第14話 準備
「ただいま」
「魔王との謁見」という大仕事を終えたナラクが家に帰る。
「おかえりガル!ご主人様!!魔王様との謁見どうだったガルか!?」
「おかえりー!ナラク!!あ!ギルバードさんもいる!」
中でくつろいでいたスラピーとガルラが、ナラクの姿を見るや否や駆け寄ってきた。
「流石に緊張したわ…。でもなんとか魔王様に認めてもらえたぜ!」
ナラクは椅子に座ると、謁見であったこと全て話した。そして魔王直々に与えられた任務についても。
「なるほどガル…。それでギルバート殿が一緒にいるガルか」
「ご名答だ。そして標準語習得の勉強…、なかなかに捗っているようだなガルラ。まだ不自然な部分も多々あるが標準語で会話ができている」
ギルバートが感心した様子でガルラを褒めると、スラピーも褒めて欲しそうに会話に割り込んできた。
「僕はー!?僕も頑張ってるよー!!」
「ふむ…、スラピーはもう少し文法を強化した方が良いな」
「うぅ…そんなぁ〜!」
家の中に三人の笑い声が響く。そんな和気あいあいとした空気が収まと、ナラクは本題に触れ始めた。
「オーガの里ってどんな場所なんだ??」
「文字通りオーガという魔物が集まって暮らしている里だ。オーガ族特有の難解な言語で生活しており、未だ意思疎通を図ることができた魔物はおらん」
オーガという魔物は聞いたことがある。二本の角を持つ鬼のような姿に赤褐色の肌。特筆すべきはその剛力で、手に持つ棍棒を振り下ろせば大地をも震わす威力があると魔物図鑑に記載されていた。
人間界で定められた魔物の強さを表す「魔物ランク」では、Bクラスの高ランクだった気がする。
そんなオーガがわんさかと暮らす里…、考えただけでも背筋が凍る。まさに危険地帯だ。
すると、ギルバードは懐から地図を出して机に広げると指でなぞり始めた。
「ここガナン帝国から北へ約五百キロ離れた先に、『ボルノ火山』という巨大な活火山が存在する。その山の中腹にオーガの里があるハズだ」
その地図には「ボルノ火山」と記されていた。
「じゃあ俺達は、ここに行ってオーガ達を魔王軍へ勧誘すればいいんだよな??」
「そういうことだ」
ナラクの確認にギルバートが頷く。
「またエアマウンテンの時みたいな冒険が始まるんだぁ〜!」
椅子の下で話を聞いていたスラピーは、目をキラキラさせてナラクを見上げる。
「オーガ族が仲間に加われば、魔王軍の戦力は倍になるだろう。だがオーガは気性が荒く大変危険な魔物だ。油断はするな」
ギルバードの忠告には、この任務の重大さと危険度が高さが含まれていた。
「分かった…。任せてくれ!!絶対にオーガを味方につけてやるぜ!」
魔王直々の任務だ。成功させることができればナラクの信用は高まり、魔物の国の中で居場所を手に入れることができるだろう。
逆に失敗すれば信用は地に落ちる。いや、その前にオーガに殺されるかもしれないが…。
とにかく、オーガの里の任務は失敗できない。
「よし、話はまとまったな。早速明日からお前達にはオーガの里へ向かってもらう」
ギルバートはそういうと、ジャラジャラと音のする小包みを地図の上に置いた。
「少ないかも知れぬが餞別だ。今日はこれで準備を整えるといい」
おそらく、魔王軍で使えるルピーと呼ばれる通貨だろう。小包みの中には、小銭のような物が袋一杯に入っていた。
「ありがとうギルバートさん!良い報告を楽しみにしていてくれ」
ナラクは小包みを受け取るとギルバードに礼と意気込みを返した。
「あぁ。お前達ならきっとできる。無事に達成した暁には皆で宴でも開こう」
「楽しみだ……!」
「肉ー!!!」
「最高ガル…!」
そう言い残し、家を出て次第に小さくなっていくギルバートの背を見送ると、ナラク達も明日の準備をするために大通りへ繰り出すことにした。
「あらぁ聞いたわヨ、ナラクちゃん。オーガの里に行くらしいわネ」
ナラク達はとりあえず、前日に肉を買ったキャサリンの出店を訪ねた。
「なんで知ってんだ!?」
誰かに喋った訳でもないのに、キャサリンはもうナラクの任務について知っていた。
「ふふ…、この国に流れる噂は全てワタシの耳に入ってくるのヨ。例えばスラピーちゃん、ガルラちゃん。アナタたち標準語を勉強中なのよネ?」
キャサリンがスラピーの方を向いてぎこちないウィンクをした。それが原因かは分からないが、何故か胸焼けがしてきた。
「よく知ってるねぇ!猪のおばさん!!シザーズ先生と勉強中なんだ!」
「キャサリンおねぇさんヨ、スラピーちゃん。次間違えたら食べちゃう…カ・モ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そういって舌舐めずりをするキャサリンを見たスラピーは、この世の終わりを見たかのような表情でガルラの後ろに隠れる。
「うふふ笑。冗談ヨ冗談」
スラピーが怯えるのも無理はない。あの顔はとても冗談を言っている顔ではなかった。
「ところでキャサリン、何か食料になる肉を貰えるか??明日オーガの里へ出発しなきゃいけないんだ」
「あら、ずいぶんと早い出発じゃナイ。オーガの里があるボルノ火山はとても遠くてきっとお肉が腐っちゃうワ。食料ならお肉じゃナイ方がいいわヨ!」
なるほど、それは一理しかなかった。それにしてもキャサリンはずいぶんと優しいな。キャラは濃いが…。
「ここの通りをずっと真っ直ぐ行けば、緑色の屋台があるワ。そこに遠征用の日持ちする食料が売っているハズヨ」
キャサリンは大通りの先を指差してそういった。
すると突然、カウンターの向こうからピンク色の大きな手が伸びてきて、ナラクの手を包むように握った。
「キャサリン??」
熱いその手から解放されると、いつの間に仕掛けたのかナラクの小指にずっしりとした袋が掛かっていた。中には見覚えのある生肉が入っている。
「これは…、ボアトスの肉??」
「これで今夜は精をつけなさい。きっと力が出るワ!!」
「何から何まで世話になりっぱなしだな。助かるぜキャサリン!ありがたく頂くぜ」
「いいのヨォ〜。特にこの任務はこの国の魔物全てが注目しているワ。成功させればみんなの見る目が変わるわヨ!頑張ってきて頂戴」
「おう!!任せてくれ!!」
「またねぇ!キャサリンおねぇさん!」
「情報提供とお肉感謝するガル!」
そうしてナラク達はキャサリンと別れを告げると、さっき教えてもらった緑色の屋台を見つけ、水につけると膨らむ乾燥した野菜や肉を買った。
いつの間にか辺りは薄暗くなり始め、ひんやりとした風が流れ始めていた。準備を整えたナラク達は家に戻る。
そしてキャサリンから貰ったボアトスの肉を
ありがたく平らげると、明日に備えて早めに床についた。
ナラクは、目が冴えてしまっていてすぐに眠りにつけなかった。胸に高鳴る高揚感が眠りの邪魔をしていたからだ。
しかしそれも次第に意識に溶けてドロドロに混ざり合い、ナラクはようやく眠りにつくことができたのだった。
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《Profile》
アライ
魔物ランク SS
得意攻撃 氷を纏わせた凍てつく剣撃
好きな物 酒 頑張る者 鍛錬
嫌いな物 行けたら行くで来ない者
・ライオンのような見た目をしていて、背丈はナラクより一回りの大きいくらい。激しい戦闘の歴史を物語る使い古された甲冑を身に付け、腰には日本刀のような風貌をした剣をぶら下げている。その甲冑も相まってどこか侍の雰囲気がある。そしてアライもギルバードと同じくガナン帝国三大将軍の一人であり、めちゃくちゃに強い。将軍の中では一番フランクな魔物でもあり、立場も考えず誰にも分け隔てなく接するため、国民からの人気はトップクラスだ。また、よくそこら辺の飲み屋で出没し、彼が現れた飲み屋では皆んなで朝まで騒ぐことになるのだとか。




