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お腹が満たされたところで次に向かったのが雑貨店だった。私たちが買うのは野宿に使う毛布と空き瓶。もちろんその他にも色んなものがある。地域によって売っているものは異なるが、日用品などは大抵揃っているのだ。
「この毛布はどうですか?」
獣の皮を使ったものだろう柔らかい毛並みが気持ちのいい毛布を手に取ってシュルトさんに見せる。触った感じは暖かそうでいいと思うのだが、シュルトさんは首を横に振った。
「確かに暖かいですが、それを持って歩くには少々重いです。厚手でも丈夫で軽そうなものがいいですね」
ずらりと丸めて並べられている毛布の一角に却下された毛布を戻す。野宿などしたことがないので知識がない。教えてもらったことを加味しながら視線を動かす。
「あ、これ……」
ふと目に止まった毛布に手を伸ばす。薄い灰色のそれは、手に取ってみるととても軽い。ちらりとシュルトさんを窺うと正解というようにひとつ頷いた。
「やはりアンジェさんはものを見る眼がありますね」
実は王宮での武器防具選びも、いくつかは精巧に作られた粗悪品も混じっていたらしい。それを選んだらあとでこっそりと取り替えるつもりだったらしいが、どうやら私は当たりを引いていたようだ。
「それにしてもそんな抜き打ち試験みたいものするなんて王様はいい性格してますね」
あの狸野郎は私を無断で試したのか。多分、ヘクセさんも気がついてた。それでもなにも言わなかったってことは二人して私を試していたということになる。ヘクセさんはまあ許そう。けど、狸野郎は戻ったら一発殴る。
不敬罪なんか怖くない。最悪森まで逃げ切れば問題ない気がする。
逃げるが勝ち。敵前逃亡上等だ。
まあ、それは置いといて。
「あのお方は慎重な方でして、人を判断するためによくあのようなことをされるのです。私もこの剣を授かる時に同じ方法を使われました」
とんっと腰に帯びた剣の柄を叩く。シュルトさんの剣は一見装飾も少なく質素に見えるが、見る人が見れば相当な業物のようなのだ。曰く、この世で集められる最高の素材を使っているのだとか。
「まあそれでも私も少々怒りは覚えましたが……」
「それ、言ったら危ないですよ……」
「そうですね。けれど、今はいませんから」
忠誠は誓っていても盲目ではありません、とちらりと黒さが滲む神々しさで微笑んだ。
「人間ですからねえ。でないとやってけませんよね」
言いながらお墨付きをもらった毛布を二枚、シュルトさんに横から取られないよう胸に抱え会計に向かう。お金は王様から多少貰っているのでこれくらいは痛くもない。
「ぎ、銀貨一枚の……どどど、銅貨三枚にな、なななります!!」
後ろのシュルトさんを見てゆでだこ状態で噛み噛みの店員さんにお金を払い、店を出た。荷物は満面の笑みのシュルトさんに奪われてしまった。
「次は硝子工房に行きたいです。空の瓶を買いたいので……」
「硝子工房に売っているんですか?」
驚いたようにシュルトさんが目を見張る。彼の驚き顔にちょっとしてやったりと思う。私は笑ったまま、ヘクセさんに教えてもらったことを説明した。
「硝子工房には商品にならない瓶が何本もあるんですよ。そこに目をつけたのが薬屋を営む人たちです。硝子工房は値のつかない商品が売れる、薬屋は頻繁に使う瓶が安く手に入るで良い商売になったようで。今では当たり前なのです」
「それは知りませんでした……」
「まあ……でも。高級店は違いますけどね。あそこは効能も見た目も重要ですから」
ヘクセさんは薬さえ入れられればなんでもいいという考えなので、繊細な硝子細工の瓶を選ぶことはほとんどない。ただ貴族にも繋がりはあるのでその際には使ったりもする。そのために地下室の奥の奥に仕舞われているのを見たことがある。
その時は思わずため息がでるほど美しかった。けれど今、感動の記憶すら霞むほどの存在が隣にいるわけで。形にはできても感情までは蘇ってこなかった。
「嬢ちゃんみたいな若い子が自立してるなんざあ驚きだなあ。しかもこんな綺麗な兄ちゃん連れて。似てないが、兄妹かい?」
硝子工房を尋ねれば、快く大量の瓶を売ってくれた。しかも破格の値段で。ちょうど薬屋が買いに来る周期と被らなかったようだ。思ったよりの収穫でほくほく顔の私に、硝子工房の親方は焼き菓子を差し出しながら太い笑みを見せた。
「いいえ、私は彼女の護衛ですよ」
「へえ。嬢ちゃんは薬師だろ? 組合に依頼しないのか?」
「自分の目で薬草を見て使えるかどうか決めたいので……」
もらった焼き菓子をその場で食べながら答えれば、親方は一瞬目を見張った後、豪快に笑った。厳しい顔だけど笑うと愛嬌があって良い人なのだろうと感じられる。
「しっかりしてるな! 俺は気に入ったぜ!よし、嬢ちゃん。これから別の硝子工房に寄る時は俺の名前を出しな。そうすりゃ瓶をいくらでも融通してもらえるだろうよ」
ザガルタと名乗った親方は、その筋では有名な人らしい。こじんまりとした工房からは到底想像はつかないが、硝子工房を経営する多くの人は親方の元から巣立ったという。
「おお! ありがとうございます!」
とても魅力的なお言葉に、私は思わず両の拳を握って首を縦に振っていた。
「綺麗な兄ちゃん。きちんとこの嬢ちゃん守るんだぞ」
「それが役目ですから。傷ひとつつけさせません」
「わはははっ! その心意気だぜ!」
ぐしゃぐしゃと私の髪をかき混ぜ、さらに焼き菓子を追加してくれた親方にお礼を言って硝子工房を後にする。
「よかったですね、アンジェさん」
「思わぬ収穫でした! これでお金が節約できます!」
そこ、守銭奴とか言わない!
節約できるならしといて損はない。いくら多くもらっているとはいえ、何が起こるか分からない。この世界に銀行もATMも存在しないのだから、必要な時に、ちょっと下ろしてくる!なんて出来ないのだ。
「これで揃いましたね。そろそろここを出なければ……」
町の関所を無事に抜け、馬車が通れるように舗装された道など無視して森に踏み込む。迷いの森ほどではないにせよ、ここも相当入り組んでいるそうなので気を引き締める。
「あ、小人族……ってあなたたち、着いて来ちゃったの!?」
ちらちらと足元に動くものがいると思ったらなんと小人族だった。しかも見覚えのある布地の服を着ていた。うん、間違いなく迷いの森にいた子達だわ。
『アンジェさんには恩があるからね! 森と名のつくものは僕らのお家だし!』
だから案内は任せろ、と私の両手のひらに乗った小人族の代表は胸を張った。あまりの可愛さに人差し指で彼の頭をぐりぐり。
「かーわーいーいー。もう、服を作っただけでそんなに恩義なんて感じなくていいんだよ?」
『それだけじゃないよ! いままでより大きな獲物を狩れるようになったし、保管できる期間も長くなった!』
ただ罠に引っ掛けて一斉に叩け、木の実やなんかは日陰のできるだけ涼しいところに置くことくらいしか言ってない。それでここまで感謝されるのは過剰な気がした。
「人間には少しの知恵も、小人族にとっては恩恵なんでしょうね」
私と同じように屈んで彼らを見つめたシュルトさんの言葉に、手のひらの小人はうんうんと大きく頷いた。
『それで、アンジェさんたちはどこに行くの?』
わらわらと私の肩や頭に乗っかってきた小人族達に森を抜けた先の町まで、と告げる。それでどこかわかったらしく、鬱蒼と茂った森の中を指差した。
『ここから抜けて行くといいの! 暗いけど魔物も獣のも少ないから比較的安全だよ!』
と、言われてから数時間。
「嘘つきいいいい!!」
魔物の群れに追いかけられております。




