
陽光を存分に浴び、見る角度によって「赤」「橙」「黄」「緑」と忙しなく変化させる変幻自在な花弁。
日の出と共にガナン帝国を飛び出した三人は、そんな虹色の花畑を駆け抜けていた。
「また一人だけ重労働を課しちまってすまねぇな」
「これが我の取り柄ガル!むしろご主人様の役に立てて嬉しいガルよ」
「そう言ってもらえて助かるよ」
嫌な顔一つせず、背に乗せて走ってくれるガルラにはお世話になりっぱなしだ。
「周りから魔物の気配がたくさんするガルね」
「あぁ、もうすでにガナン帝国からかなり離れている。おそらくモンスターだろう」
魔王軍では、軍に属していない魔物のことを「モンスター」と呼んでいるらしい。基本的に魔王軍同士で争うことは固く禁じられているが、モンスターにはそんな掟など存在しない。
「気をつけて行こう」
ナラクはいつ襲いかかってくるか分からないモンスターへの警戒をより一層強めた。
「そうだ!このお花持ち帰ってお家に飾ろぉ!」
そんな警戒した空気をぶち壊すかのように、のほほんとしたスラピーの声が響く。
スラピーはしばらくの間、ウッキウキで虹色の花を凝視していたが、ついに見ているだけでは我慢できなくなったらしい。ガルラの上から体の一部を伸ばして近くにあった一輪の花を引き抜いた。埋まっていた根が空へ飛び出した次の瞬間。
煌びやかに輝いていた七色の色彩が輝きを急速に失い、なんと薄汚い茶色の花弁に変化してしまったのだ。
「くくく笑。残念だったなぁ!この花はここでしか自生できないそうだぜ」
「そんなぁ〜!ナラクは知っていたの!?ひどい!!ちぇ、諦めよーっと」
スラピーは残念そうな様子で死んでしまった花を風に流した。
「そろそろ腹も減ってきたし休憩するか」
ずっと走り続けているガルラを慮ったナラクの提案により、三人は虹色の花畑の中で小休憩を挟むことにした。
ギルバートから貰った地図を広げて現在地を照らし合わせてみる。地図に記された虹の花畑と目的地であるボルノ火山を見比べてみると、どうやらここが折り返し地点になるようだ。
「ガナン帝国を出発して三日か。いいペースだぜ」
ナラクはそう言いながら、帝国で買った乾燥肉をかじる。
「ふふふ!みんなで冒険できて僕は楽しいよ!」
「我も初めてみる光景をみなと共有できてとても心踊るガル」
「俺もだよ笑」
三人の楽しそうな笑い声が虹の花畑に響く。こいつらとならどんな場所でも楽しくやっていけそうだと強く思う。
ナラクの顔には自然な笑みが浮かんでいた。
「気分も上がってきたし、そろそろ出発するかぁ?」
「賛成!」
「ガル!」
そうして、腰を上げ始めた次の瞬間
ーーボオォォンン!!
轟音と共に近くの地面が大きく爆ぜ、何十輪もの茶色い花が空へと舞い上がった。ヒリヒリとした熱い風が肌を掠める。
「うおぉぉぉぉぉッ!?」
突然の事態に思考が停止しそうになるが、すぐに我を取り戻す。もしこれが敵からの攻撃なら、すぐに追撃が来るハズだ。
「スラピー、ガルラ!とにかくこの場から離れろ!!」
ナラクの指示を聞いた二人は即座にその場から離れた。予想通り、より精度の高い爆撃が二度三度立て続けに飛んできた。
もしその場から離れていなければ、間違いなく直撃を喰らっていただろう。
「二人とも怪我はないな」
「大丈夫だよぉ!」
「問題ないガル」
辺りに漂う練られたこの魔力は、呪文特有のものだ。しかし、よほど遠距離から撃ってきているのか敵の姿が見えない。
「この辺に身を隠せる遮蔽物はない、ガルラ!俺達を乗せながら走って撹乱できるか??」
「容易い御用ガル」
再びナラクとスラピーを背に乗せたガルラは、攻撃の狙いを定めにくくするためにジグザグに走り出した。
「もういっちょ保険かけとくぜ!」
ナラクは、アクラ《初級水呪文》を唱えて大容量の水を発現させた。そこにフレム《初級火球呪文》をぶつけるように放つ。
すると、水が熱によって一気に蒸発し、肉の焼けるような音と共に真っ白な水蒸気が立ち上がった。
ガルラの撹乱行動と水蒸気の煙幕作戦は大成功だった。狙いを外した呪文が次々と地面へ炸裂する。それにしても、恐ろしい速さの呪文だ。地面が爆発するまで攻撃されているのが分からないほどに。
だが、これだけバンバン撃ち込まれれば流石に方向くらいは分かる。
「見つけたぜ!あそこに見える岩場からだ!!行くぞ!!」
ナラクはアシスピ《初級速度向上呪文》をガルラにかけた。これで一気に間合いを詰めることができる。
ガルラは一瞬にして数百メートルも離れた岩場に飛び移る。
その岩場の影には、次の呪文を唱えようと魔力を練っている最中の男がいた。
「いつの間に!?」
「フレム《初級火球呪文》」
早速ナラクはお返しと言わんばかりに、その男に向かって攻撃呪文を放った。
しかし、シルド《初級防御呪文》によってナラクの攻撃は阻まれてしまう。
(やはり仲間がいたか)
ギリギリで攻撃を退けた男は、バックステップを踏んでナラクから距離を取る。
「ただの探索クエストのつもりだったが、不自然に抜かれた花があったから追ってきてみれば、なんたる幸運!!お前叛逆のナラクだろぉ〜?」
男は薄汚い笑みを浮かべながらそう叫ぶ。
「叛逆のナラク?なんだそれは??」
「あぁ??知らないのか??お前の首には多額の懸賞金が掛けられているんだよ!!ぐへへ、その首を持ち帰れば俺も億万長者だ!!」
なんとナラクは国家叛逆罪で賞金首となっていた。
「さぁ!!俺のために死んでくれぇ!!」
男は再び魔力を纏った手をナラクへ向ける。しかし、その手はすでに氷漬けとなっていた。
「は…、あれ??」
事態が飲み込めず文字通りフリーズした男の手を蹴り飛ばす。
ガシャンと小気味の良い音と共に、凍った腕は粉々に砕け散った。
「うぎゃぁぁぁぁ!!!!!何やってる!イザミ!!防御魔法はどうしたァァ!!」
男は粉々になった腕を抑え、のたうち回りながら後ろを振り向く。しかしそこには、すでに燃えカスと成り果てた仲間と無傷のスラピーとガルラがいた。
「ナラクのおかげでこっちは簡単に終わったよ〜!」
「イザミ!?たかがスライムとレッドパンサーにやられたのか!?いや、違う…、これは魔力の残り香!どういうことだ?魔物が呪文を唱えたのか!?」
「俺が呪文を転送したんだよ。つい最近知ったぜ、固定スキルってのは成長するんだな」
カイとの死闘の後、ナラクはスラピーやガルラを通して直接呪文を打ち込めるようになっていたのだ。
「ば、ばかな。固定スキルが成長するなんて話、見たことも聞いたこともないぞ」
ナラクは、スラピーの体に赤い魔法陣を展開させる。
「色々な情報が聞けて助かったぜ。もうちょっと話していたいけど仲間を呼ぶための時間稼ぎをされても困る。そろそろお別れしようか」
「テメェ!本当に魔王軍についたんだな!人間のクセに!!このクソ裏切りモンがァァ!!!」
「あぁ、俺は魔王軍のナラク。そしてお前らの敵だ」
「クソクソクソ!元E級のくせに!俺を見下すなやァァ!!」
「フレム」
「*#%$^#………」
汚い言葉を捲し立てていた男はスラピーから放たれた炎に包まれ、すぐに物言わぬ灰となった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《Profile》
物言わぬ灰 (男 42歳)
SR C級
固定スキル 呪文狙撃
得意呪文 炎
好きな物 金と酒
嫌いな物 裕福な者、幸せな人
・元々は優秀な冒険者だった。しかし、大好きな酒に段々と溺れてしまいその結果、家庭も友も全て失い借金だけが残った哀れな男。固定スキルは呪文狙撃で唱えた呪文を狙撃銃のように遠くから飛ばすことができる。放たれた呪文は威力も上がる。




