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異世界北海道 夫を探して異世界へ来たら、夫にはもう妻がいました ~食堂酒場を開き、幸せになります~  作者: 雫石しま


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第51話 歌うトマト

 茶色のヴェダーが生み出すペレットの効果は、私の想像を遥かに超えていた。


 テオに教わった通り、細かく砕いて畑へ少しずつ混ぜていく。


 撒き過ぎはよくない。


 土の様子を見ながら、少しずつ。


 少しずつ。


 それから二週間ほど経った頃だった。


「わぁ……」


 思わず声が漏れる。


 畑いっぱいに実ったトマトが、朝日に照らされて宝石のように輝いていた。


 まるで磨き上げたルビー。


 つやつやとした赤い実が葉の間から顔を覗かせている。


 一つ手に取り、そっと鼻を近付ける。


 完熟した甘い香り。


 それでいて、トマトらしい爽やかな青い香りもしっかり残っていた。


「いい匂い、いただきます」


 一口かじる。


 ぷちっ。


 皮が弾けた瞬間、甘い果汁が口いっぱいに広がる。


「甘い!」


 でも、それだけじゃない。


 後からトマトらしい爽やかな酸味と香りが追いかけてくる。


 味がぼやけていない。


「美味しい……」


 思わずもう一口。


 気付けば一個、その場で食べ切ってしまった。


「ヴェダー!」


 茶色いヴェダーが得意そうに胸を張る。


「あはは」


「あなたのおかげでもあるね」


「ヴェダー!」


 葉っぱをぶんぶん揺らして喜んでいる。


 その時だった。


「♪さわっこの畑で獲れたトマト♪」


「……え?」


 耳を疑った。


「♪まっかっかー♪」


「♪あまいよー♪」


 歌っている。


 畑いっぱいのトマトが、小さな声で歌っている。


「ええっ!?」


 思わず周りを見回す。


 ヴェダーたちは当たり前のように頷いていた。


「ヴェダー」


「知ってたの?」


「ヴェダー!」


 元気よく返事をする。


 どうやら植物が歌うのは、この子たちにとって普通らしい。


 シマエナガまで首を傾げながら聞き入っている。


「ジュリ」


 その日から。


 朝になると畑では可愛らしい歌声が聞こえるようになった。


「♪さわっこの畑で獲れたトマト♪」


「♪みんな食べてねー♪」


「♪おいしくなったよー♪」


 あまりにも楽しそうなので、私まで笑顔になってしまう。


◇◇◇



 収穫の日。


 真っ赤に熟れたトマトを籠いっぱいに詰め、トーカチーの市場へ運ぶ。


「今日はトマトも販売しまーす!」


 声を掛けると、市場の人たちが集まってきた。


「あら、爽子ちゃん」


「野菜も売るのかい?」


「はい!」


 籠から一つ取り出して見せる。


 つやつやと光る赤いトマトに、周囲から感嘆の声が上がった。


「綺麗な色だねぇ」


「本当だ」


「宝石みたいだ」


 一人のおばあさんが一つ買い、「いただきます」と呟き、その場でかじる。


 しゃくっ。


 しばらく噛んでから、目を丸くした。


「甘い!」


「でしょう?」


「でもちゃんとトマトの味がするよ!」


 その声を聞いた人たちが次々と手を伸ばす。


「私にも一つ!」


「こっちにも!」


 あっという間に人だかりができた。


 その頃。


 ヴェダー亭の畑にも、町の人たちが集まっていた。


「あれはなんだい?」


 一人のおじさんが、畑を不思議そうに覗き込んでいる。


 ちょうどその時も。


「♪さわっこの畑で獲れたトマト♪」


「♪まっかっかー♪」


 トマトたちは陽気に歌っていた。


「歌ってる……」


「畑が歌ってるぞ」


「初めて見た」


 みんな目をぱちくりさせている。


 私は少し照れながら笑った。


「ギルドのテオさんから教えてもらって、肥料を撒いたんです」


「肥料?」


「はい」


 詳しいことは私にも分からない。


 でも、茶色いヴェダーのペレットを土へ混ぜてから、畑は見違えるように元気になった。


 土はふかふかになり、野菜たちは生き生きと育つ。


「すごい肥料なんだねぇ」


「ええ」


 私は頷いた。


「きっと土が喜んでくれたんだと思います」


 その足元では、茶色いヴェダーが少し照れくさそうに葉っぱを揺らしていた。


 もちろん、その秘密を知っているのは私とテオだけ。


 テオは「むやみに広めると大騒ぎになりますから」と笑っていた。


 私もその意見に賛成だった。


 茶色いヴェダーは、大切なヴェダー亭の家族。


 だから今日も、その小さな秘密を胸にしまいながら、私は真っ赤に実ったトマトを町の人へ手渡した。


「ありがとうございます!」


「また来ます!」


 笑顔で帰っていくお客さんを見送りながら、畑では今日も元気な歌声が風に乗って響いていた。


「♪さわっこの畑で獲れたトマト♪」


「♪また大きくなるよー♪」


*・゜゜・*:.。..。.:*・'お読みいただきありがとうございます'・*:.。. .。.:*・゜゜・*


みなさまの『⭐︎』や『スタンプ』に励まされています

これからもどうぞ爽子の旅路を見守ってください

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