表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界北海道 夫を探して異世界へ来たら、夫にはもう妻がいました ~食堂酒場を開き、幸せになります~  作者: 雫石しま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
56/96

第56話 あんかけご飯とテオの笑顔

 朝日が鶏小屋の屋根に椎木の影を作る。


「チョボ、おはよう」


「コケッ」


 鶏たちが餌を求めて首を振りながら周りに集まってくる。


 白い卵が三個、まだ生温かい。


「ありがとう、もらうね」


 掌に乗せると、命の温もりがじんわりと伝わってきた。


 チョボは得意そうに胸を張り、「コッコッ」と鳴く。


 新しく仲間になった雌鶏たちも、負けじと辺りを歩き回り、藁の上へちょこんと腰を下ろした。


「今日も頑張ってね」


 餌を器へ入れてやると、一斉に夢中で啄み始める。


 ヴェダーたちは金網に張り付き、その様子を食い入るように見つめていた。


「ヴェダー!」


 茶色のヴェダーは、鶏たちの真似をして首を上下に振っている。


「ふふっ、卵は産めないわよ」


 思わず笑ってしまった、その時だった。


 背後に人の気配を感じた。


「爽子さん、おはようございます」


「……テオさん」


 振り返ると、麻袋を肩に提げたテオが立っていた。


 朝日に照らされた銀縁眼鏡がきらりと光る。


「おはようございます。今日はどうされたんですか?」


「米糠があったので......鶏の餌にどうかと思って持ってきました」


 そう言って少し照れくさそうに笑う。


 テオさんの表情は以前より表情が柔らかくなった気がする。


「ちょうど卵が採れたところなんです」


 私は掌の卵を見せた。


「新鮮ですね」


「せっかくだから、朝ごはん、ご一緒しませんか?」


「ご迷惑では……」


「もちろん大歓迎です」


 そう言うと、テオは少しだけ頬を赤く染め、小さく頷いた。


「では、お言葉に甘えて」


 厨房へ戻ると、ヴェダーたちが椅子によじ登って待っている。


 シマエナガも窓辺へ降り立ち、「ジュリッ」と鳴いた。


「今日は卵あんかけを作るね」


「ヴェダー!」


 まず寸胴鍋にブイヨンを入れて温める。


 昨日仕込んでおいた野菜の出汁は、黄金色に澄んでいた。


 玉ねぎを薄く切り、人参を細切りにする。


 しいたけによく似た森きのこも細かく刻む。


 フライパンで軽く炒めると甘い香りが立ち上った。


「いい香りですね」


 テオが鍋を覗き込み、小さく呟く。


「ここへスープを入れて……」


 コポコポと音を立てながら鍋が煮立つ。


 塩をひとつまみ。


 胡椒を少々。


 そこへ、昨日作ったコーンスターチを水で溶いて少しずつ流し入れる。


 木べらでゆっくりとかき混ぜると、さらさらだったスープが少しずつ艶を帯び始めた。


「とろみがついてきましたね」


「ここが大事なんです」


 ぐつぐつと小さく沸いたところで、溶き卵を細く流し入れる。


 ふわり。


 黄金色の卵が花びらのように広がった。


「すごい……」


 テオが思わず声を漏らす。


「火を止めるのが少し早いくらいが、卵が柔らかく仕上がるんです」


 最後に刻んだ青ねぎを散らす。


 湯気の向こうで、鮮やかな緑が揺れた。


「出来ました」


 炊きたてのご飯を木の器によそい、熱々の卵あんをたっぷりとかける。


 黄金色の餡が艶やかに流れ落ち、湯気と一緒に優しい香りが広がった。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


 テオは木のスプーンを手に取り、恐る恐る口へ運ぶ。


 ふうっと息を吹きかけ、一口。


 とろり。


 優しい餡が舌を包み込み、ふわふわの卵がほどける。


 野菜の甘みとブイヨンの旨味が、ご飯一粒一粒に絡みついていた。


「……美味しい」


 思わず漏れた一言だった。


 テオはもう一口、さらにもう一口と止まらなくなる。


「卵料理なのに、とても贅沢ですね」


「卵が新鮮だからですよ」


「この、とろみも不思議です」


「コーンスターチで作ったんです」


「コーンスターチ?」


 スプーンを口に運ぶ手が止まる。


「デントコーンを砕いて粉末にしました」


「デントコーンですか......なるほど……面白いですね」


 テオは感心したように何度も頷いた。


 ヴェダーたちも小皿を抱え、夢中で卵あんを頬張っている。


「ヴェダー!」


 シマエナガも器を覗き込み、「ジュリッ」と嬉しそうに鳴いた。


 窓の外ではチョボたちがのんびりと土をつついている。


 初夏の風が椎木の葉を揺らし、木漏れ日が食堂へ差し込んだ。


「爽子さん」


「はい?」


「ここへ来ると、料理だけじゃなくて……心まで温かくなります」


 その言葉に、私は少し照れながら笑った。


「それなら、この店を始めた甲斐がありました」


 テオも穏やかに微笑み、器の最後に残った卵あんをすくい取って、名残惜しそうに味わうのだった。


*・゜゜・*:.。..。.:*・'お読みいただきありがとうございます'・*:.。. .。.:*・゜゜・*


みなさまの『⭐︎』や『スタンプ』に励まされています

これからもどうぞ爽子の旅路を見守ってください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ