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異世界北海道 夫を探して異世界へ来たら、夫にはもう妻がいました ~食堂酒場を開き、幸せになります~  作者: 雫石しま


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第52話 新しいメニュー

 畑のトマトは大好評だった。


 市場へ持って行けば、籠いっぱいに積んだトマトが昼前には売り切れてしまう。


「爽子ちゃん、また持ってきてね」


「はい!」


 そんなやり取りも、すっかり日常になっていた。


 ヴェダー亭へ戻り、真っ赤なトマトを籠から一つ取り出す。


「せっかくだし」


 ころりと手のひらで転がす。


「ラーメン以外にも何か作れないかな」


「ヴェダー?」


 八匹のヴェダーが首を傾げた。


「トマトを使った新しい料理」


「ヴェダー!」


 葉っぱが一斉に揺れる。


 どうやら賛成らしい。


「よし」


 私は腕まくりをした。


 まずは一番簡単なものから。


「いただきます」


 完熟トマトを湯むきし、小さく切る。


 玉ねぎをみじん切りにして、オリーブオイルでじっくり炒める。


 そこへトマトを加え、木べらでゆっくり潰していく。


 ぐつぐつ。


 赤いソースが少しずつまとまってきた。


「いい香り」


 塩をひとつまみ。


 庭で育てたバジルを刻んで加える。


 爽やかな香りがふわりと立ち上った。


「ヴェダー!」


 ヴェダーたちも鼻をひくひくさせている。


「味見してみよう」


 木匙で一口。


「あっ」


 思わず笑顔になる。


「美味しい」


 トマトの甘みと酸味。


 玉ねぎの甘さ。


 バジルの香り。


 どれも喧嘩せず、優しい味にまとまっていた。


「これなら」


 パンに乗せても美味しそう。


 でも、この世界ではパンはまだ贅沢品だ。


「もっと手軽な料理がいいよね」


 私は考え込む。


 その時。


「ジュリ」


 シマエナガが窓辺から鳴いた。


 視線の先には、大きなじゃがいもが籠に入っている。


「じゃがいも……」


 そうだ。


「いただきます」


 私はじゃがいもを薄く切り、鉄鍋でこんがり焼き始めた。


 表面がきつね色になったところで、先ほどのトマトソースをたっぷりとかける。


 最後にチーズを乗せ、蓋をする。


 しばらく待つと。


 とろり。


 チーズがゆっくり溶け始めた。


「これは絶対美味しい」


 取り分けて一口。


 ほくほくのじゃがいも。


 甘酸っぱいトマト。


 とろけるチーズ。


「うん!」


 思わず大きく頷く。


「これ、メニューにしよう」


「ヴェダー!」


 七匹が拍手を始める。


 茶色いヴェダーはくるくる回って喜んでいた。


 翌日。


 店の入口へ新しい木札を掛ける。


 本日のおすすめ

 とろけるチーズのトマト焼き


 開店して間もなく、常連のおじさんが木札を見上げた。


「新しい料理かい?」


「はい」


「畑で採れたトマトを使ってます」


「じゃあ一つ頼もう」


「ありがとうございます」


 焼きたてを運ぶと、おじさんは興味津々で眺める。


「これが新作か」


「熱いので気を付けてください」


 一口食べた。


 はふっ。


 少し熱そうにしながらも、目を丸くする。


「これは美味い!」


 その声で店中のお客さんが振り向いた。


「トマトが甘い!」


「じゃがいもとも合うな」


「チーズがいい仕事してる」


 次々と注文が入り始める。


「こっちにも一つ!」


「私も!」


「はい、少々お待ちください!」


 私は嬉しくなって厨房を走り回る。


 ラーメンだけじゃない。


 畑で育てた野菜も、料理になってお客さんを笑顔にしてくれる。


 それが何より嬉しかった。


 閉店後。


 テーブルに残った空のお皿を見て、私は小さく笑う。


「全部食べてくれた」


 トマトソースも一滴残っていない。


 茶色いヴェダーは少しだけ残念そうに空のお皿を覗き込んだ。


「ヴェダー……」


「あはは」


 私はその頭を撫でる。


「今日は出番なかったね」


「ヴェダー」


 少しだけしょんぼりする茶色いヴェダーに、みんなが葉っぱを揺らして笑う。


 その笑い声につられて私も笑った。


 ラーメンから始まったヴェダー亭。


 今では畑の恵みも加わり、少しずつ料理の種類が増えていく。


 私は窓の外の夕焼けを眺めながら、新しい献立帳を開いた。


「次はどんな料理を作ろうかな」


 そう考える時間も、今の私にとっては幸せなひとときだった。


*・゜゜・*:.。..。.:*・'お読みいただきありがとうございます'・*:.。. .。.:*・゜゜・*


みなさまの『⭐︎』や『スタンプ』に励まされています

これからもどうぞ爽子の旅路を見守ってください

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