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異世界北海道 夫を探して異世界へ来たら、夫にはもう妻がいました ~食堂酒場を開き、幸せになります~  作者: 雫石しま


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第73話 生姜収穫

 九月上旬――。


 畑には、秋の気配が少しずつ訪れていた。


 夏の勢いは和らぎ、白樺の葉もところどころ黄色く色づき始めている。


 爽やかな風が畑を渡り、生姜畑の葉をさらさらと揺らした。


「いよいよね」


 私はしゃがみ込み、生姜の株元に敷いていた藁へ手を伸ばす。


 春にテオと一緒に植えた三株。


 あれから毎日様子を見守り、水をやり、雑草を抜き続けてきた。


 収穫の日が、ようやくやってきたのだ。


「おはようございます」


 振り向くと、麻袋を肩に掛けたテオが歩いてくる。


「おはようございます!」


 私は笑顔で手を振った。


「今日は生姜の収穫ですね」


「はい!」


 八匹のヴェダーたちも葉っぱを揺らして飛び跳ねる。


「ヴェダー!」


 シマエナガも木の枝から顔を覗かせ、


「ジュリッ」


 と嬉しそうに鳴いた。


「それじゃあ始めましょう」


 私は株元の藁を一枚ずつどけていく。


 カサカサ。


 乾いた音が朝の畑へ響く。


 その時だった。


 モゾッ。


「……え?」


 黒く細長いものが土の中から顔を出した。


 くねり。

 くねり。


「きゃあっ!」


 思わず悲鳴を上げる。


 驚いて後ろへ飛び退こうとした。


 足がもつれる。


「あっ!」


 体が後ろへ倒れる。


 その瞬間だった。


「危ない!」


 ぐいっと腕を引かれた。


 気付けば私は、誰かの腕の中にいた。


「……」


「……」


 テオだった。


 倒れそうになった私を、とっさに抱き止めていた。


 右手は私の背中。


 左手は肩をしっかり支えている。


 近い。


 思った以上に近い。


 銀縁眼鏡の奥の瞳が、驚いたように私を見つめていた。


「す、すみません!」


 テオは慌てて腕を離す。


「い、いえ!」


 私も真っ赤になって飛び退いた。


 二人とも耳まで赤く染まっている。


 気まずい沈黙が流れた。


「ヴェ……」


 足元を見ると、ヴェダーたちまで葉っぱを真っ赤に染め、両手で顔を隠していた。


「ヴェダー……」


「あなたたちまで照れなくてもいいでしょう」


 思わず笑ってしまう。


 その笑いにつられ、テオも小さく笑った。


「驚かせてしまいましたね」


「実は……」


 私は土を指差した。


「ミミズが苦手で」


 テオはしゃがみ込み、土の上を這うミミズを見つめる。


「土が元気な証拠ですよ」


「分かってはいるんですけど……」


 苦笑すると、テオも優しく頷いた。


「では、こちらは私がやります」


「ありがとうございます」



◇◇◇



 株元をそっと掘り起こす。


 テオがスコップで土を緩め、私は葉を持ってゆっくり引き上げる。


「よいしょ……!」


 ズルッ。


 土の中から黄金色の塊が姿を現した。


「わぁ!」


 思わず歓声が上がる。


 握り拳よりも大きな生姜。


 ごつごつと枝分かれし、艶やかな薄茶色の肌をしていた。


「大きい!」


 爽やかな香りがふわりと立ち上る。


 私は嬉しくて何度も眺めてしまう。


「立派に育ちましたね」


 テオも嬉しそうだった。


 続いて二株目。


 三株目。


 掘れば掘るほど、生姜が次々と姿を現す。


 木箱いっぱいになるほどの収穫だった。


「こんなに採れるなんて」


「予想以上です」


 テオは一本手に取り、重さを確かめる。


「品質も申し分ありません」


 ヴェダーたちは生姜を一本ずつ抱えて行進を始めた。


「ヴェダー!」


 その姿がおかしくて、私は声を上げて笑った。


 シマエナガも、


「ジュリッ!」


 と羽を広げて畑の上を一回りする。


 秋の風が二人の間を優しく吹き抜けた。


 テオは収穫した木箱を見つめながら静かに言う。


「これだけ収穫できるなら……」


 眼鏡を押し上げ、穏やかに微笑んだ。


「来年は栽培をもっと拡大しましょう」


 私は大きく頷く。


「はい!」


 胸の奥がわくわくする。


 来年はもっとたくさん。


 豚丼も。


 スープカレーも。


 生姜焼きも。


 この異世界北海道へ、まだ誰も知らない美味しい料理を届けられる。


 私は収穫したばかりの生姜をそっと胸へ抱きしめた。


 秋の実りの香りが、二人の間に静かに広がっていた。

お読みいただきありがとうございます


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