第11話 頂上
軋きしむ線路に上下左右から襲いかかる重力、臓器の浮遊感。エアマウンテンの中を突き進む暴走トロッコは、そのスピードを上げるごとに三人を未体験のデスゾーンへ送り込んでいく。
「みぎぎぎぎッ!ひだりぃぃぃぃ!!おわぁっッ!!!」
「ぎゃぁぁぁっ!!ナラク〜!!たすけてぇ!」
ナラクとスラピーの絶叫が響く。ガルラは普段から疾走しているため、スピードには慣れているのだろうか。余裕そうな表情で爪を立てその身を固定していた。
ナラクには、そんな爪もないのでトロッコの縁ふちを掴み、振り落とされないよう必死に遠心力に抗っていた。
トンネルの壁がトロッコの横幅スレスレをかすっていて、少しでも身を乗り出そうものなら、あっという間に強制下車の結末を辿るだろう。
突然、その壁が消えたかと思うと、ずっと鳴り響いていた線路を刻みつける轟音が、水に広がる波紋の如く円状に広がっていった。
トロッコは淡く青くぼんやりと光を放つ不思議な大空洞へと突入していく。
「これは…、ここだけ明るい??」
「綺麗ガル…!」
「僕も見せて見せてー!!わぁぁぁ!!青色の石がいっぱい!!」
青い光を発しているものの正体は、なんと無数に生えている岩に散りばめられた結晶だった。小さいながらも煌々と明るく照らすそれは、圧倒的な存在感を放っている。
死と隣合わせの真っ暗な世界に辺り一面の青い光。その幻想的な風景はナラク達を、ひとときの休息へと導いていった。
「ていうか、ここだけずっと真っ直ぐな道だからゆったりと景色見れるな」
「ねぇ〜!この広い所抜けたらまたあの地獄に戻るのかな……」
底の見えない遙か下より積み上げられた線路を頼りにして、トロッコは満点の星空を泳ぐように上へ上へと突き進んでいった。
ーーギギギギィ……
トロッコが前へ傾き始める。それは、あの地獄のジェットコースターが始まるための助走だった。
「「んぎぎぎっ!!うわぁぁぁあああ!」」
再び洞窟内にナラクとスラピーの絶叫が響き渡る。しかし今度は、しがみついている訳にはいかなかった。
「あれ??この先なんか分岐になってねぇ?」
なんと線路が二股に分かれ、行き先が二者一択という難題を待って、待ち構えていたのだ。
「どっちだ!?どっちにいけば正解なんだ!?」
「あわあわあわ!間違えたらドカン!とかない…よね??」
「分からないガル…!しかしそれは大いにあり得るガル!」
遠くに見えた分岐点は、すでに倍の大きさになっていた。天然の中央分離帯に吸い込まれるようにトロッコは真っ直ぐと突き進む。
(分岐点までの時間はもって数十秒ってとこか…、急いで右か左か決めねぇと)
「ナ…ナラク??何してるの??」
ナラクは手を伸ばして威力を極限まで弱めたフレム《初級火球呪文》を唱えた。放たれた小さな火球は分岐点の近くで粉塵を撒き散らし爆発する。
「よし!!左だァ!!全員左に寄れぇぇぇ!」
ナラクがそう指示を出すと、スラピーとガルラは迷わず左に寄った。すると、荷重をなくしたトロッコの右片輪がフワッと浮いた。
見事、左に進路を変え急なカーブを終えたトロッコは、一気に急上昇を始めた。
「なんでご主人様、進路分かったガルか??」
「たしかに!!何か手掛かりでもあったの!?」
スラピーとガルラは尊敬の眼差しでナラクを見つめ聞いた。
「さっき俺がフレムを放ったろ??その時に上がった粉塵が左へ流れていたんだ。空気の流れがあるってことは、少なくとも行き止まりでドカン!はねぇだろ!」
「ナラク素敵ぃぃぃぃ!!!!」
「ご主人様の観察眼…感銘しか受けないガル!」
「そんなに褒めんなよ…、お前ら。褒めたって毛に癖しか出ねぇぞ」
「「「わっはっは」」」
長い長い坂を登るトロッコの先に、一筋の白い光が見えた。それに近づくにつれて、辺りはどんどんと明るくなり始める。
それは、トロッコの超高速ツアーの終わりを意味していた。
「アレは外の光だろ!!ついに頂上かッ!!」
ナラクが高揚感に身を漂わせて叫ぶ。
「どんな景色なんだろう!!楽しみぃ」
「魔王軍は待っているガルか…!?」
その光に包み込まれるように今、トロッコは青空に向かって飛び出す。
「うおぉぉぉぉぉ!」
「外だあぁぁぁ!!」
久々に吸った外の空気は、透き通るほどに新鮮で青い味がした。
きっと地上より宇宙のが近いのだろう。上を見上げると、青空と呼ぶにはあまりにも濃く暗い紺色の空が広がっていた。
「わぁぁ!すごい!!雲が下に流れてるよ!」
「さすがエアマウンテンだな…、天国のが近いんじゃねぇか?」
「今の気分ならなんでもできそうガル…!」
三人はトロッコから降りると、普段決して見ることのできない絶景に圧倒され、身動きが取れなくなっていた。
「無事に辿り着いたか」
「「「!!」」」
声のする方に振り返ると、そこにはあの日、ナラク達をS級パーティから救い出したあの黒コートの男が立っていた。
「どうやら無事に辿り着いたようだな」
男はこちらに気づくとニヤリと笑みを浮かべながら歩いてきた。
「あんたが俺達を助けてくれたっていう魔王軍か!!本当に助かった…。ありがとう」
(俺は気を失っていたから初めて会うがこの男…、とてつもない力を感じるぞ…!?)
ナラクは聞きたいことがたくさんあったが、まずは窮地を救ってくれた礼を述べた。
「ほぉ…。見かけによらず礼節を弁えているのだな」
「まぁな…!命を助けてもらった恩人だしな」
「そーそー!あのときは本当に助かったよぉ!」
「改めて我からも礼を言うガル…!」
「ところで、なんで人間の俺を助けてくれたんだ??魔王軍って人間の敵じゃないのか??」
ナラクはずっと疑問に思っていたことを男にぶつけた。
「そうだな…。率直に言うと、お前のその『全ての魔物と話す力』が欲しいのだ」
「俺の固定スキルが??」
「あぁ…。人間界で疎まれ持て余しているその力がな」
「ってことは、やっぱり勧誘するために俺を助けたのか」
「そういうことだ。お前の心が完全に魔物に傾いているかどうか決めあぐねていたが、あの森で魔物のために強敵と命を投げ捨て戦う姿を見て、ようやく判断がついたのだ」
「なるそどねぇ…。あ!そういえば、あのカイとかいう《S級》の敵はどうなったんだ!?」
「残念ながら…、お互い致命傷を与えるまでに至らず決着が付かなかった」
「そうなのか…、じゃあまだ二ーナの仇は生きてるんだな……!」
ナラクは拳をギュッと握りしめる。
すると突如、無限に広がる雲海が爆ぜ、その中からとてつもない大きさのドラゴンが現れた。その背から生えている四本の翼で羽ばたきながら、それはこちらに近づいてくる。
「なな!!なんだあれはッ!!」
ナラク達は慌てふためきながら戦闘体制に入る。
「案ずるな。危害は加えんよ」
男がそう言うと、雲海より現れた黒いドラゴンは男のそばに静かに降り立った。
「さて、話の続きはこのドラゴンの上でしよう。しかし、行き先は我ら魔王軍が統治する魔界だ。もし、お前が人間を裏切り魔王軍と共に戦う決意があるというなら、このドラゴンの背に乗るがいい」
男は軽く跳躍すると、荒々しい鱗が生え揃っているドラゴンの背に乗った。
(俺から全てを奪ったのはいつだって人間だった…。そんな俺を魔物の奴らは必要としてくれている!今はっきりと分かった。本当の悪は『魔物』じゃなくて『人間』だろ!!)
ナラクも男に続き、ドラゴンの背に飛び移る。
「ふふ!!新たなる冒険だね!!魔界か〜!!どんな感じなんだろぉ!!ナラクと一緒ならどこでも行ける!」
「我もご主人様と共に行くガル!魔界…!!何が待ち受けているガルか…!」
スラピーとガルラも飛び込むように背に乗る。
「全員乗ったな…。向こうの世界での後戻りは死を意味することと心に刻み込め」
「人間のナラクはあの森で死んださ。今はもう人語を話せるだけの魔物だ…!」
「フッ…。いい意気だ」
男はドラゴンの首すじをポンと叩いた。すると、ドラゴンは辺りの空気全てを揺さぶるほどの咆哮ほうこうを放った。そして、四本の羽を一気に地面に叩きつけ、その巨体を浮かせた。
四人を乗せた漆黒のドラゴンは、新たな冒険の予感を引き連れて、深海のような色を放つ青空と同化するかのように空に溶けていった。
ーー「人」であることを捨て魔王軍に入ることを決意した一人の青年と二匹の魔物。
どこまでも続くような青空に響き渡るドラゴンの嘶きが、魔界を舞台にして人類最大の脅威へと成り上がる壮大な冒険の始まりを告げていた。
第1章 〜完〜
✨《第1章これで完結です》✨
11話まで駆け抜けることができたのは、ここまで読んでくださった読者の皆さんのお陰です!
読んで頂けるだけでも嬉しいのにハートやコメントお星様にレビューまで!!本当にありがとうございます!!
さて、第2章からは魔界を舞台にナラク達の大冒険の幕が上がります!!新たなる仲間に本格的に人間と敵対を始めるナラク。そして、だんだんと真価を発揮する《魔物使役》の能力。書きたいことがいっぱいですが、ゆっくり丁寧に執筆していきたいと思います!!頑張るぞー!✨✨




