第53話 なければ作ろうコーンスターチ
新しい料理を考えていると、一つ欲しいものがあった。
「片栗粉があればなぁ」
とろみを付けたり、揚げ物をさくっと仕上げたり。
日本では当たり前に使っていたけれど、この世界では見かけない。
もちろん、馬鈴薯から作る方法もある。
でも、大量のじゃがいもが必要になる。
「そういえば」
市場で見掛けたデントコーンを思い出した。
家畜の飼料として売られている、粒の硬いとうもろこしだ。
「コーンスターチみたいに作れないかな」
まずは道具が必要だ。
◇◇◇
市場ですり鉢とすりこぎを探した。
日用品の露店で、おばさんが店の奥から探してきてくれた。
「これならどうだい?」
どっしりとした石のすり鉢だった。
すりこぎは白樺の木で作られている。
「わぁ」
思わず持ち上げる。
「しっかりしてる」
「昔はよく木の実を潰すのに使ってたんだけどねぇ」
おばさんは懐かしそうに笑う。
「最近は若い人が買わなくなっちゃって」
「ちょうど探してたんです」
「そうかい?」
おばさんは嬉しそうに目を細めた。
「大事に使っておくれ」
「はい」
私はお礼を言って買い求める。
帰り道、荷車の上のすり鉢を撫でながら考えた。
「うまくできるかな」
「ヴェダー!」
ヴェダーたちは「きっと大丈夫」と言うように葉っぱを揺らした。
◇◇◇
翌朝。
市場で買っておいたデントコーンを木桶へ入れる。
まずはたっぷりの水へ浸した。
「今日はここまで」
一晩ゆっくり吸水させる。
翌日。
粒は少しだけ柔らかくなっていた。
「よし」
私はすり鉢へデントコーンを少しずつ入れる。
ごり、ごり、ごり。
すりこぎで丁寧に潰していく。
「けっこう力がいる」
硬い粒が少しずつ砕け、白っぽい粒になっていく。
「ヴェダー!」
一匹のヴェダーも挑戦する。
ところが。
ごりっ。
すりこぎが重すぎて、そのまま後ろへひっくり返った。
「ヴェダー~!」
「あはは!」
思わず笑ってしまう。
「これはまだ早いかな」
他のヴェダーたちが起こしてあげる。
「ヴェダー!」
「ありがとう」
私は砕いたデントコーンへ水を加え、さらにすり潰していく。
どろどろになったところで、布袋へ移した。
「ここからが大事」
両手でゆっくり絞る。
白く濁った液が木桶へ落ちていく。
「これだ」
何度か水を加えながら揉み洗いすると、液はますます白くなった。
残った繊維は別の籠へ移す。
「これはパンに混ぜてもいいかも」
無駄にはしない。
木桶の中の白い液は、そのまま静かに置いておく。
「待つだけ」
しばらくすると。
上の水は少しずつ透明になり始めた。
「おっ」
底を見ると、白いものがゆっくり沈んでいる。
私は息をのんだ。
「もしかして」
そっと上澄みだけを捨てる。
底には、真っ白な泥のようなものが残っていた。
指先で少し触ってみる。
きめが細かく、とてもなめらかだ。
「これって……」
少しだけ水で溶き、小鍋で温めてみる。
木匙で混ぜる。
くるくる。
すると、白かった液が少しずつ透き通り始めた。
「わぁ!」
とろり。
木匙を持ち上げると、ゆっくりと糸を引く。
「できた!」
私は思わず飛び上がった。
「コーンスターチ!」
「ヴェダー!」
八匹が葉っぱを揺らしながら飛び跳ねる。
シマエナガまで「ジュリッ」と嬉しそうに鳴いた。
「乾かせば保存もできそう」
私は木皿へ薄く広げ、風通しの良い棚へ並べる。
真っ白な粉になれば、炒め物にも、とろみ付けにも、揚げ物にも使える。
頭の中には、新しい料理が次々と浮かんでくる。
「あんかけも作れるし」
「野菜のとろみ煮もいいな」
「ヴェダー!」
ヴェダーたちも期待するように葉っぱを揺らした。
ヴェダー亭の台所に、また一つ新しい食材が加わった。
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